第12話 え、皇姫殿下?
「ご、ごめん?」
「ん」
一言そう言うと、彼女は何事も無かったかのように読書に戻った。
一体なにごとだろう?
そう考えていると――左肩を叩かれた。
「――長光、どうした?」
長光が無言で立っていた。
心なしか、ちょっと怒っているようにも見える。
廊下に出ろといったジェスチャーをしてから、俺の手を引いて一緒に廊下にでた。
「ちょ、なんだよーや~めろよ~(棒読み)」
手はとっても柔らかくて気持ちよかったです。
「どうしたんだ、一体?」
廊下をしばらく歩いた所で、長光が立ち止まった。
「義兄さん、一体何を考えているんですか!?」
「いや、だからなにが?」
「
え、姫殿下?
「え、あの緑色のインナーカラーをした子が
「そうですよ!」
「マジっすか」
マジっすか。
全っ然知らなかった。
二ヶ月も同じ学校に通っていながら、全く知らなかった。
「……もしかして、俺って無礼討ち?」
「あ、挨拶しただけですし。そこまで、ではないですけど……もっと敬意を持って接して下さい!!」
なるほど。
だから泣きそうな表情で俺を見ていたのか。
「――長光はさ、殿下と仲良くないのか? 普通科で同じクラスだったんだろう?」
「……私なんか恐れ多くて、とても話しかけられないですよ」
「そうなのか。じゃあ、殿下は誰とお話しているんだ?」
「必要がなければ、殿下は誰ともお話になりません。最低限のお言葉です。責任あるお立場を考えられているのか、誰かにお声をかけることも殆どありません」
だから彼女は、新クラス編成の初日から読書に耽っていたのか。
自分の発言の強さを考慮して、自由に生きられていないのだろうか。
皇女という立場は、まるでこの皇国を存続させるだけに存在する、
俺は――かつての自分の姿を思い出した。
何か発言すれば出る
理学療法士の発言力は他の医療職よりもなく、積極的に発言も出来ない。
上からの指示を的確にこなす、トップダウンをこなす歯車でしかない自分だ。
あの苦しくて
彼女がこの世界でどれだけ重要な存在なのかは、正直よく解らない。
――でも、彼女は今の人生が楽しいのかね?
――そんなものが、『生きている』なんて言えるのかね……。
「わかった、とりあえず気を付けよう。心配かけるね」
「い、いえ別に! 義兄さんのことが心配とかはなくて、私は家のこととか自分のこととか……」
ぶつぶつと下を向いている長光の頭に手をぽんぽんと優しく撫で、俺たちは教室へ戻った。
教室内はすでに通常の
人生の充実を
どうしても、彼女の人生を充実させるにはどうすればよいのかと余計なことを考えてしまう。
まあ、目の前で本を読んでいる彼女が本当に読書が好きで好きでたまらないのであれば、俺が考えていることは文字通り余計なお世話でしかないのだが。
合同クラスとなっても、基本的に学生としてやることは変わらない。
担任教師も、なんと北谷教諭のままである。
これまで同様、普通に授業を受けるだけだ。
そして放課後。
俺はただその姿を横目に見送るのみであった。
「長光、俺達も一緒に帰らないか?」
「――え……。義兄さんと一緒に、ですか?」
彼女はちょっと迷うように目線を泳がせた。
「……そうですね、帰りましょう」
「うん、いこうか」
内心ガッツポーズをして鞄を手に取る。
これを機に、義妹とも良好な関係を築いていこう。
長光と伴に学校を出て、家路を歩く。隣に長光を連れて歩くのはいつ以来だろうか。
――あ、思い出した。
病院に強制連行されて以来だ。
「義兄さん」
「あ、はい」
思わず敬語になってしまったのは、社会人時代の癖が未だに抜けないからか。
あるいは、長光が漂わせる高潔な雰囲気が故にだろうか?
「義兄さんは、薄緑様の護衛パートナーになりたいのですか?」
「え? なんで?」
長光はピタリと歩みを止め、俺の瞳を見つめてきた。
―――――――――――
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