22 ふわふわ布団は幸せ

侯爵家でマイちゃんの凄さを見せつけた午後。


その後は助けてもたららお礼と歓迎ということで、夕食&お泊りでゆっくりすることとなったマイちゃんと私。

リーニャちゃんの部屋でゆっくりしてからお食事をという事になったのだが途中にお手洗いを借りる。そしてマイちゃんに『何かあればマイちゃんの好きにしていいからね』と伝えておいた。


それでもどうしても判断に迷うような時には、私の判断で軽く『浄化』を使うからとも伝えた。そしてどうしてもダメって時にはマイちゃんの背中をくいっと引っ張るという事も伝えた。

万が一のピンチの時にだけ使おうと思う。


『その時はママを信じて体を預けてね』と伝えると可愛い返事が返ってきたので、当然ながらマイちゃんは私が命に代えても守らなくちゃ!と改めて思った。


リーニャちゃんのお部屋にたどり着く。

照れながらマイちゃんを招き入れたリーニャちゃんだが、その室内は整理整頓されている。が、所々にフリフリしたぬいぐるみだったりフリルでピンクなカーテンだったりドレスだったりと可愛さが目立つ。

マイちゃんも少し緊張しているようだ。


そしてベットに腰掛けたリーニャちゃんとおしゃべりするマイちゃん。

話題は主にマイちゃんの冒険譚を身振り手振りで話ている。リーニャちゃんは通っている学園での出来事を話していた。


私のことを「このモップ」と言いながら話すのだが何度かママと言い間違えてしまいそれをほっこりとして見守るリーニャちゃん。

リーニャちゃんのお友達との楽しい出来事や、嫌なお友達の嫌がらせされちゃった出来事などを話すリーニャちゃんとそれを興奮しながら聞いているマイちゃん。

意地悪なお友達の話になると「てごめ!」とか「もやす!」と言っていたが燃やすはともかく手籠めは違うと思われるが、興奮するマイちゃんが可愛いので大丈夫だ。


至福の時間が過ぎてゆく。


途中でリーニャちゃんに「そのモップ、私も持ってみてもいい?」と言われたマイちゃんは「こ、これは呪いのモップ!マイ以外が触るとバリバリする!」と言っていたがそれでもお願いされたので私はふわりとマイちゃんの背中から離脱した。


ふわふわとリーニャちゃんの前に浮かぶ私。

リーニャちゃんならワンチャン大丈夫かもしれない……そしてリーニャちゃんの柔らかそうな指が私にチョンと……「きゃっ!」と悲鳴を上げて指を引っ込めるリーニャちゃん。どうやら駄目だったようだ。


そんなことも有りつつも時間は過ぎ、ノックの音と共にセバスさんが登場して夕食の時間を告げられる。

リーニャちゃんに手を引かれ夕食の場であろう部屋へ連れられるマイちゃん。何やら「ふんふんふーん」と歌っているが何を歌っているかは不明だ。初めて聞く旋律だった。


夕食の場であろう大きな部屋へと入ると、中央のテーブルには当主エイダルがすでに座っていた。そして隣には……やばいね。清楚な白のドレスの胸元がはじけんばかりの物をお持ちのどっかの外国人モデルのような綺麗な女性がこちらを笑顔で見ていた。

恐らくリーニャちゃんママなんだろうね。金髪のウェーブがかかったロングヘアで吸い込まれそうな青い瞳、口元もうっすらと口紅を引いている程度だろうがかなりセクシーだ。私が男なら今すぐ飛びついていただろう。


「おかえりリーニャ。それと、あなたがマイちゃんね。こんにちわ。娘を助けてくれてありがとう」

「はふ」

私たちが入ってきたのを確認するとすぐに駆け寄ってきてお礼を言いつつマイちゃんを抱きしめるその夫人。マイちゃんが夫人に埋まっている……マイちゃんは苦しかったのか夫人のお胸を押しのけて脱出した。


お胸を押されちょっと色っぽい声を出していた夫人は少し自重してほしい。マイちゃんはまだ5才。そう言う教育はこれから私が追々していくので!


