21 メイドさんですよ?
私はスカンダ侯爵家の屋敷の内装に思わず息をはく。
マイちゃんも瞳を輝かせている。
清潔感のある白い壁に所々しつこくない程度の装飾が施されている。吹き抜けの高い天井にはシャンデリアのようなおそらく魔道具であろう照明が3つほどあり、目の前には二階へ上がるための広い階段がある。
2回には6部屋程度の扉がここからも見える。
もちろん一階にも同じようにいくつもの部屋の扉が見え、床には柔らかな絨毯が敷かれている。メイドさんも何人か各所に待機している。
他にも大きな時計であろう魔道具や暖房であろう魔道具も備え付けられている。ワゴンのようなものにティーカップなどが並べられていたり、休憩するためのソファーとテーブルも設置されている。
それ以外にも全体的にまとまったデザインで揃えられている。
さっきから私もかなりきょろきょろと見回しているが見た目ではわからないだろうしセーフだろう。マイちゃんもキョロキョロしているがその仕草がとっても可愛いから問題ない。
そして階段下では黒に銀の刺繍が入った服をびしっと着込んだイケオジと、赤に金の刺繍を入れたぽっちゃりなおじさんが居たのだが、ぽっちゃりなおじさんの方がこちらも見てなにやら驚いているようだ。
「旦那様、ただいま戻りました、それに……ワルジー様、ご無沙汰しております」
セバスさんがイケオジとぽっちゃりに挨拶をしていた。ぽっちゃりの方の返答はないようでこちらを黙って見ていた。
「帰ったか。心配したぞ」
イケオジがこちらに、というかリーニャちゃんに笑顔を見せて声をかける。やだっ、ちょっと素敵!イケオジスマイルに少しだけドキっとしてしまう。だめよ!私にはマイちゃんが……
「ただいま戻りました、お父様。ワルジー叔父様もご無沙汰しております」
「ああ、お帰りリーニャ」
「あ、えっ、いや……久しぶりだな」
リーニャちゃんの挨拶にイケオジがまた微笑んだ。お父様、という事はやっぱりこの屋敷の当主、侯爵様だよね。リーニャちゃんが可愛いのもうなずける。そしてワルジーと言われたぽっちゃり叔父さんは挙動不審だ。
「ワルジーの奴が珍しく突然来たかと思ったら、王都の近くで危険な魔物が出現するから心配だと言ってきてな」
「え、ええ。そのような噂を耳にしたもので……心配で私も軍を護衛に向けては、と進言しにきたしだいで……」
ホッと胸を撫でおろすリーニャちゃんパパと、汗をふきながら返答する叔父ワルジー。
ああ、リーニャちゃん暗殺ルートだったのかな?なんで冒険者が知らない情報を知っているのか……それに今から準備したとて間に合うわけもなく……いやこの男が諜報部のような情報機関にいるのならワンチャンそういうことも……
「それでもしリーニャに何かあった時は、軍部にいるこいつの次男に継がせるのはどうだ、とも言いおって!怒鳴りつけていたところだ!」
「いえ、決してそのようなことは……」
このぽっちゃり……アホだよね。
「大体お前の長男はどうせお前の後を継いで魔法局に入るのだろう。軍部と魔法局のトップに同じ家からは就けんと決まっているのは知っているだろう!それともあれか?お前のボンクラ長男は魔法局のトップには就けんと?」
「ぐっ……そんな、ことは……」
「まあお前のとこの次男も軍部では平で終わりそうだけどな!」
「そこまで言わななくとも良いではありませんか……」
仲悪いなこの二人。
すっかり意気消沈しているぽっちゃりワルジー。
「それで、道中何事もなかったのだな、それと……そこのメイドのお嬢ちゃんは誰かな?」
その言葉にリーニャちゃんがマイちゃんをまた後ろから抱きしめる。
「この子はマイちゃんって言うのよ。途中で何十匹ものウルフに襲われてね、護衛の冒険者では太刀打ちができなかったの!もう死ぬんだって思ったら……マイちゃんが颯爽と登場して助けてくれたの!」
リーニャちゃんの鼻息が荒い。その姿に私も鼻息が荒くなりそうだ。あとワイルドウルフは10匹ちょっとだったから何十匹ではないんだけどね。
「ワイルドウルフをその娘が倒したというのか!」
あっ……やっちゃったね。ワルジーが叫んだがなぜワイルドウルフと知っているのか……
「なんで叔父様がワイルドウルフだと知っているんですか?」
「ぐっ……」
リーニャちゃんの鋭い指摘にワルジーが顔をゆがめる。
やっぱりリーニャちゃん賢いね。すぐにこの指摘が出るってことは冒険者からワイルドウルフって聞いてたのにウルフって言ったのはわざとだよねきっと。冒険者からもあり得ないって聞いたからなんとなくこういう事もあるって考えてたのかな?
