26 ブラボービューティフォー!

王族とご挨拶。最後にエイダルからマイちゃんが紹介された。

マイちゃん、頑張って!


「客人で護衛?」

「ええ。こう見えてもマイちゃんは凄腕の冒険者、そして背中のモップで戦うと聞いております」

「メイドでは、無いのだな」

紹介されたマイちゃんは少し前に出る。


「はじめまして、こくおうへいか。おはつにおめにかかれて、こうえいです!」

そこで可愛くスカートをつまんでハイポーズ!可愛い!ブラボー!ビューティフォー!マジ天使降臨きたー!興奮が止まらない!もちろんキラキラと『浄化』が漏れマイちゃんに煌めきをプラスする!


マイちゃんはこのセリフとポーズは昨日から練習していたのだ。


「これはこれは可愛いお嬢ちゃんだ。だが冒険者には見えないのだが……」

ポーズは好評のようだが冒険者にはやっぱり見えないよね。


「先日献上致しましたワイルドウルフも、マイちゃんが一人で瞬く間に討伐したとのことです。であるなセバス」

「はい。それはもう、あっという間に……しかもケガをした護衛の二人を回復しながら……」

マイちゃんの武勇伝を余すことなく伝えるセバスさん。


リーニャちゃんもうんうん。と頷いている。


「なるほどな……幼いのにそれほどの強者、ぜひ我が国のために働いてほしいものだ」

「それは本人に……」

えっ?いくら王でもマイちゃんは渡さないけど?私は警戒レベルを少しだけ上げる。


「お前、マイと言うんだな!強いのだな!じゃあ僕のお嫁さんになってくれ!」

王を警戒していたら真横から突然のプロポーズ。何言ってるの!マイちゃんは私のよ!


私はふわりと浮かぶとその声の主、皇太子の弟君、シャンドル・スーリヤ殿下の前に立ちはだかった。いくら子供だからってマイちゃんにちょっかいをかけるなら、容赦をする気はない。

マイちゃんは絶対に守るんだから!


そして次の瞬間、パシーン!と気持ちの良い音が聞こえた。

その音色の発生元はシャンドル殿下の頭であり、それを奏でたのはすぐ横で小さなお手てを上から振りぬいた第一皇女、ラブシャント姫殿下であった。シャンドル殿下が「いたたた!」と声をあげしゃがみこんだ。


「愚弟が大変失礼をいたしました」

ラグシャント殿下はマイちゃんに頭を下げる。この少女……凄くイイ!お人形さんのような見た目とのギャップからキュンとしてしまう私。


「いきなり痛いじゃんかねーちゃん!」

もう一度良い音色が奏でられた。


「私たちはリーニャちゃんの家にお呼ばれしてここにいるのよ!王族としての品格を貶めないで!」

「ううう」

あんな小さなうちからあんな難しい言葉。王族も大変なんだね。


「ごめんねマイちゃん。リーニャちゃんも」

「だいじょうぶ!」

「ふふふ。シャンドルは相変わらずだね」

やっぱり二人はお友達だったようで仲睦まじくおしゃべりが始まった。マイちゃんもその中に加わる。三人がまたスカートをつまんで自己紹介ごっこを始めたのでそっと背中に戻るとその様子を見守っていた。


「ね、ねえちゃん……僕にも、マイちゃん紹介して……」

そして勇気を出して声を絞り出した弟君。


すると、マイちゃんが弟君の方を向き……


「マイはメイドでぼうけんしゃなのー。よろしくなのー」

気遣いのできる良い子!私はマイちゃんの日々の成長に驚いてばかりいる気がする。言われた弟君は動きが止まってるけど。


結局ほとんど話すことは無く、マイちゃんはリーニャちゃんとラブシャント姫殿下の元に戻り、マイちゃんの冒険譚などで盛り上がっていた。でも弟君も挨拶をされたからか、少しだけ朗らかな表情を浮かべマイちゃんたちを眺めていた。


弟君も顔は悪くないんだよね。でもちょっと我儘な部分があるのかな?どれどれ……

私はまた『鑑定眼』を使うと、『魔力回復』『炎魔法』『水魔法』『詠唱破棄』と魔法特化なスキルが揃っていた。能力値は全く育っていないかんじだけどね。さすが王家の血筋ということなのかな?

もしかしたらそれでもてはやされちゃって我儘な性格になっちゃった……という事もあり得るよね。


そして時間は過ぎ、食事として運ばれた料理も適度にみんな食べているようだ。マイちゃんたち女子三人は食事を少し食べた後はスイーツコーナーに行ってきゃっきゃしていた。やっぱり女の子は甘いものだよね。私も食べたい!

