31 変態の目

そして侯爵家にお土産のお菓子を買っての帰り道。

ふいに声を掛けられ、そしてその声の主はマイちゃんの前へと回り込んだ。


「あっ、クルちゃん!」

クルちゃんって……


マイちゃんがクルちゃんと呼んだのはあの鍛冶師ドワーフのクルダレゴのことである。今は若い男に偽装した姿で私たちの前に立っている。そして何故かちょっと怒った顔をしている。


「色々言いたいことはあるが、まあここじゃなんだ。ついてこい」

その言葉にマイちゃんが首をかしげる。可愛い。


だがこの光景はどう考えても変態さんが幼女を連れ込んでいるように見えるだろう。人通りは少なかったが何人かチラチラしている人がいる。まあ私には関係のない事だが……


『マイちゃん。なんだか知らないけど一応行ってみる?』

「うん」

私の小声の『念話』に元気に返事を返すマイちゃん。


まるでクルダレゴに返事をしているようだ。

周りの白い目が加速する。


そして案内されれるがままにクルダレゴの後をついてすぐ近くの店に入る。中はまだ整理されていない武具がごちゃりと積まれている。まあ元々オネイロスの方のお店もあまり整頓されていなかったけどこれって……


『ここってあんたの店?』

「そうだ」

クルダレゴの返答にマイちゃんが「おお」と言って周りをきょろきょろしている。マジ可愛い。


『王都にもお店持ってたんだね』

「新しく買ったに決まってんだろ!俺は静かなところで余生を暮らすって決めてたんだ!」

何を言ってるのかわからない。


『何言ってんの?頭、大丈夫?言ってること、辻褄が合ってないよ?』

「お前が王都に来たって情報が入ったから、こうやって追いかけてきたに決まってんだろ!」

衝撃の告白に鳥肌が立った……気がした。


『ご、ごめんなさい。おっさんはちょっと……』

フラれてショックだったのかしばしの沈黙が生まれる。マイちゃんは盾が積まれた場所で楽しそうに盾をツンツンしている。何か良い盾があったらプレゼントしよう。


「お前は俺を怒らせたいのか?そういう意味じゃねーよ!」

『じゃあどういう意味だったのよ!』

「お前の知性のあるインテリジェンス魔武具ウェポンとしての性能をもっと詳しく見たいからに決まってんだろ!」

私はやはり身の危険を感じて『影の手』で体(柄)を抱くようにして少し後退する。マジ怖いんですけど……


「おい……何を考えている……」

『結局私の体目当てじゃん』

私の言葉に百面相するクルダレゴ。自分の言動を顧みて悩んでいるのだろう。まあ言ってることは分かるけどね。どう言っても変な意味に捉えようと思えばそうなってしまうよね。つまりは私の体が目的なわけだし……


クルダレゴが頭を整理するのに時間がかかりそうなのでマイちゃんの方へ行くと、まだ盾をツンツン中なので見守っている。いつになく楽しそうなマイちゃん。やっぱり盾買うしかないね。

いや、お金はあるんだ。メイド服にぴったりな最高の盾をクルダレゴに作らせよう!私は自分の閃きに自画自賛で思わず浄化が漏れた。


その浄化の光でマイちゃんが私に気づき、さらなる笑顔を見せてくれた。マイちゃんからの海よりも深い愛を感じざるえない。


「ママ!たていっぱい!」

『そうだねー。マイちゃん盾装備する?』

「うーん、ちいさくて、かわいいのがいい!」

『マイちゃんに似合うのがいいねー』

マイちゃんからの要望をゲットした私は百面相を終え、ため息をついているクルダレゴの元へ……やっと自分の意思を伝えるのは困難だという事に気づいたのだろう。

どう言ったとして、乙女の体を見たいから追っかけて来たなんて……


紛う方なきストーカーだ。


『聞いてた?メイド服に合うマイちゃんにぴったりで可愛くて軽くてマイちゃんをちゃんと守ってくれる盾作って!』

「おい……どうしてそうなる」

『私を恐怖のどん底に落としたお詫び?まあお金ならいくらでも出すけど』

「おまえ!……まあいい。金なら俺も困ってはいない。だが少しだけでいいからお前を視させろよ……知性のあるインテリジェンス魔武具ウェポンとしてってことだからな!」

『まあいいわ。視るなら早く視て。そしてその嫌らしい変態の目で私を嘗め回すようにして存分に堪能したらいいわ!』

「いい加減俺も怒るそ……」

そう言っておでこをヒクつかせながら、クルダレゴは耳に付いているイヤリングを外した。


魔道具の効果が消え、ドワーフらしい姿に戻ったクルダレゴは私に近づくとじろじろと覗き込むような視線をむけて私の頭から足先までを確認しているようだ。ちょっと寒気がしてくる。


