19 ビューン!
連日狩りまくったマイちゃんと私に告げられた、ヘックからの狩り禁止令。
それを受け入れ今後のためにとヘックに確認する私。
『そういえば20階層より下ってどうなってるの?』
「21階層からはガーゴイルやゴーレムなどが出るとのことですよ」
『へーじゃあそこにも挑戦してみるかな?』
「でもあまりお勧めしませんよ?素材は魔石のみで安いですし……正直ボアの方が稼げます……いや、すみません」
『なるほどね、まあ供給過多じゃー仕方ないよ』
それでこの街ではダンジョンといえばボア&ウルフなわけだ。とにかく明日からの事はマイちゃんとも相談して決めようかな。
その後、少し笑顔に戻ったヘックに見送られゲストハウスへ戻った私とマイちゃん。
今日のご飯はボアカツ!ボアの厚切り肉にパン粉をまぶしてさっくり上げる。ソースと塩コショウ、それにアッポの果汁を入れた特製ソースでパンにはさんだ特製ボアカツサンドだ!
美味しいお肉に大満足のマイちゃん。もちろん私もその味を堪能した。
ただ、私はご飯がほしいなとは思ってしまう。カツといえばご飯……この街でしばらく狩れないならお米を求めて旅するのもいいかも、と思ってしまう。
お腹を満たした後は本日の成果を確認する。
マイちゃんは……
力 110(+50) / 耐 40(+50) / 速 60(+10) / 魔 90(+10)
新しいスキルは覚えてないけど確実に強くなっている。
これならそこらの冒険者が何かしようとしても自衛できるだろう。もちろん私が指一本だって触れさせる気はないけど……
そして私もこの1週間で新たなスキルを得た。
まあ一つだけだけど……
――――――
『疲労回復』24じかんたたかえますか?
――――――
意味は分かる。パッシブなのも分かる。だが私はそもそも24時間戦えるのだ。ということはやっぱりマイちゃんに付与ということなのだろう。
『マイちゃん。今日は元気いっぱいだったけど体は大丈夫?』
「うん!マイね、きょうはまだまだかれるの!」
予想通りだった。
『ママのスキルで24時間戦えちゃうんだって』
「24じかん?えっと、1にちは24じかんだから……1にちたたかえる?
マイちゃん天才!
『そうだね。一日戦っても疲れないスキルだって!』
「わーい!マイ、ボアさんかるー!」
『あっ、しばらくボアもウルフも狩っちゃだめなんだってー』
「えーなんで?」
マイちゃんが悲しい顔を……ヘック!ゆるすまじ!
『ヘックがね、取り過ぎちゃってお肉余っちゃってるからいらないんだって』
「じゃあしかたないよねー!」
私はマイちゃんが分かりやすいように改変して説明すると、マイちゃんの天使な慈悲が返ってきた。ヘックは許されたようだ。そして脳内にお宝SSは増えてゆく。
『マイちゃん。貯金もあるしのんびりすることもできるし、ダンジョンは下に行くとガーゴイルとゴーレムって言うのがいるんだって。どうする?』
「うーん。マイ、いっぱいたたかいたい!」
『じゃあダンジョンもっと降りてみようか。それとも王都とか行く?あっちならもっと色々あるかもだし……』
「おうと?」
私はふと勇者のことを思い出し王都行きも相談してみる。
『そう。ここよりおっきな街かな』
「おうと!マイ、おうといきたい!」
『じゃあ明日さっそくビューンって行っちゃう?』
「おそらとぶの?」
『飛ぼうかな?』
「わーい!」
マイちゃんが「ビューン」と言いながら走り回っている。どうしよう可愛すぎて死ぬ。マイちゃんは私をときたま殺しに来る。無いはずの心臓が痛い。
その後、落ち着いたマイちゃんはメイド服を脱ぎ捨て私から保存しておいた数々の旗を取り出すと、その中から吟味した二つを左手に握り締め眠った。もちろん右手は私を握っている。
この時間から朝日が昇るまでは私がマイちゃんの鑑賞会を開催するだけである、なるほど、今日の旗はお星さまとタヌキか……お星さまは私が書いたのだけど、タヌキはイーリスのだな。今日は引き分けということか。
なーに。明日から王都だ。これからマイちゃんには私が書いた旗だけが増えてゆくはずだ。数が増えれば勝率もアップだ!今にイーリスのことなんて忘れさせてあげる!ママが一番なんだから!
