第19話 おっさんに大注目じゃん⁉︎

「注目されるのは嫌なんじゃないの?」


「うん」


「一緒にいったら絶対、めちゃくちゃ注目されるから!」


「大丈夫。私は足が痛いふりをする。そこを安綱やすつなが手助けしてるふりをする。これは完璧な作戦。それに正確にいうと、私は注目されるのが嫌なわけじゃあ、ない」


 少しだけくもらせて薄緑うすみどりが否定した。

 心なしか狩衣かりぎぬを握る指に、先ほどより力が入っている気がする。


「じゃあ何が嫌なの?」


「声をかけてくれた人からも、周りの人からも……。特別扱いされて過剰に気を遣われるのが……嫌なの。迷惑かけて、申し訳なくなる」


「……そうか」


「ん……」


 なるほど。

 自分には解らない立場の悩みだ。


 だが可能な限り彼女の立場を想像してみる。

 同じ方向を向いて彼女の人生を想像してみる。

 食堂にいくこともままならず、自由も尊厳もない。


 ――なんだか、それはあんまりなんじゃないかと思ってしまった。


「ごめんね、迷惑だ「――よし、さっさと行くか!」


 俺が考思している時間を否定的にとったのか、謝罪の言葉を口にしようとした薄緑の言葉を遮った。


「……ん!」


 少し何が起きたのか理解する間を置いて、薄緑は微笑みながら狩衣を掴んでいた手を離す。


 とことこと俺の後ろを付いてくる。

 目に見えてワクワクしている。

 俺は何が起きてしまうんだとソワソワしている。


 まあ――約束してしまったものは仕方ない!

 それにきっと誰かに咎められでもしたら、薄緑は約束通り俺を庇ってくれるだろう。


 俺は自分が出来ることをしよう。

 毒を喰らうなら皿までという言葉がよぎったが、それを言ったらこのマイペースな姫殿下は怒るんだろうな~。


「――ほら、ここが食堂だよ」


「おおーっ」


「券売機で好きな食券を買って、その券をおばちゃんに渡すと注文した食べ物がもらえる」


「券売機、お金ここに入れるの?」


「うん」


「お金が、吸い込まれた! 吸い込まれたよっ!?」


「ボタンが赤く点滅しただろ? これを押せば食券が出てくる」


「じゃあ、これ!」


 ぴっと薄緑が押したのは、A定食。

 うん、基本は大事だよね。


 食券とおつりが出てくると薄緑は眼を一杯に開いて、きらきらとした瞳をこちらに向けてきた。


「私、一人で買い物できた? できた?」


「うん、できたよ」


「ん!」


 一々嬉しそうに頷く薄緑を見ていると本当にもう一人義妹ができたような気分になる。


 もうさ、うちに住んでしまえばいいんじゃね?

 そんな事を一瞬思いながら俺も食券を購入し、同じ定食を注文して一緒に席を探した。

 周囲の視線を集めながら二人で定食を食べる。


 すれ違う人すれ違う人みんなが俺達を見てきたが、誰も声をかけたりはしなかった。

 触らぬ神に祟りなし……か。

 俺もそっち側の人間だったはずなんだが、何故こうなった?


「薄緑、過剰に気を遣われるのが嫌だって言ったよな?」


「うん、言った」


「……だったら今回の事は、秘密にしよう。さっき薄緑が言ってたように、俺は薄緑の足首が痛いから一時的に手助けをした。そして姫殿下ひめでんかへの礼節れいせつを良く知らなかったから、多少の無礼を働いた。薄緑は嫌々ながらも食堂に付き合ってくれたことにするんだ」


「……私、いま凄く楽しいよ?」


「周囲に聞かれたらそう答えるんだ。その方が騒ぎにならない。本当の感情は二人だけの秘密だ」


「二人だけの、秘密!」


 眼をきらきらさせて両手をぎゅっと握っている。

 二人だけの秘密、という言葉に魅力を感じたのだろう。


「ん」


 満面の笑みで頷いてくれた。

 よかったよかった。

 これで無用な騒ぎは防げる。


 その後教室に戻るまでの間、薄緑は常に笑顔で顔をつやつや輝かせていた。

 俺はというと――教室に入った途端に鋭く睨んできた長光を見て顔を青く染めた。


 家に帰ってから長光に詳細を説明して、やっと納得して頂けた時には……既に窓から暁光ぎょうこうが訪れている事を確認出来る頃合いであった。


 今日は式神召喚の儀があるというのに、眠い。

 美女と一夜を過ごしたというのに役得と感じない不思議。

 これほど夜更かしをしたのは世界移動してから初めての事だ。


 もう、元の社畜生活には――戻れそうにないな。



―――――――――――

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!


楽しかった、続きが気になる! 

という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!

ランキング影響&作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る