第6話 自分の家を見ていただけなのに――
「え――
この世界の俺はどうやら、随分教師にかわいがられる事をやってきたようだ。
正直、以前の世界(人生?)では、体験したことがない。
全体の前での会話でこんなにも頻回に名前を出されて、一体どう反応するのが正解なのか。
いわゆるパーリーピーポー的な存在のクラスメイト達は、上手く全体の笑いを取れていたかと思うが、俺にそんな高度な技術はない。
下手くそな作り笑いをしてさらりと流している。
担任教師の服装は、生徒のそれとは少し違う。
この世界の服装の基準がどのようになっているかは解らないが、
俺にはよくわからない。
――だが、一目で教師と生徒を見分けることができるのは有り難い。
なんでも、間もなく学園長による新年度の挨拶、全校集会が催されるとのことだ。
やがて全校集会が始まり、若年の教職員から紹介を受けた学園長が
学園長は白を基調とした束帯に身を包んでいた。
顔は、
ゆっくりとした所作で、マイクに口を近づけた学園長が言葉を紡ぎ始める。
「……みなさん、おはようございます。さて、我が国の誇るべき国旗。そこに刻まれた
「改めて、本校の生徒たる君たちは、
そこで視線を普通科の列へ移した。
「普通科生徒諸君に関してもそうです。
当然、俺も手が痛くなるほどの拍手をする一人であった。
始業式が終わった後、教室に戻るとすぐに下校となった。
俺は今、寄り道していかないかという長篠くんの誘いを断り、一人下校している。
先ほどの学園長の新年挨拶を思い出す。
起きている事を総合的にみて、俺は陰陽道が現在も残っている世界に移動した。
陰陽道について、俺は余り詳しくはない。
平安時代に
天文などを
そんなイメージが先行する。
「歴史的には、明治政府の時に
しかしそれは以前の世界の話で、こちらではそうではないらしい。
話によれば軍隊にも配備されるほど、
オカルトの一言で片付けられていた前世界とは大きく違う。
そして俺はそんな陰陽道を学ぶ陰陽科学生の、よりによって二年生らしい。
学園に入ってから学ぶもの、と仮定しても、周囲の生徒より少なくとも一年分知識が遅れている。
俺は自分に素直に、そして自由に生きたい。
――今度こそは。
「――だが、果たして
そんな考えを巡らせつつ、散歩している。
歩きながら考え事をすることはとても心地よい。
学園を出た俺が、こんなにもすたすた歩けているのは――
そもそも、桜並木に彩られた坂道の時点で気が付くべきだった。
俺の出身高校と同じ地理にある。
他の道もほとんど同じだ。
今は学園を出た後、最寄りの駅があるのかを確認しにきた。
結果は――駅名からなにから、全て一緒だ。
駅前に沢山居る学生の服装が、現代の建築物にまったく
最も大きな指標である駅の存在を確かめた俺は、かつて実家があった場所を目指し、くるりと踵をかえした。若干、早足になっていたかも知れない。
駅から徒歩で約十分の場所に、俺の生家はある。
――いや、あった。
俺の生家には、全く異なる性名の表札があった。
どこにも『
『
しかし、家の外見は全く同じという矛盾。
久しぶりに見る自分の生家を懐かしく思う。
一体、何年間実家へ帰れていなかっただろうか。
少し笑顔で懐かしの庭を見て回り、壁を触り。
玄関に入り、自分の育った部屋へと入った。
そこには、どこにも俺がいた形跡はない。
祖父母が買ってくれたという学習机も、両親が買ってくれた思い入れがあるベッドもなかった。
胸に穴があいたようにセンチメンタルな気分で立ちつくしていた。
それが――今から約三十分前のことですねぇ、はい。
「で、君は
「いえ、違うのです……」
「だからさ、何が違うの? ああ、とりあえず写真と
――びー。
――ぱしゃ。
「……君、写真映えしないねぇ。もっと
「それでも、僕はやってない……」
あの後すぐ改造クラウンに乗った人達に強制連行され、俺は警察署にきた。
元の世界では
「現行犯逮捕だからねぇ。言い訳は見苦しいよねぇ、……ん?」
新たに入ってきた警察官が、慌てた様子で取り調べしていた刑事らしき人に耳打ちする。
驚きに目をかっと開いたかと思うと、警察官共々俺の顔を凝視して、ぽつりと尋ねる。
「……きみ、
「あの、がどのかはわかりませんが……どうやら
「……なんで人ごとなの?」
「
「ん~? まぁいいや。さっき学園に電話してね、君の実家に連絡してもらったんだけどさ」
おい、待て。
いつの間にそんなことをした!?
―――――――――――
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