第2話 明るさを知るのは、暗さを知ってから!
私はため息を一つつき、帰宅する準備をした。
白い
「十二月の夜は、よく冷えるなぁ……」
身体にも――
私のストレスは、既に限界に近い。
私は就職して僅か数年――二十代の若さで、ストレスに起因するEDとなってしまい、今に至るまで耐え忍ぶ生活を続けている。
「学生の頃は、やり投げで全国大会にも出場してた屈強な男だったのに……。情けないなぁ、俺」
真剣に相談した上司からは、『自分のやりの扱いに関しては投げやりなんだな!』と
ははは、馬鹿たれが。
はいはい、面白い面白い。
「……本物のやりを投げつけて殺りましょうか、と思ったよな」
相談した上司から話が広がったのだろう。
私がEDに悩まされているという事実は、瞬く間に病院中へ拡散した。
病院職員は、人のおもしろおかしい噂がとかく大好物なのだ。
一部職員は、『イーディーン元気』などという……。
あらゆる意味で無礼極まりない
「どっちなんだよ。元気なのか、元気じゃないのか。――少なくとも股間は元気じゃねぇんだよ、この野郎め」
誰が上手いことを言えと言ったのか。
そんな切ない人生を過ごしてきた私にも、リラックスできる、
「――失礼いたします」
自宅と勤務先の間に、とある神社がある。
あまり
鳥居前で私は小さく
やがてお宮の前に辿り浮くと、お
「今日も一日、お見守り下さり本当にありがとうございました。――明日も、多くの患者さんの幸せが
実に簡単なものだ。
一般的に、神社というと願い事をする場所――というイメージが強いだろう。
それが悪いなどと言うつもりは全くない。
だが、私の中では少し違う。
無事に過ごせた事に感謝し、明日への決意を改めて語る場だ。
『
私にとって、
これは、あくまで私の勝手な
「この神社の
それは、今は亡き母の温もりにも似た何かだが――とにかく心地よい。
常時は感謝と決意を告げて去る。
これだけで手早く済ませる私だが、今日は外の寒さと内心の冷え切った感情などが重なり、随分と心が弱っていたのだろう。
両手を合わせたまま、気が付いた時には口が勝手に動いていた。
「――私は、高校生の時から真面目だけが取り柄でした。ひたすら勉強し、人生の
何を言っているのか、どこに話を着地させたいのか。
「……やり直せるのであれば高校生時代に戻って、毎日心から笑っていたあの頃に戻りたいです」
どうしよう……。
話していたら、目頭が熱くなってきた。
「……なんとなくで選択をしない。真面目ながらも……不真面目に。――楽しく、全力で生きたいです。――本音を言えば、今がどうしようもなく辛いんです」
自分が何を伝えたいのだろうか。
ただ弱音を吐くだけでは駄目だと心を持ち直す。
「……一人で見る夢は
うん、我ながら上手く
最後にお宮へ一礼し、私は参道を歩いて再び
足取りが宙に浮いているかのようにふわふわと軽い。
「これで明日も頑張れる――」
――ゴッ!!
そう思った瞬間、私は
バットで殴られ続けているような痛みだ!
視界はぐるぐると廻り、余りに強い
必死に転がりながら周囲を見渡すも――誰もいない。誰か、誰か助けを呼ばなければ――。
「ぁ――……ぁぁっ、ぅ」
助けを呼ぶため声を出そうと試みるも、声は掠れ上手く出ない。
これは、本当にまずい!
せめて少しでも人目につきやすい場所へ……っ。
視界が廻り続ける中、
――限界を悟り、微かにつなぎ止めていた意識が遠のいていくのを感じた。
……こんな所で、何も成せず一人寂しく人生を終えるのか。
これが、俺が生まれた意味なのか?
毎日、患者さんを幸せにできる病院を作ろうと、目の前にいる患者さんを、より良い未来へ導けるようにって――理学療法の勉強に、毎日毎日毎日、必死に生きてきたのにっ……。
こんな所で、終わりかよっ……!
何も、何も成せずに、終わりなのかよっ!
――でも、やっと……自分で作ったこの
そこまで考えた所で涙が
最期の時がきたようだ。
そう願ったところで――
『魂は――……いつ……いく……でも……』
―――――――――――
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