30 再会

王都スーリヤの巨大な冒険者中央ギルドにやってきたマイちゃんと私。


大きなエントランスの奥の長いカウンター付近に、見覚えのある顔があることに気付いた。いや、気付いてしまった……


「マイ!ちゃーん!」

そしてこちらを目掛けて弾丸の様に飛んでくる見知った赤髪の女……イーリスである。なぜここにいるのか?


マイちゃんは当然の様に華麗なステップで横に避ける。

そしていつかの様に片手を床についてくるりと回り私たちの方を向いて正座するイーリス。無駄に身体能力が高い。マイちゃんは「イーリスおねーちゃん!」と言って近づくと、その頭を撫でていた。


こいつ……だらしない顔しやがって……


私はマイちゃんの背中から抜け出すと、デレデレととろけそうな顔をしたイーリスのすぐ近くで停止した。


『ねえ。あんた何でこんなところにいるよね!』

「当然マイちゃんをためだ!」

曇りの無い笑顔である。まあマイちゃんを思ってのことなら……


「モップ女だけじゃ寂しいと思っいたっ!」

私は回転の力でイーリスの頭に打撃を叩き込んだ。


「何すんのこのモップ!」

『マイちゃんは泣いてないし私のことは悠衣子と呼びなさいよ……とここじゃなんだからどっか別室ない?』

私は少し周りがザワつくのを見てこのままではバレてしまう危険性も考えた。それなりに距離はいるが冒険者たちが多数こちらを窺っていた。


「それなら……マイちゃん!私の部屋に行こう!いたっ!」

もう一度その頭に打撃を打ち込んだ。


「なんだよもう!私、ここでも副ギルド長になったし、なんと私室が与えられたのよ!そこに行こうって話をしてんの!」

そういうことか……まあそれなら……


私は仕方なしにマイちゃんの背中へ戻った。

頭をすりすり痛そうにしていたイーリスはマイちゃんに回復魔法をかけられて涎を垂らし袖口でぬぐっていた。そしてマイちゃんに「お部屋いこうねー」と話しかけ、有ろう事か手をつないでギルドの奥へと歩き出した。


こいつ……いやに連れ込み方が手馴れてるな。

やっぱりイーリスは危険だ。


それと同時に思い出す。ここ最近二人で食事なんかの機会もなかったから、せっかく保護の魔道具まで作ってもらったのにあの手書きの旗を作る機械が全くなかったことに……

最近はリーニャちゃんと一緒に寝ているし、マイちゃんも遠慮して旗を出す機会もなかったから、忘れていても当然と言えば当然なのだが、イーリスが現れたのなら警戒しないわけにはいかない。

いずれまた旅に出たら……いや、学園生活となれば私室が与えられるからその時は……まずは今夜あたり新作をいくつか作っておくか。


そんなことを考えている間にそれなりに大きなイーリスの私室だという部屋まで連れ込まれていた。意外と整頓されている部屋だ。もっと汚部屋を想像していたのに……


「ここが私の部屋よ!マイちゃん!ここに住む?」

「ごめんなさい」

初撃で打ちのめされ膝をつくイーリス。


『マイちゃんは今ここよりずっと広い侯爵邸に住んでるからね!こんな犬小屋のようなところじゃ満足できないよ!』

「くっそモップ!じゃあ私はこの近くに家を買うわ!金ならいくらでもあるんだから!」

そう言いながらテーブルの上に白金貨を山の様に魔法袋から取り出して、バンとテーブルを叩く涙目のイーリス。その山を見てマイちゃんがキラキラした瞳を向けている。白キラキラしてるし金貨綺麗だからね。


「マイちゃーん。これ全部あげるー。だから一緒に暮らそ?」

「うーん、マイ、がくえんにいくのー。だからこんど、きかいがあったらまたよろしくなのー」

私は再び崩れ落ちるイーリスを見ながら、マイちゃんの成長を感じて涙した。まるでできる大人の返答であった。だが学園に行くという情報を与えて良いものか……この勢いなら学園の何かしらに自分をねじ込みそうだ。


『それより、どうしてあんたがここにいるの?』

「マイちゃんが王都に行くのは運命の何かで分かったから多分ここに来るだろうと走ってきた!」

『何それ怖い』

「王都に着いたのは結構前かな?ギルド長に話つけて副ギルド長としてマイちゃんを待ってた!」

『あんたの行動力は正直すごいと思うわ』

「マイちゃんの為だから当然よ!」

これから冒険者ギルドに来るたびにこいつの顔を見るのか……まあいいけど。


「イーリスちゃん。マイ、ダンジョンにはいりにきたの!とうろくしたい!」

「マイちゃん!よし任せて!というかカードは共通だから特に登録はいらないわ!あとは依頼はオネイロスと同じように掲示板のボードがあるからそこから探すといいわ!そしてお姉ちゃんと一緒に冒険に出かけましょう!」

このままではまた付きまとわれると危機感を感じる私。


『マイちゃーん、イーリスはギルドのお仕事あるんだって。やっぱりお仕事はしっかりしないとだめだよね?』

「うん!わたしはママがいるからだいじょうぶ!イーリスちゃんはおしごとがんばってなの!」

それを聞いてイーリスは悔しそうに歯噛みしながら「わがっだ!お”ねえち”ゃんがんばる!」と声を絞り出していた。マイちゃんとのデートに同伴させてなるものか!


