27 発表します

怒れる王。土下座する騎士。

そしてその隣には王妃ヘラベートさんが立っていた。


王妃は王に何やら耳元で囁いている。持っているセンスで口元を隠す仕草がセクシーだ。王も何やらうなずいている。


「皆の者、騒がせてすまなかった!この我が聖騎士隊のエースが、こちらのモップの少女、マイ殿との模擬戦を行いたいと言ってな!こう見えてもマイ殿は冒険者として腕が立つとのこと。今回催しとしてこのような演出をさせていただいた!」

なるほど。そうきたか。


王の言葉に静まり返っていた会場に「おお」と歓声が漏れた。


「結果は御覧の通りだ。私も将来有望な少女の戦う姿にほれぼれしてしまった。ありがとうマイ殿」

突然降られたマイちゃんはスカートをつまんでぺこりと頭を下げたので会場の歓声はひときわ大きくなった。マイちゃんはホントに天才なんです!実は私の娘なんですよー!脳内で興奮した私はキラキラと追加の演出をすることになる。


「ヘラクルも、もしもの際の安全対策、ありがとう。良い防壁であった。さらに精進するように」

皇太子は苦笑いしながら礼をしていた。


「レインスは……本気で悔しがっているようだが、もっと本気で精進するがいい!」

「はっ……はいぃ!」

ぴょこんと立ち上がると両手を横にピッと付けて直角のお辞儀を繰り出すレインス。そのまま高速で本来の待機場所である先ほどの位置へと戻っていった。


「マイ殿。うちの者が迷惑をかけた。すまなかった」

「マイ、だいじょうぶだよ」

すぐ傍まで歩み寄ってきた王が軽く頭を下げる。マイちゃんは気にしていないようだ。


「ご、ごめんねマイちゃん」

「ううん、おにいちゃんたちもまもってくれてありがとう。かっこよかったよ!」

弟君が謝りに来ると、その弟君と皇太子に向けてお礼を言っているマイちゃん。言われた皇太子は微笑ましく眺めている。弟君は顔を真っ赤にしてあたふたしていた。


そんな中、ふたたび止まっていた音楽がかかる。


するとマイちゃんが弟君の手を握り「いこー」と会場の中央に歩き出した。弟君は大丈夫だろうか?顔は真っ赤だし、動きがロボットのようだ。成るようにしかならないだろうと私は背中でマイちゃんの観察に勤しんだ。

笑顔でぴょんぴょん跳ねているマイちゃんと、それにつられて笑顔になってゆく弟君を見て少し複雑な心境になったのは内緒だ。マイちゃんが楽しいのならいいんだけどね……


楽しいダンスタイムも終わった。


途中からリーニャちゃんと姫殿下がマイちゃんを弟君から奪い去り、三人で手をつないでぴょんぴょんダンスを楽しむという催しも行われていた。リーニャちゃんの純白なドレスからチラチラする太ももは素敵だった。

姫殿下の薄いブルーのスカートがひらひらと舞う様は子供ながらドキドキとさせるものだった。マイちゃんはいつも通りぴょんぴょんするものの、防御力の高いメイド服によりチラリズムは生まれなかった。


そして音楽も終わり、落ち着きを見せた会場内。

そろそろ頃合いなのだろう。


リーニャちゃんたちも最初の席へと戻る。

王たちもその横に来て、いつの間にか置かれていた、より豪華な席へと座っていた。あれは侯爵家が用意したのかそれとも王家からの持ち込みなのか、というどうでも良いことが気になった。


そして、当主エイダルの咳払いの音と共に会場が静まり返り、そこにまたファンファーレのような音が流れる。あの『ぴっこぴっこぽっぴぴ~!』とは大違いの美しい音色だ。


そして国王プーシャンが立ち上がり、それに合わせてリーニャちゃんと皇太子ヘラクルも席を立つ。マイちゃんはそれを真剣な表情で見つめていた。私は少しドキドキしているかもしれない。


「ここで、皆に伝えたいことがある」

少しだけざわつく会場。どこかで芸人のような「へっぶしょん!」というくしゃみが聞こえた。この緊張する最中に中々の猛者である。


「今回、13才となったスカンダ侯爵家のリーニャ嬢であるが、私の娘、ブラシャンとも学園で仲良くやっているようだ」

以外とひっぱるな。みんな帰りたいオーラ出てないところはさすが異世界。ドキドキした気持ちをごまかそうとそんなアホな考えをしている私。言うならはっきりと言ってほしい。