『も、もういいんじゃない?』

「ちっ!……触るのは……なしか?」

私は無言で『威圧』を飛ばした。


「わ、わかったって。もう大丈夫だ。だからそれやめろって!」

『で、いつまでにできるの?マイちゃんのメイド服に合うマイちゃんに相応しい品格と可愛さを持ち合わせ、軽くて強くて便利な機能も盛りだくさんな盾』

無言でこちらを見るクルダレゴ。


「なんか、注文が増えてねーか?」

『想像以上に穢された気がしたから……』

またおでこをヒクつかせたクルダレゴ。


「1週間……お前が土下座して謝るぐらいのを作ってやる……」

あのマイちゃんのダガーに背中の鞘、あとイーリスの例の魔道具を一晩で作った仕事の早いクルダレゴが1週間……煽った甲斐があるというものだ。


『期待してもいいんだよね?』

「絶対に土下座させてやるよ!」

いや絶対に土下座はしないけどね。


『じゃあ、このおっさんがマイちゃんの可愛い盾作ってくれるんだって。よかったねー。さっ、来週また来ようねー』

「わーい!じゃあ、クルちゃんまたねー」

可愛いマイちゃんの挨拶に少しだけ目を細めるクルダレゴ。ロリの気配は……無さそうではあるけど要警戒かな?マイちゃんより私の身の危険の方がありそうだけどね。


その後、少し遅くなってしまったが侯爵家へ戻り、待っていてくれたリーニャちゃんと遅い夕食を楽しんだ。リーニャちゃんのお部屋に運んでもらったので久しぶりに私も食を楽しんだ。

リーニャちゃんは初めて『影の口』を見たので少し驚いていた。


そしてその夜、私はマイちゃんとリーニャちゃんの寝顔を眺めながら考えていた。もちろん少し離れてだ。またリーニャちゃんに間違って掴まれては大変だからね。


私は思う。

ひょっとしてステータスおかしくない?


マイちゃんの能力値を再度確認する。

――――――

力 150(+50) / 耐 60(+50) / 速 80(+10) / 魔 120(+10)

――――――

武器の底上げもあって150とかなり高いだろう。戦闘時にはもちろん私が『強化』を使うから力が倍になっている。それでも力が300だ。


対してオネイロスのギルド長ディッシュは力が600を超えたぐらいだったはず。あと王都のダンジョンを60階層超えたというイーリスは……仮に彼女が人類最強としたとして、力は800を超えたぐらい。

ワイルドウルフを軽々狩るならそのぐらい必要なのだろう。


だが私とマイちゃんでワイルドウルフを軽々と狩ることができた。もしかしたらマイちゃんの攻撃には私の武器性能なんかも加えられているのかもしれない。それなら私の今の能力値は……

――――――

力 110 / 耐 ∞ / 速 60 / 魔 95

――――――

これに『怪力』による倍化で220が上乗せされているだろう。それでも520にしかならない。これでワイルドウルフを軽く狩れるものなのだろうか?もしかしたらだけどアホ女神が設定を適当に作ってるからそこら辺がうやむやに……


いや……やめよう。なんでも女神のせいにして良いわけではないだろう。

それ以外に考えられるとしたら私の『不朽』スキルによるものかもしれない。ある意味絶対に壊れない最強の武器だ。その攻撃力は無限大なのかもしれない。さすが私。そう考えたらちょっと『浄化』が漏れた。


私はそのキラキラした浄化の光を見ながら、さらに考える。


冒険者って……普通どれだけお金もってるんだろう?

イーリスが大量の白金貨を持っていた。


私たちも1億越えのお金持ちだ。だがイーリスが出した白金貨は明らかに1000枚以上はあるように見えた。10億だ。さらにそれをマイちゃんにあげても全然困らない風に言っていた。

もしかしたら全財産だとしてもマイちゃんになら貢いだ可能性はあるが、さすがにそれは……とはいえ、ワイルドウルフを狩ることができるのであればもっと持っていてもおかしくはない。


以前、侯爵に購入してもらったワイルドウルフ12匹分についてはその全素材で1億だった。実はあれもかなり破格の買取価格だったんだよね。それでも通常の買取で1匹の素材全てで300万程になったのが今日確認できた。

