24 ドキドキのお買い物
買い物デートである!
天気の恵まれ煌めく太陽に爽やかな風が心地よい。というかこの世界って年中こんな感じらしい。きっと女神が四季という概念を忘れているのだろう。
そんな中、リーニャちゃんに手を引かれているマイちゃんとお買い物デートに出かけることになった。当然私は背中に待機。何かあっても悪即殺の精神で身構えている。
今日の目的はリーニャちゃんの誕生パーティのドレスである。3日後に控えたリーニャちゃんの13才の誕生パーティ。侯爵家も総出を上げて準備しているとのことで。ドレスもすでに完成しており、あとは細かな調整を残すのみであった。
「マイちゃんも作る?」とも言われ、この高い耐性を持ったメイド服について説明することになってしまった。竜骨とか色々使っていることを告げると目を見開いて驚いていた。
どうやら竜骨は一応の値段は付いているものの、お金で買うとかいうものでは無いらしい。限られた鍛冶師が入手してその鍛冶師に認められた者のみがその素材を利用することが認められるという『特級素材』と言われるものらしい。
それらが使われているマイちゃんのメイド服のようなものは、見る人が視ると分かってしまうので、もうそれが正装ということで良いらしい。むしろ普通のドレスだと格がさがるのだとか……
セバスさんは「おそらくそうだろう」という程度だがその希少性を見抜いていたため、マイちゃんの雇用に問題なしと判断したらしい。そのような装備をしている者に悪いものはいないという認識らしい。
クルダレゴの奴、本当に優秀だったんだな……私はそこまで日は経っていないが既に懐かしくなったドワーフを思い出す。
そして「マイちゃんも祝ってくれる?」というお願いに当然のことながら「リーニャちゃんをいわうのはとうぜん!」と鼻息荒く答えていたので私も鼻息が荒くなった。どうやらマイちゃんも参加が決定したようだ。
そしてお出かけ前にマイちゃんがトイレは駆け込んだ。
「ママ!マイね、リーニャちゃんにプレゼントかっていい?」
何と言う事だろう!私は気遣いのできる天使の成長に涙した。涙腺は無いけど。そしてもちろんOKを出すのだ。何が欲しいの?魔道具でも屋敷でも何でもOKよ!
『もちろんよ!』
「ありがとなのー!ママだいすきー!」
私は壊れてしまいそうだった。好きーって!大好きーって言われたのー!
「リーニャちゃんのドレスをみてから、なにかおそろいのをかいたいなって」
『そうなんだねー分かった。ほしいのあったら買っていいからね!』
「それでね、にあうのをママにえらんでほしいのー」
『えっ?いいの?』
「うん!ママがえらんでくれたほうがよいきがするから。よろしくなのー!」
私は歓喜の『浄化』がほとばしった。
トイレは凄く綺麗になった。
マイちゃんとの密談も終わり、セバスさんと4名ほどの護衛を付けて街へ向けて馬車に乗り込む私たち。マイちゃんと背中の私はリーニャちゃんの膝の上だ。マイちゃんはご機嫌で鼻歌を歌っている。
それに合わせてリーニャちゃんも鼻歌を歌っているので、この世界では一般的な歌なのかもしれない。悔しい!混じりたい!とは言えセバスさんも馬車の中なので『念話』はできないけどね。
何事もなく無事に大きな店舗の前へと止まる。
どうやらここが侯爵家御用達のお店らしい。
私はお上りさんの様に視界をきょろきょろ動かしている。マイちゃんはきょろきょろする仕草が可愛い。リーニャちゃんはそれを見てほほ笑んでいる。巨大なデパートのような建物前で幸せな空間が出来上がっていた。
「では、まいりましょうか」
その幸せ空間はセバスさんのひとことで消失してしまったが、いつまでもここに居ても仕方がないのは事実なので我慢しよう。
私は次に待っているリーニャちゃんの素敵なドレス姿とそれを見て喜ぶマイちゃんを想像することに意識を切り替えた。
そして店内に入ると上品なスタッフ数名に出迎えられ、案内されるままに上品な部屋へと通されたマイちゃんと私とリーニャちゃんにセバスさん。護衛の面々は部屋の外に待機のようだ。
そして上品にエスコートされたリーニャちゃんは大きなカーテンで仕切られている試着室へと連れ込まれていく。
私もちょっと着付けの勉強に連れてってくれないだろうか?いずれマイちゃん用に『特級素材』を惜しみなくつぎ込んだドレスをクルダレゴに作らせた時には自分で着付けしてあげたいし……
そんな妄想をしている間にマイちゃんの鼻歌タイムが始まったので私はその旋律を脳裏に刻みつける作業に没頭した。絶対後で一緒にセッションするんだ!
