第5話 お前は俺の彼女か
「そりゃ俺たちはどうせ同じクラスだろうし、一緒にいくのは構わないけど……体調平気かよ?」
「……私は皆さんと違う教室なので、これで失礼します。義兄さん、ふざけすぎてまた皆さんに迷惑をかけないでください。……恥ずかしいですから」
「あ、ああ……?」
言ってはみたものの、俺の返答など気にしていないようであった。
期待されていない、ということだろうか。
「……相変わらずだなお前等。義理とはいえ兄妹なんだから、もうちょっと仲良くしてもいいと思うんだけどなぁ。まぁ、やっぱ
左側のもみ上げだけ異様に伸びた――右打ち打者用ヘルメットの様な髪型の男が苦笑しながら言う。
他の二人も無言で
事情も何も知らない俺は、何も言えない。
ただ、今は情報をもっと集めて現状を把握するために行動するのみだ。
三人の一歩後ろを観察するように、続いて歩き出す。
行き先は、俺にはよく解らない。
校舎に入ると、
とはいえ、三人の方が慣れている。
少し遅れて後を追うと、階段を一階分昇り、左に曲がって二つ目の部屋。
室名札には『
何の
ちなみに通過した一つ目の部屋は、紳士と書かれたトイレがあった。
「表札に陰陽科2年って……。聞いた事もなくて
意を決して教室に入ると、黒板には
各自、そこで自らの割り当てられた席を確認して座るらしい。
俺は他の生徒の何倍も時間をかけてプリントを確認し、
先ほど俺と一緒にここまで来た三人の男子生徒の名前と顔を、一致させておく必要がある。
中性的な印象でウルフカット、少しびくびくとした男の子は俺の一個前の席に座っていた。
彼の名前は『
右打者用ヘルメット男の名前は『
金髪チンピラ眼鏡の名前は『
今、俺がこの学園でまともに会話をすることが許される三人の名前だ。
万が一にでも、忘れたら困る。
俺は何度も心の中で反芻して席についた。
「安綱、今学期も席は前後だね。よろしく」
「……そう、だね。よろしく、青木」
青木は俺の反応が不満だったようで、わかりやすく目を細めて、口をへの字に曲げた。
「今更名字呼びなんて、僕何かした? いつもみたいに
「……ああ、なるほど。わかった」
俺はこの男のことを、光世と呼んでいたのか。
慣れ親しんだ人以外を下の名前で呼ぶのは苦手なのだが。
悪目立ちしないためには仕方がない。
次に呼びかける時は、下の名前で呼ぶとしよう。
――と、そこまで思考を巡らせて気付いた。
「……な、何か?」
「まだ?」
「……質問に質問で返して悪いけど、何が?」
「名前」
「……あ、ああ」
まさか、とは思う。
だけど会話の流れから察するには――目の前の中性的な美少年君こと
呼ぶのを待っているというのだろうか?
いかにも期待してます、と言いたげな目でこちらを見つめている辺り、どうもそのようだ。
お前は俺の彼女か。
「……
「うん!」
輝かしい笑顔で一度頷き満足したのか、前を向いた。
なんなんだよ。
ちょっと胸がむずむずしたじゃねぇか。
可愛いな。
うん、可愛い。
俺が新たな性癖に目覚めたら責任とれよ。
いや、やっぱ責任は取らなくていいから、元の
心の中で一人突っ込みながら、俺は席を立ち教室を出る。
この場に座っていることに居心地の悪さを感じたことと――あと一つ、どうしても確かめておきたいことがあったからだ。
教室にかけられていた時計が示す時刻は、午前八時十二分。
まだ席にも着いていおらず、立ち話をしている生徒が多いことから、教師が来るなど状況が変化するにはもう少し
俺はここに来る途中に見かけたトイレへ入った。別に用を足すためではない。
「……これは、驚いた」
――鏡には十代の頃の自分と、
この事実をどう
どう受け取れば良いのか。
俺が違う世界の、過去に存在していた自分に意識だけ移動した?
それとも、時間が巻き戻って新たに世界は作り替えられた?
とにかく、この俺と――『
自分なりに状況を推測しながら教室へと戻る。
平静を
足早に席に戻り、机に突っ伏した。
教師が来るまでの間ぐらい目を閉じていたかった。
いくら変化を求めていたとしても――急激に変化しすぎると頭痛ぐらいしてくる。
―――――――――――
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