そんなことを思いながら、今日も一日が終わった。
余談だが、その旗を作るにあたって簡易的な耐久性の向上を付与する魔道具はクルダレゴに作らせていた。スライム程度の魔石で数回利用できる便利な魔道具だ。これを通しておけばマイちゃんが少しぐらい乱暴に扱ってもその旗は無事なのだ。
ただ、その魔道具を作るにあたって私が彼に何を提供したかはここでは伏せておこう……マイちゃんのためだったのだ……
◆◇◆◇◆
翌朝、いつものようにマイちゃんが目覚める。
そして私と目が合うと「おはようママ」と第一声を囁かれる。これで今日も一日頑張れる。
今日でこのオネイロスの街ともお別れだ。
目的地はさらに南方。太陽の都、王都スーリヤ!
朝からご機嫌なマイちゃんと一緒に受付まで歩く。
途中でマイちゃんに『イーリスにお仕事がんばってって言ってあげようねー』と伝えておく。そしてギルドに入るとイーリスが待ち構えていたかのごとく飛んできたのでマイちゃんにお任せする。
そして私はヘックの元にふわふわと飛んでいき、今日でゲストハウスから出ることを告げる。ついでにイーリスはさぼると思うからこのことは夜にと伝えておく。これで追っかけてこられる心配はないだろう。
後ろからイーリスの「うん!お姉ちゃんお仕事頑張るからね!」という声が聞こえてくる。
そんなイーリスをおいて冒険者ギルドを出るのだが、いつもはダンジョンへと向かって奥に行っていたのでイーリスが不思議がっていた。それでもマイちゃんが手を振ると元気よく手を振って返していたので問題ないだろう。
「ママー!もうビューンってするんだよね!」
『そうだよー!ビューンってするよー!』
「わーい!」
ご機嫌なマイちゃんの要望に応えるべく『収納』からクルダレゴに作ってもらった衝撃吸収効果のあるクッションを私の体(柄)に装着するとマイちゃんの横にふわりと浮かぶ。そしてマイちゃんが可愛い足をあげ……
暫くぶりのその圧を楽しむ。『影の手』はもちろんマイちゃんが落ちちゃわないようにしっかりと太ももをホールドする。これは……顔に感じるマイちゃんのお尻の圧とともに『嗅覚』を得た私の脳裏にビックバンクラスの衝撃が走る。
もう、死んでもいい!
鼻孔に広がるマイちゃんの香りに脳がとろけそうになる。思わずマイちゃんの太ももをホールドする『影の手』もすりすりとその感触を確かめたくなる。
女神様。この世界に導いてくれてありがとうございます!
そんなことを考えていたのだが「ママー!はやくー!」とマイちゃんに急かされたので意識を取り戻す。そうだ!私はまだ死ねない!
満を持してふわりと浮かび上がる私。
マイちゃんも「ふわぉ」という謎可愛い声をあげる。
上がったステータスの影響か、前より楽に浮かび上がることができたのでマイちゃんの負担にならない程度にゆっくりと浮かび上がる。冒険者ギルドのすぐ近くの路地から浮かびかがったのだから当然の様に周りからの歓声も聞こえる。
モップ使いのメイド冒険者マイちゃんは有名人なのだ。
そして私とマイちゃんは大空を舞う風になったのだ!
「ひゃふ~ん!」
大空を高速で南へと進むマイちゃんと私。
マイちゃんも久しぶりの空に大興奮で奇声を上げ喜んでいる。私が視えるのはマイちゃんの可愛いお尻だけである。ひゃふ~ん!
暫く宙返りをしたり空の散歩を楽しみながら飛んでいると、下の方で騒音が聞こえた。
これは……戦ってる?
「ママー!あっちでまものにおそわれてるひといるー!」
『そうなの?私からは見えないけど……どうする?』
お尻しか見えない私はマイちゃんにそう尋ねてみる。
「マイ、まものバーンってするー!」
『さすがマイちゃん!じゃあ行ってみよー!』
素敵な返答に興奮しながらその音の発生源まで飛んで行く。
そしてその現場に到着した私はゆくりと地面のすぐ上まで下りると、マイちゃんがそこから「とうー!」と声をあげて飛び降りた。着地まで決めたマイちゃんには10万点をあげちゃう!
