20 王都スーリヤ

襲われていた馬車を助けたマイちゃんと私。

馬車からは黒いスーツのおじさまと白いドレスの少女が降りてきた。


黒いスーツに白いシャツ、白髪頭で口ひげがあるそのおじ様はいかにも執事であろう。多分こっちが本当にセバスチャンなのでは……という妄想は置いておき、メインはおそらくお嬢様であろうこの少女の方だ。


金髪のさらさらロングヘアに青い目、このお人形はどこで売ってますか?観賞用・保存用・使用用とぜひ3体ほど購入したいです!

細くて白い肌が白くて明らかに高そうなのでゴテゴテしていない清楚なドレスがぴったりです。どことなく『ラブアイドル』の由良ちゃんのお姉さんポジである琴音さん(cv 花林さん)に似てらっしゃる!


私は心置きなくその少女を観察すべくマイちゃんの背中の鞘にしゅるりと納まった。はー落ち着く。


「ご、ご助力感謝いたします。その、お嬢様がそのモップも操っていたということで良いのでしょうか?」

「うん!マイのモップなの!」

「そ、そうですか。ではあらためてありがとうございました。私はセバス・ダルゴネと申します。セバスとお呼び下さい。お嬢様はマイ様、で良いでしょうか?」

「うん!マイです。よろしくお願いします」

頭をぺこりと下げ、自己紹介を華麗に決めたマイちゃん!可愛い!


そしてついにセバスきた!セバスチャンではなかったけど大した問題はない!きっと暗殺術とか使える実はすごい有能な……では無いようだ。

私は『鑑定眼』の結果で少し残念な思いに駆られる。


まあ勝手に期待して勝手に落胆したのは私なのだ。

セバスさんはこれっぽっちも悪くは無い。


そしてセバスさんの自己紹介が終わると、少し前へと歩き出し優雅に一礼するその少女、完璧です!あの裾をちょんっとつまんでふわりと頭を下げるそのしぐさにお姉さんがもう心臓を打ち抜かれちゃいました!心臓ないけど。


「お初にお目にかかります。エイダル・スカンダ侯爵が娘、リーニャ・スカンダと申します」

「マ、マイです。よろしくお願いします!」

リーニャちゃんの丁寧な挨拶に少しマイちゃんが緊張しているようだ。さすがスキル『精密動作』持ちが違うな!もちろん初見で『鑑定眼』で隅々までリーニャちゃんを確認済みの私。


ほら、何な危険なものを持ってたらマイちゃんが危険でしょ?決してリーニャちゃんの生まれたままの姿を確認したいとか、そんなことはちょっとしか思わなかったよ?そしてさすが侯爵家の令嬢。血筋なのかスキルが多いね。

それとも訓練とかでスキル発動するのかな?マイちゃんも実際レベルアップでスキル増えたし……まあマイちゃんの場合は女神パワーっぽいけど。


「マイちゃん、とお呼びしても良いでしょうか?」

「うん!よろしくね、リーニャちゃん!」

「ふぁぁ!マイちゃん!」

リーニャちゃんは走り出してマイちゃんに抱き着いていた。私も危険はないと予測して何もしなかったけど……ちょうど目の前に来たリーニャちゃんの匂いをクンクンするのは安全確認に必要なことなのだ。


香水なのか分からないけどとっても良い香り!


「マイちゃん私の妹になる?」

「いもうと?」

突然フランクになるリーニャちゃんに戸惑うマイちゃん。私も戸惑っている。こっちが素なのかな?


「うん!リーニャお姉ちゃんって言って?」

「リーニャちゃんはおねえちゃんなの?」

「うんお姉ちゃん!」

「うーん、お姉ちゃんはもうイーリスがいるのー」

なんと!イーリスはお姉さんポジがしっかりと確定してたんだね。ママちょっと悲しい。


「お姉ちゃんは何人いてもいいのよ?」

「そうだった!じゃあリーニャちゃんはおねえちゃんだね!」

何かよく分からない間にお姉ちゃんが増えた。マイちゃんのお姉ちゃんということなら私の娘ということだ!イーリスはいらないがリーニャちゃんは大切に育てよう!


