第11話 注目を集めたくない?
「
「流石に緊張するよな! ああ~、どうせなら可愛い子の護衛につきたいもんだぜっ!
「……全く。
「
誰、と言われても。俺は普通科の生徒なんて、
その長光は俺が護衛したいなんていったら、心から嫌がりそうだしな。
『四六時中一緒なんて、息が詰まります』とか言われそう。
あ、想像したらメンタルが……ヘラる。
思春期の娘を持った気分だ。
あれ?
かといって知らない男が長光の側にべったりしてるのも、凄く気にくわない。
長光には、女性の陰陽師が護衛についてくれることを祈ろう。
「んー……。俺は、よく解らないかな。誰が対象でも、結局のとこ役目はかわらないよ」
お茶を濁すような返答に、光世はにこりと微笑んだ。
「そっか。安綱なら優しい護衛になりそうだね」
――だから、もうっ!
そうやってもうっ!
俺にいい笑顔を向けてくるなよっ!!
絶対だぞ?
「全く話にならんな」
指で眼鏡をかちゃりとかけ直しながら金平が言う。
「ん~、そんなことを言われてもな。金平は具体的に誰の護衛がしたいとかあるのか?」
「俺は当然――
この皇国の三百二十四代皇帝。
早くに夫を病で亡くし、皇位を継承した女帝だ。
だが、そのご息女が在学しているのは知らなかった。
「
俺の言葉にさすがに驚いたのか、三人が眼を剥いている。
「おいおい、安綱。皇族は帝位に即いたら名字が無くなるだけで、
俺にこの世界の常識が通用すると思うなよ。
世間的常識も教科書に載せておいてくれ。
「やはり、付け焼き刃の知識で得た順位だったか。せめて皇家への忠誠心だけは持っていて欲しいものだ」
やはり
「……申し訳ない。今後は気を付けるよ」
この国の常識を教えてくれ、などと言っても、誰も一から説明なんてしてくれないだろう。
常識なんてものはな、幼い頃からその場で生活していく上で自然と得ていくものなのだから。
今後もこういった常識の違いから起こる問題はあるんだろうなぁ、と思いながら家路を進んでいった――。
あっという間の週末休みを終え、月曜日。
俺は新しいクラス編成でも、できれば三人と、それに義妹の長光と同じクラスになれればいいな~、と願いながら登校していた。
一学年は普通科四十名。
陰陽科四十名の計八十名。
それを各学科二十名ずつの計四十名で二クラスを編成するのだから、決して不可能な確率ではない。
家にいても長光は、ほとんど会話らしい会話をしてくれない。
話をふっても一言二言返してすぐに話を打ち切られてしまう。
今日も今日とて、一緒に登校することもなく長光は先に家を出てしまった。
年頃の兄妹といえばこんなものなのかも知れないが、やはり寂しいものは寂しい。
できれば、学園でも同じクラスになって接点を増やしたいものだ。
「おお、もう人だかりができている」
学内掲示板の前にはすでに人が溢れていた。
自分のクラス編成を確認しているのだ。
俺も前に倣えとばかりに並んで自分の配属されたクラスを確認する。
ふむ。
人が多すぎて前にいくのは時間がかかるな~……。
背伸びをして、なんとか自分の名前がどちらにあるかだけでも確認した。
「一組か」
ア行である事が幸いした。
浅井という名字は頭の方に掲載される。
一組のア行の一部がギリギリ見え、
そして
少なくとも、義妹と同じクラスであることは確認した。
今日は良い日だ。
ほんのりと口角をつり上げながら、俺は二年の教室へ向かった。
二年の教室では陰陽科の表札も普通科の表札も消えていた。
代わりに一組、二組とすげ替えられている。
一組の教室は旧陰陽科の教室だ。
慣れ親しんだ教室の戸を開けると、中にいる人物の違いに違和感を感じる。
普通科の制服の人がちらほらと見受けられる。
その中に見知った三人の友人の姿も確認出来た。
素晴らしいことだ。
長光の姿がふと眼に入り一瞬目が合う――。
「――……っ」
――しかし、即座に逸らされてしまう。
仕方ないよな、と思いながら黒板に貼り付けられている席順を確認する。
どうやら席順は名前の順ではなく、
席は横八列、縦五列で編成されていた。
俺は最も廊下側の前から二列目。
そして、長光は斜め後ろの前から三列目。
前の席には光世。
左隣の席を見ると、普通科の制服に身を包んだ女生徒が読書をしている。
初めて見る顔だが、随分と品のある整った顔だ。
きめ細やかな雪のように白い肌、そして薄い緑色に輝きながらハーフアップに整えられた髪。
眠そうな眼を細めて読書に没頭していた。
読書中に申し訳ないとは思いつつも、これから席を並べて学ぶ間柄だ。
挨拶だけは重要だろうと思い、彼女に声をかけることにした。
「はじめまして、これからよろしく」
緑のインナーカラーが入った髪色の女性は眼をちらりとこちらへ向け、ゆっくり周囲を確認すると再び読書に戻った。
どうやら話しかけたのが俺だと気がついていないようだ。
「あの、読書中ごめん。話しかけたの俺なんだけど……」
再び眼を上げて、初めて視線が交錯する。
彼女と目が合うと――底知れぬ深い瞳の輝きに釘付けとなった。
か、身体が痺れる……。
彼女は
「……よろしく。あと、あんま注目集めたくないし、私に話しかけないほうがいい、かも?」
「え?」
前を後ろを、周囲を確認すると誰もが無駄話をやめてこちらの様子をチラチラと
長光は瞳に涙をうっすら浮かべていた。
今にも席を立って俺の元へ詰め寄りそうだ――。
―――――――――――
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