第24話 処遇どうする? やっとく?

 この二日間でとった睡眠時間は、ほぼない。


 ――そういえば、長光もほとんど同じ生活をしているはずだ。


 俺は残業や研究で寝られない生活に慣れていたからおそらく問題ない。

 だが、長光は大丈夫なのだろうか。


 朝はいつも通り登校していったが……心配だ。


 辛くない筈はないのに、なんでそこまで俺に付き合ってくれるんだろう……。


 ――正直、彼女が善意で行う熱血指導がありがた迷惑な部分もある。

 ミジンコ、微粒子レベルではあるが。


 指導とはいえ、美人の妹と夜通し一緒にいられるなんて、お金払ってもできないですからね。


 さて――と、だ。

 腰にいたこの太刀のせいで、今日は朝から教室ではなく学園長室登校である。


 保健室登校ならば聞いたことがあるが、学園長室登校など聞いたこともない。

 ふう、と軽くため息をついてしまう。


『なんじゃ、元気がないのう』


「誰のせいだと思っているのか」


此方こなたは呼ばれたから現世うつしよに来ただけじゃ。少なくとも、此方のせいではないな』


 そう言われて、改めて自分が式神召喚に当たり思念していたイメージを思い返す。


 強い力、品格、優しい心と人を想う気質。

 …………。

 ……。


「……チェンジ(ぼそ)」


『失礼な事を申すでない! 全く、此方こなたにそのような態度を取った者など、そなただけだぞ』


 ぶつぶつと文句を言う雨雫の言葉を聞き流しがら、学園長室へコツコツと歩みを進めた。


 そうこうしているうちに学園長室の前に着いた。

 ただの学園の一室。


 そんな事は解っているのだが、「なんとか長』と書いてある一室の扉は、なぜこうも威圧感を放っているのだろうか。


 ――トントントンっ。


「入りなさい」


 勇気を持ってノックをすると、すぐに学園長の声が帰ってきた。


「失礼いたします。本日こちらに伺う予定となっておりました、浅井安綱です」


「おはよう浅井君。それじゃ、そこにかけてもらえるかな」


「……はい、失礼いたします」


 学園長は来客用と思われる重厚な黒革貼りのソファに座るよう促す。


 ソファの前へ移動し学園長が対面のソファに腰かけるのを待ち、俺も座る。

 ……腰の太刀が本当に邪魔だ。

 座りづらい。

 捨てたい。


「さて、さっそくなのだが君とその式神――雨雫あめのしずくの処遇について話がしたい」


「ええ、よろしくおねがいします」


「ふむ。……昨日、こちらでも会議を行ってね。いくつかの候補が出ている。正直、意見が割れていてな。あとは当事者である君たちの意見と、私の裁量さいりょうでどのように処遇するか決まった」


「そう、ですか」


 どうやら昨日のうちに学園側の結論はでなかったらしい。


 式神が実態を持って常に現世うつしよ現界げんかいするなど、前例が無い出来事だったらしい。

 何事もお偉いさんというのは、前例がない出来事への対処は弱いものだ。


「――さて、君たちはどうしたい?」


「……ここに雨雫を召喚して、直接話し合いに参加させてもよろしいですか?」


「もちろんだ」


 にこりと目尻を下げながら学園長が頷く。


 承諾を確認してから俺は腰にいた雨雫あめのしずく太刀たちをソファに起き、召喚の呪文を唱えた。


「カラリンチョウ・カラリン・ソワカ。急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう


 金色に輝く光を放ち、太刀は瞬く間に女性の姿に変わった。


 今度は全裸では無く、金を基調とした和装に身を包んでいる。

 輝く金髪、琥珀色こはくいろに輝く虹彩こうさい、凜として気風きふうのあるたたずまいで座るその姿は、確かに俺が思業式神を召喚する際に考えていたイメージに近い。


「……喋らなければ完璧なのに(ぼそ)」


「ぼそ、ではないわ無礼者め」


 中身はちょっとイメージと違ったものの、自分はこの式神となんだかんだで相性は悪くない。

 そんな気がするような、しないような。


 少なくとも契約をすぐさま破棄しようとは少ししか思わないし、せっかくの縁を大切にしないのは良くないと学園長も言っていた。


「学園長。私の意見を申し上げさせていただきますと、私はできれば雨雫あめのしずくとの契約を破棄はきしたくありません。太刀たちの姿である彼女(?)を帯刀たいとうしていることが、他の生徒に良くない影響を及ぼす可能性があることは理解しています」


「……ふむ。続けたまえ」


 両手の指を組んだ学園長が、前屈まえかがみとなり先を促す――。



―――――――――――

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