第25話 綺麗に取り繕ってもねぇ?

「しかし私はこうも思います。そですり合うも多生たしょうえん。ましてや初めての式神召喚において雨雫あめのしずくと私が出会ったことには、必ず何か意味があると思います。そして、それは学園長自身も仰っていたように大切にするべき絆だと思うのです。何卒なにとぞ寛容かんような処置を御願いいたします」


 そう言葉を紡ぎ俺は頭をすっと下げた。


 俺の言葉は学園長に届いただろうか。

 表情を変えない学園長からはどんな返答がくるか予想がつかない。


 隣に座る雨雫あめのしずくは瞳をきらきらさせて感動しているようだ。

 本音とまえがあるというのに、雨雫あめのしずくは思っていたよりも純粋な女性なのかもしれない。


浅井君あざいくんの意見はよくわかった。――それでは、雨雫あめのしずくさんがどのようにお考えかお聞きしてもよろしいですかな?」


 学園長に促された雨雫あめのしずくはうむと一度頷くと、席を立ち学園長室を歩き始めた。


此方こなたはそこの男、浅井安綱と尊い契約を交わした。――誇り高き神霊しんれいと、勇気ある陰陽師が、である」


 ――いや。何を綺麗に言ってるの?


 お前のいみなを無理やり見て、強引に契約を結んだようなもんだけどね?

 ひどいもんだったぞ、あの一連の流れは。


 学園長も一連の流れを監視カメラで観ていただろうに、突っ込まず真摯しんしに傾聴しているあたりさすがである。


「この男の呪力や事象への干渉力かんしょうりょく、陰陽師としての能力はとても此方こなたと契約するに能わず」


 俺も学園長も少し身を固く、表情を険しくさせた。


「……しかし、だ」


 間を取った雨雫はくるりとこちらを向くと、片手を上げさらに言葉を続けた。


「――この男の魂は実に面白い。そしてこの男の気質は勤勉であり、此方が手助けをしてやることにしよう」


 ふっとどや顔で笑った雨雫あめのしずくが俺の方を見つめる。


 いや別に感動はしないし、どんな反応を期待しているというのか……。

 というか魂って。

 もしかして――俺がこの世界で生きてきた人間じゃないって、ばれてる?


「……なるほど、わかりました。しかし常識的に考えて、太刀たちは普段から持ち歩くには危険なため校内での帯刀・・・・・刀である貴女が構内にいることは、許可できません」


「え」


 学園長の返答にどや顔をしていた雨雫が固まった。


 やがて顔が腫れ上がるように紅潮こうちょうする。

 うわぁ……、これは恥ずかしい。

 恥ずかしいねぇ~。


「しかしながら、現在の貴女のお姿で女生徒として学園に通われるのであれば、話は別です。貴女は人に危害を加えるようなことはしませんか?」


「む、無論である!」


「浅井君はどうでしょうか。もし雨雫あめのしずくさんが問題を起こせば、それは君の管理責任となります。それでもよいでしょうか」


「――え……。ちょっと考えさせていただいてもよろしいですか?」


「何故だ!? 大丈夫である! 此方こなたは問題なんぞ起こさぬ!」


 ぎゃあぎゃあと雨雫が文句を言う。

 威厳など霧散し消え去った。


 そう言う問題ではないのです。

 大人は責任の所在に関しては殊更慎重になり、保身に走るものなのです。


 ――しかし……なぁ。


 論理的では無く直感でしかないのだが、雨雫は人に害を成す式神ではないと強く感じる。


 俺は自らの直感にベットすることにした。

 もし、何かあったら……。


 その時はこの世界に生きてきた俺の魂に全力で土下座するとしよう。


「わかりました。是非、その条件で御願いいたします」


「いいでしょう。では、クラスは君のクラスに編入させます。すぐに北谷先生を呼びます。後は彼の指示に従って下さい」


 学園長は固定電話を手に取ると、電話で北谷教諭を呼び出した。


 飛ぶようにやってきた北谷教諭に条件を説明すると、北谷教諭はなんの抵抗もなく「かしこまりました」と言って受け入れた。


 ある程度既定路線通りだったんだろうなぁ、そう思うほどに円滑なやりとりであった――。



―――――――――――

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