第22話 ぷんぷんドリーム

「いやぁ、あなたを使役するのはちょっと大変そうですし。出会い頭で人の股間を狙ってくるような、そんな危険な思想の式神との契約は当方としてもちょっと……はい」


『な、なん、だ……と? ……これだから、イン○野郎は(ぼそ)』


 あ、今俺のことEDと言ったな?

 かっちーん来ちゃいましたよ、俺。


 ちょっと昔に流行った表現でいうのなら、激おこなんてレベルじゃないわ。

 これはインフェルノ……いや、ぷんぷんドリームレベルだわ。

 今まで怯えていた感情が、急激にすっと冷めて怒りに変わっていった。


 ――こいつに、絶対に目に物みせてやる!!


 倍返しだ!

 人には決して馬鹿にしてはいけない一線があるんだ。

 それを越えたら――もう理屈じゃねぇんだよ。


 俺は見事なこしらえのつかを握ると、ぐりぐりとひねりながら深く深く畳に突き刺していった。


『な、何をするかこの無礼者め!! ――というか何を気安く触っておる!!』


「あ、なんか言った? 埋まりたそうだったから手伝ってやってるんだよ、感謝しろこの野郎」


『だれが野郎か!! 此方こなたうるわしき女性だ!!』


「なんだ。いきなり人の股間狙ってくるビッチだったのか。なんすか。出会って三秒、即合体そくがったいってやつっすか。はいはい面白いですねー」


『花も恥じらう乙女になんたる下劣なことを申すか!?』


「おうおう。こんな絢爛けんらんに着飾った柄をしやがって。そんなに見られたいのか?」


 つー、と柄を撫でる。


『ひっ!? そ、そんなところを撫でるでない……』


「あ? そんなところって、どんなところなんだ? ちゃんと言ってごらん、ん?」


『なんたる恥辱ちじょく……。そ、そこは此方こなた可憐かれんなあ、あしし……』


「脚!? ここが脚!! ってことはお前、今は畳に頭突っ込んでる状態な訳か!?」


『そ、そうじゃ! このスケベ!! 欲情にかられし悪魔!!』


「はぁん!? 自慢でも何でもねえけど、俺は何百、何千という脚を(仕事で)触ってきた男だ!! 今更たかが脚如きで欲情なんぞする訳がねえだろが!!」


『ふ、ふぬぅ……っ』


「というかさ、お前今頭から畳に突っ込んでるってことは……つまり、だ。さっきは俺の股間に顔から飛び込んできたようなもんだよなぁ!? テメェが仰るところの袋竹刀ふくろしないに!!」


『そ、それは……。でも此方こなたは今、刀であるが故にその……つまり』


「おらおらおらぁっ! そんな猥褻痴女ひわいちじょビッチ妖刀ようとう――もとい妖艶刀ようえんとうなんて、こうしてやらぁっ!」


 俺は手早く目釘めくぎを抜くと、柄を握った片手を反対の手で軽くトンと叩く。

 刀身が浮き上がった。成功だ。


『いやああああ!? 脱がされるううう!!』


「良い声で鳴くじゃねぇか。どうだよ、俺のテクは? ん?」


『な、なにゆえそなたは、そんなに脱がし(外し)慣れているのだ!!』


「剣術の授業があるんだ。手入れぐらい覚えてるに決まってるだろ」


『ぐ、そんな所でも無駄に勤勉さを発揮しおって……っ!!』


「ほらぁ、あとはもう抜くだけだぞ? なあ、どうされたい。どうして欲しいんだ?」


『くっ……やりたければやるがよい!! 此方こなたは、そんなことでは屈せぬ!!』


 ――あ。

 こいつどうせ最後まで剥かれはしないと思って、たかくくってやがるな?

 女性相手ならともかく――刀相手にびびってたまるかよ!


「俺は何事もやるときは容赦なく、全力の男。全力青年とは俺の事だ!! おらあああああああああっ!! 全部ひん剥いてやらぁああああああああああああッ!!」


 俺は片手で刀身を強く握ると、一気に柄を取っ払い投げ捨てた。


『きゃああああああああああああああああああ!? 本当にやったあああああああ!!』


「やれと言ったのはお前だ……ん?」


 かたかたと畳から必死に抜けようと足掻いている刀のなかごには、めいきざまれていた。


 下二文字は汚れていて読めんが、上二文字は……。


雨雫あめのしずく……?」


『――――な!? なぜその名をっ!!』


「いや、なかごに書いてあったし」


『――――――……』


 雨雫あめのしずく(?)は絶句していた。

 刀だから本来、口はないんですけどね。

 あ……そういえば。


「なあなあ、そう言えば式神と契約するときってさ。召喚した相手が認めた陰陽師に、いみなやら真名まなを教えてくれて契約するんだよな?――で、いみなを教えた時点で拒否権は確か……ない」


『―――――――――――……ぉ?』


 お、刀身がぷるぷる震えてるだけじゃなくて、ぽたぽたしずくあふれ出てきた。

 これは、汗みたいなものか?

 …………。

 はっはぁん――逆襲じゃぁあああ!



―――――――――――

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