イーリスなら多分、そのワイルドウルフを狩っていた当時でも素材袋ぐらいは持っていただろう。狩った亡骸をそのまま入れておけば、手数料は取られるだろうがそれなりに素材は回収できるはず。

それなら日常的にワイルドウルフを狩るだけで何十億と稼げそうに思える。


……と、そこまで考えて私は思考の迷路に入り込んでいることに気が付いた。なぜ私は今、お金のことを考えているのだろう。イーリスについてはある程度稼いだ後に退屈になって隠居したのかもしれない。

実はオネイロスに立派な屋敷を持っているかもしれない。なんでそんな方向で考え悩む必要があったのか……いや違うな、冒険者って儲かる。でもそのお金どうしてるのだろう?なんて思ったからかもしれない。


つまりは今、私は暇していて考えなくても良いことを考察していたようだ。最近リーニャちゃんの部屋で寝てるから、マイちゃんとキャハハウフフした夜を過ごせないことでストレスでも感じているのだろうか。なんて考えまで浮かんだ。


『精神耐性』はちゃんと働いてほしい。


とにかく今は強くなるためにもっと戦わなきゃ!と思った。

マイちゃんも知らない間に『モップ戦姫せんぴ』という称号もついた。5才にして称号持ちだ。すでにそれほどまでに目立ってしまっている。きっと今後は色々な面倒ごとが次々にやってくるのはおそらく確定だろう。

まあ私がマイちゃんを守るから心配は無いんだけどね!


やっと少しだけ頭がすっきりした私は、イーリスと再会して思い出した大切な作業を朝まで続けた。マイちゃんの為なら夜なべしてえんやこりゃである。元々寝ないで平気なんだけどね!


翌日。


スッキリとした朝を迎える。

すでに二人はちゃんと起きてお着替え済みである。リーニャちゃんと一緒に起きるマイちゃんは私が手伝うことを拒否された。成長を感じるが寂しい。でもきっと明日から学園の寮にお泊りになるので、甘えてくれると予想している。


喜びはそれまで取っておこう。


今日もダンジョン!と行きたいところだけど、昨日リーニャちゃんから「一緒に遊びたかったのに」と苦情がきていたので、今日はリーニャちゃんプロデュースによる一日を送る予定になっている。

まずは朝食を頂いたらお庭を散策となった。


侯爵家の広い庭。

庭木や花をで、良く分からない虫さんをつんつんし、そしてお花を摘んで花輪を作って互いの頭にのせる。私はそれをマイちゃんの背中の鞘に納まり、まったりと眺めていた。

二人の後をセバスさんが付いて回り、庭のテラスではリーニャちゃんママ、ヘラベートさんが高そうなカップで何かを味わいながら二人を眺めていた。なんとも幸せな時間である。私も二人の尊さに無いはずの心臓がドキドキしていしまう。


そしてお昼時にはテラスのベンチに二人で座り、用意されたサンドイッチを頂いた。ドリンクはもちろんマイちゃんの大好きなメシオドリンクである。リーニャちゃんの接待に抜かりはない。

そしてテーブルの上でリーニャちゃんがチョイスした絵本を開き、マイちゃんに読み聞かせを始める。


内容は勇者の冒険譚でマイちゃんも目をキラキラさせて楽しんでいるようだ。それはそうとこの世界に勇者がいるのは聞いたが、魔王はいるのだろうか?後で誰かに聞きたいな。イーリスあたりは知ってるかな?


そんなことを考えつつも、楽しんでいる笑顔のマイちゃんの表情を一つ残らず脳内に保存する私。お宝ショットが日々増えてゆくのは本当に嬉しい。

そしてマイちゃんはリーニャちゃんに少しづつではあるが、字も教えてもらっているようだ。気に入った勇者のフレーズだろうか?「もうだれもしなせない!」とポーズを付けている可愛い。


マイちゃんの成長を見逃さないようしっかりと脳内に残さないとね!子供の成長は早いって言うし……きっとあっという間に大人になって……そしたらマイちゃんはどうするんだろうね……少しだけ悲しくなってきた私。


その後、少し涼しくなり日も落ちてきたので屋敷に戻る二人。


その後も仲良くおしゃべりに興じ、夕食を食べるとお風呂からのベットへダイブ、といつもの流れで就寝する二人であった。

たまにはこんな一日もいいよね。



最近さ、『視界確保』がレベルアップしたのか視界が少しだけ俯瞰で見えるような視点に出来るようになったんだよね。

だからマイちゃんの背中にいてもマイちゃんの笑顔が至近距離から眺めれるようになったんだよ。


これって……愛かな?

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