その後、掲示板で常時依頼の魔石やお肉、毛皮や牙などもあることを確認する。これさえ押さえておけば後は自由に狩れば良いだろう。『収納』があるから手当たり次第に素材を『回収』しておけばいずれお金になるからね。

お金は余るぐらい持って位はいるけど……いる何があるかわからないからしっかり稼いで強くならなくちゃ!そう、本当に魔王を倒せるように……


イーリスからの情報で、王都のダンジョンは基本30階層まではボアやワーウルフもいるがスライムにスケルトン、ゴーレムやガーゴイルといった無機質系の魔物が多く、魔石のオンパレードらしい。

階層が進むにつれ強く魔力含有量の多い魔石を落とすようだ。多分マイちゃんなら30階層からどころか60階層ぐらいまでの魔物でも、それなりに狩れるのではと教えられた。


イーリスが潜っていた時は60階層近くに出るワイルドウルフとビックボアを中心に狩っていたのだとか……ワイルドウルフは前にリーニャちゃんを助ける際に狩った奴だな。大した強さではなかったけど……あれだけで一生遊べるお金になるはずだ。イーリスが金持ちなのはそこで十分戦えるレベルにあったからなのかと納得した。


仮にもイーリスは称号持ちだから当然と言えば当然だろう。

お金も大事だけど一番は強くなること。イーリスから聞いた60階層以降も様子を見ながら試してみたい。竜種がいくつか出るそうで、さらに稼げるがたまにある爆炎攻撃がうざったいので何度か行った程度という。

もちろんマイちゃんの安全が最優先ではあるが……


とりあえずイーリスを置き去りにしてダンジョンへと入る。

途中警備の職員に呼び止められたが、オネイロスのボア狩りでCランクに上がったギルドカードを見せると、顎が外れるぐらい驚いていたが無事通してくれた。


とりあえずはと暫くぶりのダンジョンを歩き出す。

マイちゃんもルンタッタしているようで足取りが軽い。


情報どおり無機質な魔物たちが襲い掛かってくるがマイちゃんが私を華麗に振り回して打ち砕いてゆく。手加減もすっかり覚えたマイちゃんは適度なパワーでその魔物たちを粉砕してゆく。

そしてあっという間に30階層までたどり着いた。


ちなみにマイちゃんを少し強くなったが私は新たなスキルは出てこなかった。堕落した女神がお仕事をさぼっているに違いない。


『マイちゃん!31階層からはボアやワーウルフも増えるみたいだけど進んでみる?』

「うん!マイ、まだまだたたかえる!」

マイちゃんに不安はないようだ。体力的には『疲労回復』があるから問題はないと思うから、先に進みましょうかね。


元気いっぱいのマイちゃんとルンタッタしながら階段を降りる。

少しだけ雰囲気が変わったのを感じる。


そして疎らだった冒険者たちも多少増えている感じがする。

当然のごとくマイちゃんを見て驚く冒険者たち。王都ではまだマイちゃんの強さは浸透してないからね。仕方ない。


かなりの頻度で冒険者がマイちゃんを心配して声をかけてくる。その都度、マイちゃんは「だいじょうぶなのー」と可愛く返事を返しているので、しばらくするとマイちゃんの後ろに心配する冒険者たちの列ができていた。


そんな中、前方には手付かずなボアとワーウルフの群れ。オネイロスで狩りなれた組み合わせだ。

マイちゃんは一気に駆けだし間合いを詰める。


後ろに列を作っていた冒険者たちは慌てて追いかけたり、声を上げてマイちゃんを心配していた。

が、次の瞬間、マイちゃんから繰り出された私の足(柄)の攻撃により屠られていゆく魔物たち。他の冒険者たちの動きが止まる。さっきまで張り上げていた声も止まっていた。


そして逃げようとしたワーウルフには私が『突撃』して仕留め終わる。そのまま『回収』してふよふよと飛んでも戻る私。その後も楽しそうに狩り終わった魔物の元にいっては『回収』からの『収納』を繰り返す。