この世界の料理はかなり発展していて、地球ともあまり変わらないほどの洗練されたスイーツが多かった。もちろんこの世界においても侯爵家の提供する食事などはレベルの高いものなのだろう。

他の招待された貴族たちも目を輝かせて食べている。


ただし地球とは名前も定番もかなり違うようだけど。


「やっぱり私はラクリームが好き!スイーツ界の王道よね!」

ラクリームはふわふわした丸くて長い生地の中には白いミルククリームのようなものが入っている。その上にはチョコのようなソースがかけられており、フォークとナイフで美味しそうにいただいていた。


「私はガナトッテかな?ガナの実がはじけて口の中に広がるのがたまらない!」

リーニャちゃんが口にしているのは四角いスポンジ生地のようなものに、ガナの実?赤くて2ミリ程度の丸い粒が黄色いクリームと一緒に乗ってるケーキのようだ。味が全く想像できない。黄色いのはカスタードなのか疑問が残る。


「マイ、メシオンすき!シャクシャクおいしい!」

マイちゃんは分かりやすいね。大好きなメシオの実、あの白いメロンのような見た目で中にはオレンジ色の甘くてとろりとした果汁が詰まっていて外側がちょっと固い奴がカットされていて、そのまま綺麗な寒天のようなものに包まれてる。


いつもジュースで飲んでいるから実物のメシオを見たのは初めてだけどね。違和感が凄い。


そんな中、ゆったりとした音楽が聖騎士隊所属の音楽隊から奏でられる。どうやらダンスタイムになったようだ。すぐに本日の主役、リーニャちゃんへと視線が集まってゆく。各貴族の子息である男性陣はジワジワと近づきたいオーラが出ている。


だが多分無駄だろうね。


すぐに動いたのはやっぱりヘラクル殿下だった。

リーニャちゃんの前に膝をつき手をスッと差し出した。


「リーニャさん、踊ってくれないだろうか?」

「はい……」

会場からため息が漏れ聞こえる。美男美女のダンスがゆっくりとした音楽に合わせ繰り広げられている。絵になるなと感動してしまう。


「マイさん!踊ってくれませんか!」

不意に声がかけられた。弟君だった。


「マイ、おどったことないよ?」

「だ、大丈夫です!ダンスなんて、僕の手を取っていただければ……あ、あとは音楽に合わせて体を動かすだけでいいんです!」

中々上手に誘えているのではないか。と思っていたラブシャント姫殿下がこちらを頑張って!な表情で見ていたので入れ知恵されたのかもしれない。まあダンスぐらいならマイちゃんが良いのなら、良いのかも……


「じゃあやってみるのー」

「ありがとうございます!」

マイちゃんの返事に腰を直角にまげてお礼を言う弟君。いやキミ、王族なのでは?


そして震える手をマイちゃんに差し出すと、それをスッと握るマイちゃん。ちょっとキー!となってしまう。でもマイちゃんが楽しい時間を過ごせればいいんだ……私も後でマイちゃんと踊ってもらおう。


そして開いたスペースへ移動しようとすると、聖騎士隊のひとりがツカツカと歩いてきて声を掛けてきた。


「お待ちください殿下」

「な、なんだ!」

「おい!マイと言ったな。その背中のモップはせめて置いてこい。殿下と踊れるのだ。そんな不格好では殿下が恥ずかしいだろ!そのメイド服は……まあ多少は良い物の様だからゆるされるが……」

この聖騎士隊の女は、おそらく隊の中では一番強いエースと呼ばれている者だ。ヘラクル皇太子殿下とリーニャちゃんの会話の中で、そんなことを言っていた。


そしてさっきの弟君の前に私が立ちふさがった時も、いつでも飛び掛かれるように腰の鞘に手を充てながら間合いを調整していた。ステータスもイーリス並みに強いのは確認している。とは言え、マイちゃんに対する暴言を許す訳にはいかない。


「これはだいじょうぶ。マイのモップなの。だいじなものだから……」

「おまえは殿下に恥をかかせたいのか?」

「お、おいレインス、いいから。マイちゃんはそのままで踊ってもらえればいいんだ!邪魔しないでくれ!」

「そう言う訳にはいきません!」

弟君が頑張ってマイちゃんを庇っている。少し見直した。だがその言葉がレインスと呼ばれた女には響かなかった様だ。


そしてレインスは私に手を伸ばす。

マイちゃんは弟君の手を離し、少し後ろへ飛びのいた。


「おい!いいから渡せばいいだろ。ちゃんと預かっててやるから。なぜ拒む!逆に怪しいぞ!」

「これは、マイいがいがさわるとバリバリしちゃうのー!さわっちゃだめなのー!」

マイちゃんの抵抗も虚しく飛びついてきたレインスの手は私にかかる。私はあえて鞘からは出なかった。こんな奴はバリバリしてしまえばいい!