「そして今回、そんな素敵なリーニャ嬢と、我が息子、ヘラクルが婚約することとなった!」

そんな、待ってました!な発表に会場の歓声がひときわ大きくなる。そしてまた「へーぶしょんうぇーい!」というくしゃみが……これ絶対わざとだよね?狙ってるよね?私も歓声に紛れるように思わず『おお!』って叫んだけどさ。


またもアホなことを考えながらも、目の前のマイちゃんの表情を堪能する。これは、乙女な表情なのだろうか。喜びと祝福と憧れのような何とも言えない嬉しそうな顔……マイちゃんのそんな表情に私はまた興奮してしまう。

私はその興奮の勢いのままにリーニャちゃんと皇太子ヘラクルに『浄化』を使ってキラキラとした演出をプラスした。


その光に感嘆の声をあげる面々。リーニャちゃんは、マイちゃん……というか私の仕業だと気づいてこちらになんとも綺麗な微笑みを見せてくれた。そしてその表情に私は娘を嫁に出す母親の心境になってしまう。


『リーニャちゃん綺麗だね……』

「うん!すごくきれい!」

マイちゃんも興奮が収まらないようだ。


その後、みなの祝福を受け二人の元に挨拶が殺到する。中にはおべっかを使って取り入ろうとしているような貴族もいたが、ほとんどは純粋に祝いの言葉が飛び交っていた。もしかしたら敵対する貴族なんかは呼んでいないのかもしれない。


そして、なんと最後は伯爵家のみならず、王族の方々もそのまま残って他の貴族を見送っていた。これは普通のことなんだろうか?とも思ったが、見送られる貴族たちが皆ガチガチに緊張していたので多分違うのだろう。


そして会場に残る侯爵家と王族の面々。

何が始まるだろうか。


残っていた一部の聖騎士隊により、大きなテーブルが運ばれてきて場は整えられた。というかまだレインスもいるんだね。帰ればいいのに。


そんな中始まった会談?でいいのかな?

まずはエイダルが今日のねぎらいの言葉を述べ、それから今後の予定として、結婚はリーニャちゃんが16才になってからという事も決まった。二つ上という皇太子はその時18才だから丁度良いのだろう。

異世界は結婚早いイメージあったけど普通だった。


そして話はマイちゃんの話になる。


「マイ殿、あらためて迷惑をかけて申し訳なかった」

その言葉と共に軽く頭を下げる国王と再び土下座するレインス。ああ、その為に残ったのかと感心する私。


「だいじょうぶです!」

元気よくお返事するマイちゃん。


「マイちゃんは5才って聞いたけど、学園行きたくない?」

「がくえん?」

何か話したそうな王を遮って姫殿下がマイちゃんに話しかけている。


「シャンドルは11才、今は初等部の6年になるんだけど……マイちゃんシャンドルの護衛してくれないかな?」

「ごえいにんむ!」

護衛と言う言葉に反応して少し興奮するマイちゃん。護衛という響き好きだもんね。


「良かったらだけど危険の少ない授業中ならマイちゃんも一緒にお勉強できるようにできると思うし……ねっお父様」

「あ、ああ。そうだな」

本当に姫殿下の見た目とのギャップが凄い。王の肯定の言葉に「やった」と喜び、席を立ちリーニャちゃんのところに行って一緒に喜んでいる。


結局、報酬は月に白金貨1枚、授業中は自由にして良いので授業を受けたいなら好きにして良い事、休み時間の護衛と学生寮の部屋の掃除をしてほしいという事が話し合いで決まった。就寝は寮の室内に侍女用の部屋があるとのこと。


マイちゃんは「やる!」と可愛い返事をした後、私を少し気にしてチラりとこちらに首を回してみたので『浄化』をキラキラさせてマイちゃんへ意思表示をした。それを見てマイちゃんはもう一度「よろしくおねがいします!」と頭を下げていた。


その後はみんなで屋敷の本館へ戻り、大人たちはまだ話があるようで連れだってどこかへ行ってしまった。

皇太子と弟君はセバスさんが寝室へ案内するようだ。


私たちはリーニャちゃんに連れられてリーニャちゃんのお部屋へ移動すると、ふたたびおしゃべりタイムが始まった。学園であったことを中心にまるでマイちゃんに説明するように、食堂の使い方とか寮での過ごし方、授業についてなど話していた。

二人とも良いお姉さんになりそうだ。


と、いう事は?ラブシャン姫殿下もマイちゃんのお姉ちゃん、ひいては私の可愛い我が子?ということでいいのでは?私は興奮を抑えることに必死であった。『精神耐性』はこういう時には働かないからね。