そんなこともありつつも何とか夕食が始まった。

メイドさん達が次々と料理をテーブルへと運んで行く。それをメイド姿で見守るマイちゃん。思えばあの伯爵家では給仕を覚えるために見守っていたマイちゃんが今は給仕されている。分からないものである。

感慨深い思いを感じていたが、当のマイちゃんは目の前に出された豪華な食事に夢中である。いっぱい食べて早く大きく……はならなくていいから健康に育ってほしい。


「マイちゃんはメイドさんで浄化が使えると聞きましたが本当ですか?」

食事も和やかに終わりかけた頃、リーニャちゃんママであるマリアンさんからの質問がくる。


「マイはメイドでぼうけんしゃでじょうかがつかえます!」

少し緊張しながらも答えるマイちゃん。その様子にみんなが笑顔で見守っている。


「じゃあ、家でメイドさんしてみる?リーニャちゃんの護衛も兼ねて。あとそんなに緊張しなくていいのよ?リーニャに接するみたいにしてくれると嬉しいわ」

「わかったのー。マイ、メイドさんするー」

「やった!マイちゃんと一緒にいられるのね!」

ナイフとフォークを置いて喜ぶマイちゃん。リーニャちゃんも嬉しそうだ。


こうして始まったスカンダ侯爵家でのメイド生活。

月に白金貨1枚というメイドとしては破格の契約。住み込みで三食おやつ付き。もちろん寝る場所はリーニャちゃんのお部屋だ。週に二日は自由にして良いとのことなのでお休みにはショッピングやダンジョンに出掛けよう。


そしてその夜、リーニャちゃんのお部屋のふわふわのベットにメイド服を脱ぎ脱ぎして潜り込むマイちゃん。隣にはリーニャちゃんがマイちゃんを見つめては笑顔を見せていた。

私はリーニャちゃんとは反対側の布団の中に寝かされマイちゃんがしっかりと握り締めている。


少しの間おしゃべりに興じていた二人も、お互い疲れているようでいつの間にか寝息を立てていた。二人とも幸せそうな顔だ。私はふわりと布団を抜け出して寝顔を観察する作業に没頭した。


そして私は油断していたのだ。

寝ぼけているのか分からないが、リーニャちゃんが不意に私の方に手を伸ばし……掴んでしまった。


バリバリと呪いが発動して「ひゃぁーん!」と悲鳴を上げるリーニャちゃんに私は思わず突っ込みを入れてしまったのだ。


『掴んじゃだめだって言ったのにー!』

「えっ?」

『あっ……』

「夢?」

『夢ですよー』

しばしの沈黙が生まれた。


「ママ……」

『あっ、マイちゃん、違うの。ママ急に掴まれたから気が動転して……』

結局全て話した。


ドアがノックされメイドたちが「何かございましたか?」という声に「大丈夫よ」と返答して返すリーニャちゃんに全部話した。



「なるほど。このモップさんは悠衣子さんでマイちゃんのママさんで魔道具で武器なのね」

「そうなの!マイのママなの!」

どうやら二人だけの秘密として扱うようだった。そしてマイちゃんにちゃんと反対側に置いたのになんでそこにいるのか聞かれたので、私もちょっと寝ぼけたのかな?と誤魔化しておいた。


こうして平和は保たれた。


◆◇◆◇◆


それから3日。何事もなく時間は過ぎてゆく。


昼間はメイドとして頑張るマイちゃん。

各部屋を回っては部屋の中央でくるくるまわりながら浄化する。そして三食の美味し食事とおやつを頂き、広いお風呂を堪能してふかふかのベットでおやすみする毎日。


リーニャちゃんは暫く学園がお休みなので一日中遊びたいようで、マイちゃんの掃除と言う名の『浄化』にも付き添って楽しい時間を過ごしていた。空いた時間にはリーニャちゃんに絵本を読んでもらったり、二人でごっこ遊びなどをしている。


そんな超ご機嫌なマイちゃんは掃除とさらには洗濯も『浄化』でこなしてゆく。

そして事件が起こったのは3日目の夜だった。


部屋のガラスがガキリと音がして、留め金がはずされるよ、3人の黒づくめの男たちが静かに入ってきた。マイちゃんとリーニャちゃんはもちろん夢の中だ。私は当然起きているのだが、とりあえず二人の寝顔を見るので忙しいので帰ってくれるかな?


