第15話 姫殿下を呼び出し!

「……どうかしたんですか?」


「あのさ、姫殿下っていつもサッカーには参加してないのか?」


「いえ、いつも授業には参加されていますよ?」


「ああ、そうじゃなくて。プレイに絡むことはないのか、ってこと」


 そこまで聞いてやっと何が言いたいのかわかったようだ。


「なるほど。みんなボールをあまり渡したがらないのは事実ですね。もし姫殿下の身に何かあったら大変ですから」


「じゃあ、今日が特別じゃないってことか?」


「うーん。そう言えば今日は、いつもより走られていなかった気もします、かね。それが何か?」


「いや、それだけ解れば充分だよ。ありがとう」


 俺は長光に背を向け歩き出す。

 目的地が出来た。


「……義兄さん、前にも言ったと思いますが」


「ああ、解っている。迷惑はかけないように気をつけるよ」


 心配そうに見つめる長光を置いていくのは忍びなかったが、今はやるべきことがある。

 元、理学療法士としてやることが――。


 時刻は変わって、共同クラスで行う座学の時間。

 隣には、薄緑姫殿下。


 俺はメモ帳を一枚破ると、伝言を紙に書いて丸める。

 他の人に気が付かれないように姫殿下の机の上に投げた。


 姫殿下は机の上にころころ転がってきた紙に気が付き、手に取った。


 小さく小首を傾げ机の端にちょこんと置くと、再び黒板に向き直り授業に戻る。


 ――いやいやいや、中身見ないのかよ!?


 心の中で盛大に突っ込みを入れた。心の中での事だから不敬罪は適応されません!

 おそらく彼女はゴミが飛んできたのだと勘違いしたのだ。

 きっとそうだ、そう信じよう!


 どうしたものか、と考える。


 俺は自分の机左端に伝言をシャーペンでカッカと書いた。

 そして彼女の視界に入るよう、僅かばかり左に机をずらす。

 ちらりと彼女の視線が俺の方へ向いた。


 今だ!――とばかりにトントンっと伝言を書いた部分を叩く。


 やっと彼女も気が付いたようで首を右に向けて俺が書いた伝言の内容を読み始めた。

 やがて俺の考えを図るように眼を見つめながら、小さくこくんと頷いた。


 俺はそれに満足し、笑顔で机に書いた伝言を消しゴムで消した。


 昼休み。

 食堂に行く者や弁当を持参している者、様々な人がいる。


 いつもは友人三人と一緒に食堂までいく俺だが、今日はすっと席を立つと鞄を持って教室を出て行った。


 教室を出るときに光世のあれ、と疑問が混じった表情が眼に入った。

 心の中で光世にすまん、と謝りながらも俺は人目に付きにくい体育館裏に向かう。


 体育館裏へは階段を降りる必要などもなく、渡り廊下を渡っていける。


 体育館裏へ到着すると、俺は階段に鞄を置き彼女の到着を待った。


 長光には迷惑をかけないなどと言ったが……どこにもそのような保証はない。

 もしかしたら彼女の不興を買い、家族や家に迷惑をかけるかもしれない。


 あれ、もしかして俺……人気の無い所に姫殿下を呼び出すとか、不敬罪とかなんかしらの罪に値するんじゃないか?


 やばい、そう思ったらなんだか余計なことをしている気がしてきた。

 やっぱり、帰ろうかな?

 ……。


 よし、あえて危険なことに首を突っ込むのはよくないよな!

 うん、何もなかったことにしよう。


 机に書いた伝言も消したし、証拠は隠滅済みだしね。

 俺は食堂に向かうためにしゃがんで鞄を手に取り、元来た道を戻ろうと体育館に背を向け振り向いて――。


「ん」


 目の前に姫殿下が居たことに気が付いた。


「いっ!? ……つのまにこちらへ?」


「今、来たところ?」


「あ、ああそうですか。で、あの……」


「ごめんなさい」


「え?」


「お気持ちは嬉しいですが、私は誰かとお付き合いできません」


 ――ふぁっ、お付き合いっ!?



―――――――――――

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