そんなアホなことを考えている間、背後ではセバスさんが冒険者四人となにやら話し合っている。私はそちらにも意識を集中させた。今後の展開を考えるのにも必要だからね。


「では、やはりこの辺りでワイルドボア、それもあんな数を見るのは異例なことなのですね?」

「はい、私たちも何度もこの経路で護衛任務をこなしてますが、一度だってそんな話は聞いた事がありません!」

どうやら先ほどの魔物の襲撃は異例なことのようだ……これはテンプレ的なあれか?暗殺を試みた誰かが、なのか……それともこの世界に異変が起きており、なのか……どちらにしても私たちも関わってしまいそうな予感。


「とにかく、急ぎ戻ることに変わりはありません。幸いマイ様の尽力もあり大事には至らなかったので、先を急ぎましょう!」

「はい!」

どうやら話はまとまったようだ。


セバスさんと共に冒険者もこちらへ向き直る。

すでにマイちゃんとリーニャちゃんはいちゃつくのを終え、今はリーニャちゃんがマイちゃんを後ろ抱きにして愛でている状況のようだ。尊い!


「私はこのパーティ『風の団』のリーダー、アインズだ。今回の護衛を任された、と言ってもお嬢ちゃんに助けられたし護衛任務は失敗だけどね。マイちゃん?で良かったかな?」

「うん!マイです!」

「ああ、よろしくマイちゃん。それで、王都に行くなら一緒に来てくれると助かる。もちろん報酬はマイちゃんに全て受け取ってもらって構わないがどうする?」

「うーん」

困った顔のマイちゃんも素敵だよ!ってどうしようかな?この距離だと小さい『念話』でも聞こえそうだし……こういう時の合図でも決めておいた方だいいかも……


「ちょっとまってて」

困った顔のマイちゃんはリーニャちゃんの腕を抜け出しそのまま駆け出しワイルドウルフの元へ行く。これで御一行とは距離ができた。マイちゃんの機転に目頭が熱くなる。うちの子すごい!超天才!


感動しながらワイルドウルフを『収納』してゆく。

『回収』で解体するのは後で良いだろう。


『マイちゃんが一緒に行きたいならご一緒しようか?』

「わかったのー」

そしてタタタと戻りリーニャちゃんに抱き着いた。

そしてすっぽりと元の位置へと納まるマイちゃんは「ウルフさんはもらっていいですか?」からの「いっしょにいくのー!」と返答しながらリーニャちゃんの腕をぎゅっとしてその圧迫感を楽しんでいたようだ。


そのご機嫌な笑顔に他の冒険者たちもほっこりしているようだ。

その後『風の団』の冒険者達も自己紹介にしばし時間を使ってからの出発となった。


リーダーのアインズは剣士、もう一人の剣士はエルバート、どちらも引き締まった体を持った良い男だ。アインズは金髪無造作ヘアで長剣を使っているようだ。黒髪のおしゃれボウスなエルバートは刃渡りが広い大きな剣を使っている。

こういうのなんて言ったらいいのか……私にそんな武器の知識はなかった。


残り二人は女性である。

一人はフィアという赤い髪のウェーブヘアで豊満なボディーをお持ちのお姉さんが魔導士で炎と土魔法が使えるという。リーニャちゃんと一緒にマイちゃんを甘やかしてデレデレしている。イーリスに近いものを感じる。要警戒である。

もう一人はマーリア、銀のロングヘアで清楚なお嬢様と言う感じ。おっとりした話し方をしている。付与師というジョブらしい。『鉄壁』という防御力アップや『迅速』といった速度アップを仲間に付与することができるようだ。


そんな自己紹介を終わったが、マイちゃんについてはメイドだけど冒険者をやってるということだけ説明していた。相変わらず抱きしめられているので私も背中からの圧迫に興奮を覚えざる得ない。

リーニャちゃんのお胸がそれなりにそれなりなのだ。


いよいよ出発になる。

そう言えば馬車は一台。どうするんだろう、と思っていたらリーダーのアインズが口に指をくわえ大きな口笛を吹く。すると遠くから4頭の馬がドタドタと走ってきた。私は忘れていた『鑑定眼』を発動する。