そう思って私は『威圧』『威圧』『威圧』『威圧』『威圧』と威圧しまくった。侵入した三人に向けてひたすら『威圧』しつづける。


『あっ!ちょ!』

私は慌てて威圧を止めたが、三人は白目を向いて倒れ込みダバダバともらしていた……その際にドタッと音がして慌てて振り向くとマイちゃんがむくりと上半身を起こしていた。どうしよう……


「ママ?」

『ああ、マイちゃん、起きたのね』

「なんか……におう」

そうなのだアイツらの漏らし切ったその匂いが……ヤバい匂いを放っているのだ。


『くちゃいね。ママすぐ綺麗にするから大丈夫よ』

「マイ……おねしょ……」

涙ぐむマイちゃん。


『違うよ?マイちゃんの可愛い下着、濡れてないでしょ?ね?』

「ほんとだ!」

『じゃあまだ夜だから、おやすみしょうね』

「うん!おやすみママ!」

ばふりと布団を被り眠りにつくマイちゃんを見て『ふう』とため息をつく。リーニャちゃんは……まったく起きる気配がないね。大物になりそうだ。


あとはこいつらの……『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』おまけに『浄化ー!』

部屋の床がキラキラと煌めいている。


そして本当はあまり使いたくないんだけど『影の手』を使い三人をまとめてつまんで……入ってきた窓からポーイ!

外から「ぐえっ!」と声がしたが大丈夫だろう。

この世界の人間って結構丈夫だからね。


しばらくすると下の方が少しだけ騒がしくなっていた。そんな中、私はまたマイちゃんたちがすやすや寝ているのを眺めるイベントに没頭したのだが……


『ぴっこぴっこぽっぴぴ~!』

――スキルをゲットしました。


――――――

『聞き耳』かべにみみありしょうじにあなをあけましょね♪

――――――


ほんと訳がわかんないよね。

毎度のことながらな謎の説明文だがアクティブスキルなので聴力アップの切り替えができるのだろう。でも便利なスキルになるかもしれない。早速発動してみると窓の外から兵士たちと思われる声が聞こえてきた。


何やら侵入経路であったりどこの手の者かといった会話が聞こえる。一部あーこりゃ折れてるなーなんて会話も聞こえたが気にしないことにした。自業自得と言うものだ。マイちゃんの安眠を妨害し、私の至福の時間を妨げた罪は重い。


翌朝もバタバタとあわただしい。

昨晩はこっそりメイドがドアを開け中を伺っていたので二人の無事を確認したかったのだろう。覗きにきたメイドの二人を見る目、特にリーニャちゃんを見る目がいやらしかったのは気になったが、まあ二人が可愛いのだからしかなたないよね。私も多分同じ目で見ているよ。私はマイちゃん最推しだけどね!


そして二人が目を覚まし朝のおしゃべりを始めたところで、見計らったようにメイドさんのノックが聞こえ、一日が始まった。



現在のステータス

――――――

名前:ママ

種族:マイの不朽なモップ

力 110 / 耐 ∞ / 速 60 / 魔 95

パッシブスキル 『痛覚耐性』『視界確保』『念話』『不朽』『怪力』『精神耐性』『嗅覚』『疲労回復』

アクティブスキル 『浄化』『念動力』『影の手』『突撃』『棒術』『鑑定眼』『強化』『火弾』『収納』『威圧』『影の口』

称号 『マイちゃんの眷属(呪)』

――――――

これ以前は過去話参照

『威圧』だめでしょ!めっ!

『影の口』がおー!たべちゃうぞー!

『嗅覚』くんくんくんくんくんくんくんくんくん!

『疲労回復』24じかんたたかえますか?

『聞き耳』かべにみみありしょうじにあなをあけましょね♪

――――――

おもらししちゃったと思って落ち込むマイちゃんの表情はグッとくるよね!でもその後に汚らしい物を見るはめになったから全て台無しになったよ!やっぱり手足のもう一本や二本、へし折っておくべきだったかも!

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