そして繰り出されるいつものバリバリ。


「うばばばばばっ!」

レインスは慌てて手を離し後ろへ飛びのいた。しかしこちらを睨みつけ臨戦態勢は崩していない。まだ続きそうな予感、一応備えはしておこう。


『マイちゃん、大丈夫よ。何があってもママが守るから』

周りから距離ができたから丁度良いと思い、小さな『念話』で伝えるマイちゃんへの言葉。それにマイちゃんがゆっくりとうなずいた。


私は鞘から飛び出るとふわふわとマイちゃんとの間に浮かぶ。

レインスは腰の鞘に手を置いて『俊足』を発動、そして『居合切り』を放つ。そのスキルはすでに視て分かっていた。実に攻撃的なスキルだ。私はそれを足(柄)で回転するように弾く。

弾かれたレインスは驚いた顔を見せている。強い冒険者とは聞いていたはずだがさすがに子供と侮っていたのだろう。だが手は止めない。ガシガシと斬撃を叩きつけようと振り回している。


一撃一撃が強い。うまくタイミングを合わせ回転による力で何とか弾くことができている。もちろん『怪力』も発動済みだ。だがそもそもの能力値も相手が上だ。それにまだレインスには切れる手札も残っている。


そのレインスは、強い斬撃を放った後、距離を取る。ふたたび悔しそうな表情を浮かべ身構えている。どうやらそれがくるようだ。


足にグッと力を入れるその様子……発動させているのは『肉体酷使』というスキルだろうね。おそらく身体強化のようなスキルだが溜めがいるのかな?名前から言ってどんな修行をしたら身に着くんだろうね。

だがこちらも負けるわけにはいかない。


私は続くであろう先ほどの『俊足』と『居合切り』に備え何時でも『突撃』を発動できる準備を整えて待ち構えていた。


そして放たれるおそらくレインスの全力一撃!

それは轟音を立てこちらに向かってくる。さすが高い能力を持った者の全力攻撃。ちょっとまずい。でもマイちゃんを守るため、負けるわけにはいかない!私は全力の『突撃』を繰り出し迎え撃つ!


そして私の目の前には、半透明の障壁が出現しバキン・・・という鈍い音と共にそれがレインスの刃で砕け散る。が、それで少しだけ勢いが削がれたため、私の『突撃』がその刃をはじき飛ばした。

勢いを残した私の足(柄)がカチアゲられた刃で体勢を崩したレインスの、お腹の辺りに勢いよく叩き込まれた。


「ぐえっ」

ヒキガエルのような声をあげて倒れ込んだレインス。


私は後ろを向くと、マイちゃんを守るように皇太子くんが肩で息をするようにして立っていた。中々の男前だ。ステータスはマイちゃんの方が強いけどね。守るために動ける人は普通に尊敬できるよね。

その隣には震えながらも両手を広げ、目をつぶっている弟君、シャンドル殿下もいた。見直したよ。少しキュンってしちゃうよね。


私は大人しくマイちゃんの鞘へと戻る。途中でマイちゃんが笑顔を向けてくれたので私の心はルンタッタしていた。マイちゃんを守ることができた達成感と一緒に心がサンバを踊っていた。

そして倒れているレインスの元には……プーシャン国王陛下がかけより……持っていた杖で殴っていた。


「この、馬鹿もんが!」

「す、すみません!」

すぐさま目覚め、土下座するレインス。結構凄いの入って死んでないよね?と心配していたが大丈夫だったようだ。さすが高スぺ。撃たれ強い。


しかしこの重々しい空気はどうしたものか……

もう音楽も止まってるしね。


私は事の行方を、他の人に丸投げするしかなかった。



今回中々の活躍を見せた皇太子くん。見どころがあるよね。これなら安心してリーニャちゃんをお任せできる。

弟君も中々頑張ったのでは。第一声からは比べ物にならない成長っぷり。もしかしたら本気でマイちゃんにラブしちゃったのかな?うーん。応援したい気持ちはないけど……マイちゃんの気持ち優先かな?

それまでは様子見ということで……マイちゃんを観察する作業に没頭しよう。

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