暫くマイちゃんの鼻歌を堪能していると、あの上品なお姉さんがスッと試着室のカーテンを開ける。中から純白のドレスに身を包んだリーニャちゃんが少しだけ頬を赤らめ歩いてきた。
これは……ウエディングドレスでは?
元々白いドレスが多いリーニャちゃんが、普段より何段階も豪華になった純白のドレスに身を包んでいる。その上に彫り込まれている刺繍は驚くほど手が混んでいるだろう。胸元のマークは見たことあると思ったがスカンダ家の家紋か……
どちらかと言うと前世の馬に近いこの世界では細身の馬と思われるものに騎士が剣を構えて騎乗しているスカンダ家の家紋。それが見事に再現されている。スカートのいたるところにリングが連なったようなラインのような……
これ、何日前から用意してたのだろう。もしかしたら数年掛かり?それとも分業制?はたまた魔法でちょちょいのちょいなのかな?
この世界のことをまだ知らないことも多い私はもしかしたらこういったのも簡単にできてしまうのかもしれないと思ったが、やはり侯爵家の記念のドレスだ。皇太子殿下との婚約もあるかもという話も盗み聞きしていた。
粗末なものなわけはないだろう。
「ほわわわわ」
私の視界にはしっかりとマイちゃんが感嘆の声をあげているのを捉えている。というか私はずっとマイちゃんの背中に収まっているのだから、常にマイちゃんの肩越しからマイちゃんの顔を眺めつつもリーニャちゃんのドレスを見ているのだ。
マイちゃんの可愛い表情は常に記録済みである。
「どう?かな……」
「かわいい!リーニャちゃんおひめさま!すごいきれいなのー!」
マイちゃんは大興奮。リーニャちゃんは両手で顔を押さえて照れている。あーこの時間がずっと続けばいいのに!そんなことを思いながら二人を眺めていた。
その後、細かなサイズ調整を済ませたリーニャちゃんはマイちゃんと一緒に部屋を出ると店内を案内され商品を見て回る。セバスさんと護衛も一緒である。マイちゃんがいるので護衛は少し距離を取って有事に備えているようだ。
一応マイちゃんが強い冒険者であることは周知済みのようだが、護衛の方はそれをあまり信じていないようだ。というかマイちゃんを見る目は4人とも優しい。何かあったらすぐに守ってあげるからね!っていう目だ。
私には分かる。私も同じ目をしているはずだから。
ほっこりとした気持ちになりながらもマイちゃんとの約束を果たすべく、商品をしっかりと物色してゆく。責任は重大だ。さっきのリーニャちゃんのドレスはバッチリと脳内に保存した。
後はその豪華なドレスに負けず、それていてワンポイントに際立つ何かを探すのだ。難しい任務ではあるがその先にはマイちゃんの笑顔と信頼というご褒美が待っているのだ。やるしかない!
私は脳内をフルに動かし商品を物色する。
そして髪飾りのコーナーで一つ良さそうなのが見つかった。これは……キープかな?脳内のドレスを着たリーニャちゃんとそのリーニャちゃんも好きだと思われる淡いピンクの小さなバラのような髪飾り。
マイちゃんの今のメイド服、頭のカチューシャにもぴったりとマッチするだろう。でも髪飾りか……小さいタイプのだからそこまで目ただないけど……好みもあるしなー。でもぴったりと合いそうなんだよなー。
結局他のも物色して悩みに悩んだ結果、あの髪飾りに決めた私。
楽しいお買い物タイムは終了し、リーニャちゃんも数点の普段使いと思われる小物を購入していた。マイちゃんも手鏡とおしゃれなリボンも購入していた。良いセンスだ!さすがマイちゃん!