「どういうことだ?ワルジー」
「いや、それは、噂でワイルドウルフがと聞いていたものですから……でででは!リーニャも無事だと分かったし私は帰らせてもらいますね!私も忙しいので!」
「おい!ワルジー!」
戸惑いながらも弁明したワルジーはリーニャちゃんパパの静止も聞かず足早に屋敷を出ていった。挙動不審過ぎ笑える。横を通り抜ける時にマイちゃんと後ろのリーニャちゃんが一瞬睨まれていた。
次にどこかで見かけたら何かしらの制裁を加えねばならないようだ……こっそりハゲさせるとかのスキル出ないかな?
「リーニャ、本当にこのお嬢ちゃん、マイちゃんと言ったか、この子がワイルドウルフを倒したというのは本当なんだね?」
「ええ、間違いないですわ!護衛が戦ったのは3体だけですが、すでに2名が負傷していたところです。周りにも何匹もいて本当に死を覚悟しましたわ!」
またも鼻息を荒くするリーニャちゃん。そしてその言葉にマイちゃんを見つめるリーニャちゃんパパ。
「マイちゃん。今回は娘を助けてくれてありがとう。リーニャの父でエイダル・スカンダと言う。マイちゃんはその……エルフか何かなのかな?」
その言葉に首を傾げるマイちゃん。まあ強い幼女と聞けばエルフか何かと思うのも仕方ないのかもしれない。
「マイはメイドでぼうけんしゃです。5さいです。よろしくおねがいします」
リーニャちゃんの腕から抜け出し、余所行き用の挨拶でスカートのすそをつまみぺこりとお辞儀するマイちゃん。まさにパーフェクト!そしてすぐさま抱きしめ直すリーニャちゃん。
「メイドで、冒険者?それでモップを……」
顎に手を充て何やら考えているエイダル。
「マイちゃんは凄いのよ!このモップを操ってビューンってウルフを蹴散らしてる間に、風の団の二人を治療してくれたんだから!」
「治癒魔法も使えるのか!」
「ええそうよ!そうだ、マイちゃん!ワイルドウルフは収納魔法に入れたのよね?ここに出してもらってもいい?」
興奮するリーニャちゃんの突然のお願いに戸惑うマイちゃん。
首をひねってリーニャちゃんの方を見ているようだが実は私を見ているのは明らかだ。まあ……いいかな?見た感じ悪い貴族って感じじゃなさそうだい。セバスさんのことも道中見てたから信頼はできそうに思える。
何よりリーニャちゃんはもうすでに私の娘も同然!