ようやく私も視界が開け様子を確認する。
馬車の前にはウルフが1匹。それに怯え馬車を引くためであろう馬?なんだか私が知ってる馬とは違うけど2頭とも落ち着きなく
魔物は……ワーウルフより一回り大きい狼『ワイルドウルフ』か……『鑑定眼』を発動しながら確認する。そのワイルドウルフの1体が馬車を足止めし、3体のワイルドウルフが剣士風の冒険者二人と交戦中。残り8頭程度でその回りを取り囲んでいた。
馬車の横には魔法使い風の二人がすでにケガをしているようで馬車を背にもたれかかっている。
『マイちゃん!あそこのケガした二人を回復しちゃおうか!』
「うん!」
私の指示にマイちゃんが走る。あそこまでなら危険はないだろう。そう判断した私はワイルドウルフと戦っている戦士風の冒険者の加勢に入る。
マイちゃんがタタタと走っていく間に倒れていた冒険者の二人も気づいたようで何やら大声を上げている。多分こっちに来るなとでも言ってるのだろう。まあそうだよね。見た目も中身もまごうことなき幼女だし。
マイちゃんならきっとやれる!とそう判断してとりあえずワイルドウルフの一匹の額をめがけて『突進』する。捻りを加えた一撃で簡単にその頭蓋は砕け散った。捻りいならなかったな……
そのまま回転して私の足(柄)に突き刺さっているワイルドウルフを吹き飛ばして次の標的を砕いてゆく。
この時点で2体1となった冒険者が襲い掛かっていた最後の一匹を切り裂いた。
しかしその表情は微妙だ。
空中を滑空してワイルドウルフを倒した私と、すでに倒れていた二人の冒険者に駆け寄って回復魔法を放っているマイちゃんの間を視線が行ったり来たりしている。いや残りの7匹の方を見てほしいのだけど……
私はもう一刻も早く終わらせてマイちゃんを褒めたたえてあげたいので周りの7匹めがけて『威圧』した。そして怯んでいるウルフたちに『突撃』からの縦回転で順番に頭をかち割ってゆく。
2人の冒険者たちは唯々その光景を見守っているようだ。
2人とも口があんぐり開いている。
そんな中、私は意気揚々とマイちゃんの方へ飛んで行き、その小さなお手てに収まった。マイちゃんは私の活躍を見ていてくれたようでそっと反対のお手てで撫でてくれた。
魔法使いと思われる2人の冒険者はすでにケガは回復し、元気を取り戻しているようだがやはりその光景をあっけに取られ見つめていた。
そして馬車のドアが開く。
その音に反応して4人の冒険者が跪いた。
馬車の中からは黒いスーツを着込んだ白髪のおじさまが降りてきて、その後、そのおじさまに手を引かれ白いドレスを着こんだ少女がゆっくりと降りてきた。
この世界の幼女はどうしてこんなにレベルが高いのか!新たな幼女の登場に胸躍らせる私だった。
現在のステータス
――――――
名前:ママ
種族:マイの不朽なモップ
力 110 / 耐 ∞ / 速 60 / 魔 85
パッシブスキル 『痛覚耐性』『視界確保』『念話』『不朽』『怪力』『精神耐性』『嗅覚』『疲労回復』
アクティブスキル 『浄化』『念動力』『影の手』『突撃』『棒術』『鑑定眼』『強化』『火弾』『収納』『威圧』『影の口』
称号 『マイちゃんの眷属(呪)』
――――――
これ以前は過去話参照
『回収』ちょっとこれ、もらってくね?
『威圧』だめでしょ!めっ!
『影の口』がおー!たべちゃうぞー!
『嗅覚』くんくんくんくんくんくんくんくんくん!
『疲労回復』24じかんたたかえますか?
――――――
――――――
名前:マイ
種族:人族
力 110(+50) / 耐 40(+50) / 速 60(+10) / 魔 90(+10)
パッシブスキル 『精神耐性』
アクティブスキル 『小回復』
称号 『ママの飼い主(呪)』
――――――
『マイのダガー』力+50 速+10 魔+10
『マイの鞘』耐+50
――――――
最推しはマイちゃん!それは間違いない!でも他の子にも目移りすることもあるよね?でも最推しはマイちゃん!そこは絶対なのだ!
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