全部終わったところでニッコリと冒険者たちに笑顔を向けるマイちゃん。やはり天才である。


その後、事あるごとにマイちゃん親衛隊は増えてゆく。

そしてまたマイちゃんの戦闘シーンを見て納得して各自持ち場へと戻る輩を量産していた。やはりマイちゃんの魅力で周りはメロメロなのである。一部持ち場に戻らずストーカーと化した冒険者も居たが、周りの冒険者の袋叩きに合っていたようだ。


そして気づけば50階層付近。

ここまで来ると他の冒険者は見かけなくなった。


ゆっくりと狩りを続けることができた。

素材もかなりの量が集まった。


目の前に出現したこのダンジョンでは初めてのワイルドウルフ3匹。もう夕刻だしこいつらを倒したら良い時間だろう。ちゃちゃっと倒したら換金して侯爵家へ戻ろう。そう思っていたが、マイちゃんは私をぎゅっと握り締めている。

どうやら今回はマイちゃん自身の手で屠りたいようだ。


『マイちゃん。気を付けてね』

「うん!だいじょうぶなの!」

凛々しく可愛いマイちゃんのお返事!


マイちゃんは駆け出すと先頭の一匹の眉間に私の足(柄)を叩き込む。

「ギャイン」と鳴きながら横へと逃げる必死なワイルドウルフ。ちょっとパワーを押さえ過ぎたかな?マイちゃんもバーンと飛び散るのは避けたいだろうしここはマイちゃんの力加減にゆだねよう。


横から2匹が同時攻撃するが、それは少しだけ強く力を籠められた横なぎの攻撃により左右のワイルドウルフは吹き飛ばされた。双方の胴が抉れ血を流している。弱々しく鳴いている2匹が少し可哀そうになる。

見た目は凶暴そうだけどどことなく可愛げのある顔してるしね……調教してペットとして侍らしてみたいかも。そしてそのふかふかのお腹で二人で横になって愛を語り合うんだ!


そんな妄想をしている間に、怯んでいた初撃を与えていたワイルドウルフの眉間をさらにつく。ボコリという音とともにその突きは脳まで達したのだろう。横に倒れてぴくぴくとしているそいつを確認した後、右にいるワイルドウルフに足を向けるマイちゃん。


首の後ろに狙いを定めて足(柄)を叩きつけると「ぎゃん」という一鳴きの後、動かなくなった。そして振り返ると……どうやらもう1匹は怯えているようで腰を落として座っていた。


『マイちゃん、どうする?』

「にがす?」

『でも血がいっぱい出てるから……多分死んじゃうと思うんだ。だから楽にしてあげたら良いと思うよ?』

「うーん、わかったのー」

これも異世界ならではの教育かもね。魔物とは言え命を狩り取って明日への糧にする。たとえその糧の先がマイちゃんの素敵なドレスの為であったとしても……


そしてマイちゃんは怯えるワイルドウルフに近づいて……『小回復』を使った。傷口がみるみる塞がっている。


『マイちゃん……』

「もうじゅうぶんなの。マイ、もっとつよいまものさんといっぱいたたかって、もっとつよくなるから!だからだいじょうぶなのー!」

アホ女神……聞いたか?私に涙腺をくれ!もう思いっきり泣きたい!泣かせてくれ!


その後、こちらを何度も振り返りながらこの場を後にするワイルドウルフ。どうか他の魔物にやられたりしないで生き抜いてほしい。あっ、なんならリボンでもつけておけばよかったか?まあ良いか。きっと次にあった時でも何となく分かるだろう。


その後、ギルドに戻った私たち。

大量の素材に驚きあたふたするギルド職員。

それをドヤ顔で見ているイーリス。いやあんたも仕事しなさいよ。


一応マイちゃんにはこっそりとアドバイスして「イーリスちゃんはおしごとないの?」という一言で、イーリスが慌てて山に積まれた素材に突っ込んだ後に数え始めていたが、周りからは鬱陶しがられていたようだ。

こういうところで普段からの行いが透けて見えるね。


そして侯爵家にお土産のお菓子を買っての帰り道。

綺麗な夕焼けを眺めながら歩いていた。


「おい!」

ん?何か視線を感じる……


「聞こえてるだろ!」

気のせいかな?


そしてその声の主はマイちゃんの前へと回り込んだ。



名前:マイ

種族:人族

力 150(+50) / 耐 60(+50) / 速 80(+10) / 魔 120(+10)

パッシブスキル 『精神耐性』

アクティブスキル 『小回復』

称号 『ママの飼い主(呪)』『モップ戦姫せんぴ

――――――

『マイのダガー』力+50 速+10 魔+10

『マイの鞘』耐+50

――――――

かなりレベルアップしたマイちゃん!これならそこらの輩なんて人捻りだね!しかし私のレベルはどうなっているのか……アホ女神、仕事さぼって何やってんだ!ってちょっと待って?称号が……増えてる……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る