第29話 変化には対応が必要である!
「なるほどな、そんなことが起きていたのか……」
「なんていうか、学園長も
「うん、式神を同級生にするなんて凄く思い切ったことだよね。噂が広まったらマスメディアとかがきてもおかしくないよ。……でも、安綱はいいの? 責任ってきっと何かあったら退学、とかってことだよね?」
「
「確かに、義兄さんと違って午前中の授業は全て真面目に受けていらっしゃいましたね」
誰のせいで集中出来なかったと思っているだぁ……!
「まあ、俺は自分の直感を信じるよ。きっと
「そなた……」
きらきらと嬉しそうに顔を綻ばせ、眼を嬉し涙で濡らした雫が見つめてくる。
「迷惑な存在だとも信じているけどね」
「
先ほどとは別の悲しい涙で瞳を濡す雫が、身を乗り出し突っ込んでくる。
一切視界に入れずスルー。
「あ、耳を塞ぐでないわ!! こら、こちらを向かんか、この……!」
両手で耳を塞ぎ聞こえませんのポーズ。
必死に剥がしにかかる雫だが、全く力が足りていない。
この程度の力ならば、人の姿の時は大きな問題は起こせないだろう。
「安綱は、いい人、優しい人」
それまで沈黙していた薄緑が口を開いた。
流石に姫殿下の言葉を遮るわけにはいかないのか、級友達は傾聴している。
雫は職権を乱用して無理矢理正座させておいた。
余計な口を出さないように命令――御願いして。
ええ認めましょう、これがパワハラです。
「だから、不幸になっちゃ駄目」
「
「呼び方」
「う……いや、しかしここは
「約束」
「……うす、みどり」
「ん」
薄緑は普段あまり変わらない表情を途端に満面の笑みに変え頷いた。
これには級友や長光も驚いたようだ。
「姫殿下がこんなにも笑うなんて……」
「か、可愛い……」
「な、なんだこの胸を刺すような痛みは。――
「義兄さんの妄想話ではなかったのですね……」
「長光、まだ信じてくれていなかったのか……」
薄緑はやはり
なんだか薄緑に気安く接するのが一番危険で、ともすれば不幸に繋がりそうな気もするのだが……それを口に出したら薄緑が悲しむだろう。
ここは彼女の意思を尊重するか。
「俺は不幸になる気はないよ。それどころか、幸せになると思う。薄緑にも信じて欲しい」
「ん……安綱は、嘘をつかなそうな、気がする。……友達だから、信じる」
「ありがとう」
薄緑の言葉が
「もう飯を食べよう。時間がない」
「あ、ああ。そう、だな」
俺の言葉に金平や級友達は戸惑いながらも食事を始めた。
「……義兄さんが、姫殿下のお友達」
長光の細く消えていくような呟きが聞こえたのは、俺だけだったのかも知れない。
口を封じられながら正座させられている雫が、がたがたと
俺は雫への命令を解き、自分も級友達同様、食事をとるのであった――。
「――それでは、第一回浅井家緊急家族会議を開始します」
そう言って眼鏡をクイっとかけ直したのは、長光。
どう考えても伊達眼鏡だが、赤縁の眼鏡が妙に似合っている。
なんというか、えっちなビデオに出てくる家庭教師のようだ。
座っているのは義父母、雨雫、俺の四人。
食卓には合計四枚のA四用紙。タイトルには
一応書式を調べながら作成したのだろう。
たどたどしさは残るものの形にはなっている。
主題は『同居人の待遇と役割分担について』。
……どう考えても雨雫のことです。
当人は楽しそうな表情で腕を組み、事の成り行きを見守っている。
「それではお手元の資料をご覧になりながらお聞き下さい」
俺は言われた通り
これを稟議書と呼ぶのは一体どうかとは思うが、一生懸命作成したのであろうことは伝わってくる。
これほど微笑ましく、嫌な思いや重圧を感じない会議は初めてだ。
「そちらに書いてあるように、本日よりこの浅井家に同居人が増えます。義兄さんの式神ではありますが、女性が増えます! 当然、配慮や準備、新たなルール作りが必要です」
なるほど。
初対面では無機物の太刀としての印象があるため全く考えていなかったが、雨雫は女性である。
そう考えればプライバシーへの配慮は当然必要であろう。
「変更内容はお手元の資料の通り、雨雫さんの居室、そして私達の入浴順。そして新たに家族での家事分担を提案します」
長光の提案した内容を大きく纏めると、次の様な内容であった。
一つ、雫さんの居室は長光と同室とし夜間の異性(特に義兄さん)の部屋への訪室は原則として禁ずる。
一つ、入浴は原則として女性、男性の順とする。基本的には長光、雨雫、母、父、安綱の順とし、必ず前の人物が入浴を終えているかを確認する(特に義兄さん!)。
一つ、同居人が増えることによる母や父の負担増を考慮し家事分担を行う。
内訳は下記参照。
長光:食事準備及び片付け、洗濯。
雨雫:長光の業務補佐。
安綱:ゴミ出し、浴室清掃。
以上。
ふむ。
随分――俺を警戒している内容だよね?
―――――――――――
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