私はマイちゃんの背中からふわりと抜け出した。
まずは何かに使えるだろうと買っておいた大きなビニールシートのような物を取り出し床に敷く。一応浄化はするけど万が一にも汚しちゃ悪いしね。お次はワイルドウルフを4匹、3匹、2匹に1匹っと、ウルフのピラミッドが完成した。
その光景に私を操っている設定のはずのマイちゃんも目を輝かせていた。めちゃ可愛い。
最後にその山の前に2匹のワイルドウルフを取り出した。多分この2匹がボスとその番だと思われる。心なしが体が大きく遠巻きに待機していた時もこの2匹はどっしりと構えていたし。おまけで全体を『浄化』する。キラキラと全体が煌めいている。
ワイルドウルフを出し終わるとマイちゃんの背中にまたすっぽりと収まった。目の前で起こった光景にはしたなくも口をあんぐり開けて停止してしまっているリーニャちゃん、周りも同様の様でウルフの山を凝視している。
「しゅ……収納魔法に、最後のは……浄化ではないのか、な?」
おお!さすが侯爵。エイダルがなんとか絞り出した鋭い指摘。マイちゃんもコクリと肯定する。真剣な眼差し可愛い。
「うむ……これは……」
ウルフの山に近づき何やら確認しているエイダル。
「マイちゃん。この魔物を買い取らせてはくれないだろうか?もちろん冒険者ギルドや商業ギルドなんかより高く買い取らせてもらう。どうだろうか?」
その言葉にマイちゃんがまた私の方を見て確認する。リーニャちゃんも見られているのが嬉しいのか頬を染めている。まあ私を見ているのだが……仕方ない。肯定の意味も込めてサービスしよう。
私はまたふわりと抜け出すと、ウルフの山にトントントンと意味ありげに足(柄)をあてていく。全回収である。シートの余った場所に毛皮、肉、牙と爪が次々に解体されて整列してゆく。残りの臓物や骨もまとめて一か所に。
そして周りを見渡しながらマイちゃんの背中へ舞い戻る。
よし。素晴らしい表情だ。百戦錬磨であろう侯爵エイダルであっても開いた口が塞がらない様を見ることができた。
「かいたいしました」
そんな中、声をあげたのは少し得意げな顔のマイちゃんだった。私の意図をちゃんと読み取る以心伝心な我が娘。尊い!
「はっ!」
暫くして平常心を取り戻したエイダルは、セバスさんを呼ぶと何やら話をしているようだ。その後、魔法の箱と思われ魔道具と大きな袋を持ってきたセバスさんが解体した素材を全て収納すると、大きな袋をエイダルに手渡していた。
その袋にはおそらく金貨が入っているであろうことは明らかだ。
「マイちゃん。白金貨を100枚用意した。これで足りるだろうか?」
えっ?えーと……白金貨って100万ぐらいだよね?ってことは、一億!きました一億!億万長者です!私は思わず『浄化』が漏れた。キラキラと輝くマイちゃんの後ろの私。
マイちゃんはそれを肯定と捉えたのだろう。ちゃんと「ありがとうございます!」と元気なお礼を言って受け取った。それを即座に『収納』する私。ちょっと震えちゃう!
エイダルもホッと一安心したようだ。
ワイルドウルフはそんなに高価なのか。ということはかなり強かったのか貴重だったのか……とにかくこれでしばらく好き勝手できるけど、マイちゃんの好きにしてもらおうかな。
それよりもマイちゃんにYesNoを伝えれる何か合図を考えねば……そっちの方が私にとっては重要だ。
その後は、マイちゃんの身の上話に話は移り、ハゲ男爵に手籠めにされそうになった件で大騒ぎされた。手籠めというのは最近マイちゃんが気に入っているフレーズである。私が教えたら「てごめ!てごめ!」と連呼していた。
何がそんなに嬉しいのか。「まものはてごめ!」とも言ってたので少し勘違いしてるっぽいが可愛いので問題なかった。
散々心配されたが「もやしてきた!」というマイちゃんの返答に、みんなハテナを浮かべながらも強いマイちゃんなら大丈夫だったのだろうと安堵していたようだった。
現在の所持金は一億と300万ほど。それだけあればどっかに豪邸建ててマイちゃんと可愛いメイドを侍らせて生活するのも悪くない!でもマイちゃんと冒険の日々も捨てがたい……
すべてはマイちゃん次第かな?
私が責任をもってマイちゃんの望むままの生活をコーディネイトするんだから!
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