そして動き出すマイちゃん。
リーニャちゃんに「ちょっとおトイレなのー」と断りを入れると、セバスさんから「ではあそこでお待ちしております」と近くの休憩所のような場所を指示された。
リーニャちゃんも一緒に行くと言っていたがそれは「だいじょうぶなの。すこしまっててほしいのー」と伝えてトイレへと急ぐマイちゃん。しっかりと護衛は不要とも伝えていた。
そしてトイレへ入るとすぐに「ママ!どう?」と聞いてきたのでピンクの小さなお花の髪飾りと伝えると「あれもきれいだったのー!」とマイちゃんもしっかりチェックしていたことを知る。やっぱり以心伝心だね!
それでも髪留めだからもしかしたら別に用意してるかもしれないし、一旦購入してからさっきの上品なお姉さんに聞いてみようとも提案した。もしダメでも普段使いにも使えるだろうから購入しておいて問題ないだろう。
「わかったのー!」と少しテンションの上がったマイちゃんがタタタと店内を走る。途中、店員さんにやんわり注意されたので少し照れながらごめんなさいするマイちゃんも可愛かった。
髪留め売り場に到着すると先ほどの髪飾りを手に取って物色するマイちゃん。作りもしっかりしている様に見える。お値段はこの小ささで金貨15枚。約15万ほどで周りと比較してもかなり高価と言えるだろう。
それだけにちゃんとしたものだと安心できる。
「ママ、これでいい?」
小声で聞いてくるマイちゃんに肯定の『浄化』を漏らす。
その意図もちゃんと伝わり、近くの店員さんに「これください」と飾ってあった二つを取って手渡した。手渡された店員さんは少し戸惑うものの会計するためのカウンターへと誘導する。
そして金貨30枚を取り出して無事買い物が終了した。金貨を取り出した際にはここまで案内してくれた店員さんも会計を担当した店員さんも少し驚いていたが、さすが貴族様も使うであろう高級店。騒いだりはしないようだった。
それから大急ぎで、怒られない程度の早足でさっきの部屋へ向かいその扉をノックするマイちゃん。大忙しである。リーニャちゃんたちを待たせているし多少焦っているようだ。額から滲む汗はちゃんと『浄化』しておいた。その浄化の光にマイちゃんも少し落ち着いたようだった。
「あら。リーニャお嬢様と一緒にいらしたお嬢様ですね。どうしかいたしましたでしょうか?忘れ物……という事もないでしょうし……」
マイちゃんにも丁寧に接してくれる。やはり上品なお姉さんだ。
そして取り出した髪飾りをリーニャちゃんに贈りたいことなどを一生懸命に説明するマイちゃんと、それを微笑みながら聞いている上品なお姉さん。
結局あの時の姿が完成形なのでそのぐらいのワンポイントもありだから、後はリーニャちゃんの好みによるとのこと。おそらくだがピンクも好きなリーニャちゃんだ。このぐらいの淡い色ならきっと気に入ってくれるはず。
マイちゃんもそう思ったのか店員さんにちゃんとお礼を言ってからその部屋を後にした。足早に急ぐマイちゃんは素敵な笑顔をしていた。
その後、心配したと出迎えられたマイちゃんは、ちょっと混んでたのと忘れ物をしたのと上手くごまかしていた。でも顔は笑顔がやめられないようでサバスさん達も不思議がっていた。
しかしミッションは無事成功。後は夜にお部屋で髪飾りをプレゼントするだけだ。
帰りの馬車ではマイちゃんの鼻歌が心成しか弾んていた。私の心もミッションをこなした達成感で弾んでいたかもしれない。
決戦は夜!頑張れマイちゃん!
私も時間をみてドレスでも作り始めようかな?クルダレゴあたりが近くにいたらあの錬成陣みたいの教えてもらったり竜骨とかどこで手に入るとか聞けたのに。奴なら少しおさわりさせれば色々と教えてもらえそう……
ちょっと嫌だけど仕方ないかな?
マイちゃんのためなら多少の犠牲はつきものだ。機会があれば色々聞いてみよう。マイちゃんの素敵な武装ドレスのために!
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