馬だった。

そうか、この世界であのロバのような、太い足のずんぐるむっくりは馬で良いのか……


「おうまさーん!」

その様子をみてマイちゃんが目を輝かせている。アインズは何やら得意げにふんぞり返っている。そしてフィアに頭をはたかれていた。


「よし!いこう!」

アインズの合図で『風の団』の四人はその馬にまたがった。

マイちゃんと背中の私はそのままリーニャちゃんに拉致されセバスさんと馬車の中へ。そしてリーニャちゃんのお膝の上に座らされている。どうやらマイちゃんをこのまま離すつもりは無いようだ。


そして進み出したのだが、さっきこちらへ走ってくる様をみて思ったのだがこの馬、結構早い。多少ゆっくり走った自動車並みなのでは?時速30キロ程度は出ているように思える。


マイちゃんは窓に映るその光景に「ふぁーぉ」と目を輝かせている。

……ママの方がビューンって早く飛べるもん!

ちょっと対抗心が芽生える。


だがここでマイちゃんを確保してビューンしてしまっては色々まずいので大人しくしておこう。まだ焦る時間ではない!はずだ……


◆◇◆◇◆


馬車で進む道中、結局何事もなく王都まで到着した。

初めて目にする王都はすごかった。


何から守っているんだろうと思える高い壁、そしてその門をノーチェックで素通りする馬車。さすが侯爵家。中に入ると大きな道の中央を馬車がゆっくりと行きかっている。

その左右には大きなお店が何軒も連なっている。


一応この大きな道に戻れば大丈夫とは思うけど、各店舗の間の路地も延々と遠くまでつながっており何処かしこに建物が密集しているようだ。不用意に歩けば迷ってしまう自信がある。まあ空を飛べば大丈夫だけどね。

でも地球で使っていたご存じ『ぐんぐるMAP』が欲しい。そして『食べぐる』を使って美味しいお店をチェックしてマイちゃんと堪能したい!


そんなことを考えつつも馬車は進む。というか王都、予想以上に大きいな。ゆっくりではあるがもう10分以上も街中を走っている。だが段々と建物の数は減っている。大きな建物がゆったりスペースに立っているエリアへ入っている。

いわゆる高級住宅街、という雰囲気にさすがにそろそろ到着するだろうと思っていた。

到着するまではマイちゃんの可愛いお顔と香り、そして背後から感じるリーニャちゃんの肌の温もりと吐息を堪能しよう。とも思っていた。


そして遂に馬車はひとつのお屋敷へと入ってゆく。

馬車が近づくと門を守っているであろう兵士がガラガラと横開きの門を開いてゆく。そして頭を下げた横を馬車は進む。


なんということでしょう!

まるで函館にある迎賓館をさらに大きくしたようなお屋敷にちょっと戸惑う。この世界では侯爵は本物のお金持ちなんだなと思った。

あの男爵の屋敷も伯爵の屋敷も大きいとは思ったけど普通の大きな建物って印象しかなかったもんね……こっちは豪華絢爛という言葉がぴったりな作りだ。もちろんゴテゴテとかではない。上品だが明らかに高いだろ?って作りだ。


屋敷の玄関前に馬車が止まるとリーニャちゃんに抱かれたままマイちゃんも馬車から降りる。『風の団』の四人は馬から降りるとセバスさんに挨拶をして再び馬に乗り先ほどの門から出ていった。

帰りがけにはマイちゃんとも「またね」と挨拶をしていたが、フィアが何時までも帰らない様子を見せており、エルバートに強制的に馬に乗せられ帰っていったのを眺めていた。


「では、入りましょうか。マイ様もお礼などもございますしぜひにお入りください」

そういって勝手に空いた玄関からマイちゃんを招き入れた。


というよりリーニャちゃんに抱かれてるので成すがままである。

まあマイちゃんも笑顔なので問題はないだろう。


そして私はまた屋敷の中の上品でありながら豪華な内装に驚くのであった。



以前函館に行ったときに元迎賓館だった公会堂に行ったけど勇気が出なくてドレスの貸衣装を着れなかったんだよね。今ならマイちゃんにドレスを着せて激写したいな!というかこのお屋敷で撮影会でもいいのか!

よし!脳内SSを増やすべくマイちゃんと探索だ!

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