ずっとキラキラしちゃっては邪魔になっちゃうし。


思いがけず三児の母となった私は、可愛い娘たちが眠りにつくまでほっこりした気持ちのまま眺めつづけていた。


そしてその夜、マイちゃんをサンドして眠る三人。

私は邪魔にならないようにベッドの上の棚に外された鞘ごと寝かされていた。もちろん三人の寝顔を見つめるために鞘から這い出た私は、三人の寝顔を何時までも眺めつづけている。何かあっては大変だからね。


そんな警戒を強めていた私。

外部からの侵入者を探るべく『聞き耳』を発動してまわりを伺う。聞こえてきたのはある一室で、リーシャパパ、ことエイダル侯爵と、国王の声と思われる男の話であった。


「今のところ戦争の兆候は出ておりません」

「そうか」

いつかの男の声もする。


「どうやら、ワルジー様は家族がみな出ていったようで、自身は共和国側に亡命したようです。それにより攻め入るタイミングを見ているものと思われます」

「そう、か……」

動きが速いな。ワルジーの家は一家離散か。可哀そうなことをした……とは思ってはいないけど。可愛い娘たちに危害を加えようとしたんだ。当然の報いだよね。


どうやら戦争はまだしばらくなさそうだ。レインスとの戦いで実力不足は痛感している。やっぱり明日のお休みはマイちゃんと相談してダンジョンに行こうかな?そう思いながら私は『ふう』と小さなため息をついた。


「ふう?」

その声に遮断していた『視界』を空ける。目の前には可愛い我が子、ラブシャンちゃんの顔があった。


『あっ』

「あ?」

だめだ……言い訳が思いつかない。


そんな私に追い打ちをかけるようにラブシャンちゃんのお手てが私に伸びてきて……


「はわわわわわわ!」

『だめだってばー!』

「なにごと!」

悲鳴を上げて倒れ込むラブシャンちゃん。思わず叫ぶ私。そして飛び起きるリーシャちゃん。マイちゃんは……むくりと普通に起きてこちらも見ている。


「ど、どう言うことですか!モップがしゃべったんですけど!」

すぐに起き上がったラブシャンちゃん。私は仕方なく話した。


「じゃあこのモップさんは悠衣子さんでマイちゃんのママさんで知性のあるインテリジェンス魔武具ウェポンさんなんですね!」

興奮するラブシャンちゃんに全部話した。


マイちゃんは頬を膨らませて「ママー!」と怒っていた。可愛い。


こうして、リーシャだけでなくラブシャンちゃんとも秘密を共有することになった。秘密を共有することで三人の仲はより深まるわけだし……マイちゃんには後でちゃんと説明して機嫌を直してもらおう。

そう思いながらも再び眠りについた三人を、少し離れて遠巻きに眺めていた私だった。


◆◇◆◇◆


そして翌日。

王族のみんなは朝早くに帰っていった。マイちゃんは特にラブシャンちゃんにブンブンと手を振って別れを惜しんでいた。大丈夫。秘密を共有した仲だ。またすぐに会えるよ。とマイちゃんには後で伝えよう。


その後、朝食を頂いた後は土曜日と言うことも有りおやすみを頂き、マイちゃんとも相談してより強くなるためにと王都で初のダンジョンに潜るべく、冒険者ギルドに行くことになった。

ちなみにこの世界でも月曜日から日曜日まで週7日。土日はおやすみの日と設定されているようだ。もちろん土日に働く人も多いようだが。きっとあのアホ女神が面倒で適当に……ということだろう。


王都スーリヤの冒険者中央ギルド。オネイロスの冒険者ギルドも大きな建物であったが、こちらは規模が違うようだ。大きな建物が目の前にズズンとたっている。建物の端っこが遠い。

そんな冒険者ギルドの大きな扉の両脇にいる護衛と思われる兵士にペコリと頭を下げて中に入るマイちゃん。そして大きなエントランスのかなり奥に恐らく受付と思われる長いカウンターが見えた。


そして……ん?あれは?



聖騎士隊のフルプレートアーマーは全体的に銀色のメタリックな奴で青ラインがパーツに沿って入っている重厚感もありつつおしゃれな奴だ。

頭を守る部分もしっかり覆うタイプで、今日は顔は丸出しだったけど、有事には目線のみがでるようなマスクを装着できるようになってるとか。肩口にはナンバーが入っているからそれで見分けるのかな?


それよりもなんでやつがこんなところに……絶対に、負けないんだから!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る