第20話 式神召喚の儀
式神召喚の儀、その当日がやってきた。
普通科の生徒達は教室で自習をしている。
陰陽科の生徒は平時の
祈祷殿の様相は、日頃からよく目にする機会のある神社の本殿とさほど変わりない。
満開に開かれた祈祷殿の格子戸からは、最奥までがよく見える。
神具が立派に並ぶ中、神鏡が不在なのが自分の知る神社と違い、違和感を感じさせる。
これから一人ずつ祈祷殿へと入り、式神召喚を済ませ出てくることになる。
祈祷殿は室内の東西南北に
陰陽科の学生はこの
稀な話ではあるが、分不相応な式神を召喚して式神に殺され亡き者となることがある。
だから皇祖神様と、八百万の神々へ向けた祝詞奏上――式神召喚の儀の持ち時間は一人十五分までと定められている。
明朝から初めても、全員が終わる頃には夕刻になる。
「
「俺は奥ゆかしいからな。みんなに先を譲ったんだ」
「こいつうるせぇな。安綱、前みたいに戻ってきたな」
俺は希望により最後にしてある。
少しでも他者が召喚する様子や感想を聞いて、成功率を上げたいのだ。
白い正装に身を包み、神鏡を持った学園長がゆっくりと祈祷殿前に歩み寄ってくる。
学園長の周囲には笛で
生徒達は海が割れたように祈祷殿までの道を空ける。
辺りには雅楽を演奏する音しか聞こえず、雑音の無い非常に厳かな空気感を醸し出している。
祈祷殿の前に学園長が辿り着いた。
その後ろに生徒が身を正して控える。
学園長は二礼すると神鏡を持ち、祈祷殿内部へと歩みを進めた。
職人が丁寧かつ
学園長が滑らかな動作で神鏡を前に正座すると、雅楽が静かに演奏を終えた。
そして深く深く礼をした後に祝詞を書いた紙を懐から取り出すと、低く響き渡る声で
「掛けまくも畏き大八洲にまし坐す大神等――……畏み畏みも白す」
学園長の
――さすがに、ベテランの年期を感じるな。
祝詞奏上を終えたのを見た教師達は再度雅楽の演奏を開始した。
俺は最後に挑戦すると言うことから、居並ぶ生徒達の中で最も遠い位置にいる。
自分を除く三十九名の
いよいよ、俺の
学園長が俺の前に立つ。
俺は深く礼をして、禊ぎを待つ。
「天切る、地切る、八方切る。天に八違ひ……吹っ切って放つ、さんびらり。ナウマク・サンマンダ・バザラダン……タラタ・カンマン」
近場に立って初めて学園長が唱えていた言葉を一部ながら聞き取ることが出来た。
一通り唱え終えた学園長は大幣で俺の身体を祓った。
一瞬ビシリと電流が流れてくらりと意識が遠のいたが、なんとか踏みとどまることができた。
祈祷殿には監視カメラが仕掛けられている。
待つ間の別室では、祈祷殿から届くライブ映像が見ることができる。
急に厳かな和の雰囲気ぶちこわしだが、相次ぐ式神召喚中の事故により即座に駆けつける事が出来るようにこのような配慮が成されたようだ。
文明の力、様々である。
――復元された城にコンセントを見つけたあるみたいな残念さだな。
先ほどの古式ゆかしい厳かな雰囲気と和の雰囲気に感動していた、俺の純真な気持ちを返して頂きたいです。
さて――色々とファンタジー感をぶち壊されたことに文句を言っておいて難だが、監視カメラの映像を見られることはとても有り難い。
自分より先に儀式に参加した生徒達は続々と儀式を終えている。
上手いこと式神召喚が成功した瞬間、ちょっとだけ式神の姿が見えるのだが――実に様々で面白い。
立派な依り代に調伏され封じられていた、
新たな
これが
言の葉を紡いだ後に神鏡から出てきた分霊と対話し、上手く話がまとまればふっと生徒の身体に吸い込まれるように力の
これが
ちなみに今回、俺が試みようとしているのは
思業式神召喚は自分の想像力や念力が高くなければ、貸していただける式神の力も伴って弱まるらしい。
――身の丈を弁えるのであれば擬人式神でいきたかったけど……。
俺の形代(長光アレンジ)は無残な姿に成り果てたため、鞄にしまってきている。
せっかく異世界にきたのだ。
初めての式神ぐらい珍妙な依り代ではなく、まともな召喚で御力を貸していただきたい。
「――浅井、次だ。準備しろ」
「はい」
気が付けば自分の番が迫ってきていた――。
―――――――――――
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