18 お肉!

大量のボア&ワーウルフを狩って戻ってきたマイちゃんと私。

当然のようにダンジョンの入り口からイーリスがくっついてきた。


「そろそろ戻ってくるのは分かっていた!」

『何それ怖い』

戻って早々告げられたイーリスの言葉にそのストーカー気質は本物だと判定せざるえない。私の中の危険信号が真っ赤に点滅して目がチカチカする思いであった。


「イーリスちゃんおしごとおつかれさまー」

マイちゃんが抱き着いてから跪いたイーリスの頭をナデナデしている。


私は、イーリスが緩み切ったいつものデレ顔と違いある種の気まずそうな感情が入り混じったような、複雑な表情になっていたのを見逃しはしなかった。


『マイちゃん。イーリス仕事さぼってたみたいだよ?』

「ほんと?」

「何言ってんのモップ!私は、私はちゃんと、仕事を……してたよ!」

じゃあなぜ今もそんな複雑な表情をしていたのかぜひ聞きたい。私だったらマイちゃんにナデナデされたら100%交じりっけ無しのデレをする自信がある。


『ほんとに?』

「ほ、ほんとだよ!」

『マイちゃんに誓って?』

「マ、マイちゃんに、ちか……ちか……ご、ごべんなざい”い”い”!」

突然泣き出しマイちゃんに土下座するイーリス。


「ママー、イーリスちゃんどうしたの?」

困惑するマイちゃん。可愛い。


『今はそっとしてあげようね』

「わかったのー」

泣き崩れるイーリスを置き去りにして受付まで戻ると、笑顔で迎えてくれたヘックに大量だということを伝え裏の素材置き場に行き戦利品を放出した。さっきまで笑顔だったヘックの顔が引きつっていた。


暫く受付カウンターそばのソファーに座り待つ。足をパタパタさせて暇を持て余しているマイちゃん。その可愛さに周りの冒険者もほっこりしている。ハアハアしている一部の変態には『威圧』を飛ばすことも忘れない。

マイちゃんは私が守るのだ。


暫くするとヘックが疲れた顔をして戻ってきたので取り合えず『お疲れ様』と声をかけておく。それにはヘックも苦笑いである。まだまだ私に慣れていないようだ。


「では……本日はお疲れさまでした。今回の報酬は金貨20枚となります」

『えっ?マジで?』

私はびっくりしながらもなんとか小さな『念話』にすることに成功した。こんな大勢の前でバレると何かと大変だからね……


「間違いないですよ。というか量がえげつないです!しかもきっちり完璧な解体までして……あれはマイちゃんがやったんですか?」

『いやまあ、私のスキルなんだけどね』

「なるほど……それで解体が面倒な牙とかも回収したのですね。納得です」

私のスキル、というところで若干鼻息が荒くなってしまったのは許してほしい。やっぱりちょっとは自慢したいじゃん?というかやっぱり牙とかも素材として買取対象だったんだね。良かった。


そして軽く街角に出て用事を済ませてからマイちゃんと一緒にゲストハウスへ戻ってくる。ベットに座ってくつろぐマイちゃんに本日の報酬の結果報告を行った。


『マイちゃん!今日の報酬は、なんと……』

「なんとー」

『なんとなんとー!』

「なんとなんとー!」

『金貨20枚でした!』

「20まいー!」

両手を上げて喜ぶマイちゃん。


「20まい!すごいね!」

『そうだね、この間は4枚だったから……5倍だね!』

「ごばい!」

マイちゃんが目を煌めかせて「ごばいっ!ごばいっ!」と踊っていたので、その不思議なダンスをしばし堪能したのは言うまでもないだろう。可愛い!


そしてもう一つ、私はマイちゃんに秘密にしていたことがある。

その為に私はギルドから戻る際に少しより道をして鍋やら野菜やらを購入していたのだ。何のためかあまり理解しないまま買い物を進めるマイちゃん。

店員さんをその魅力で籠絡しながら購入してゆくことになったマイちゃん。


店員さんたちにあれもこれもと持たされては私がさりげなく『収納』してゆく。幼い冒険者マイちゃんが収納持ちという高スペックに「これもあげる!」「こっちもどうぞ!」「これ貰ってください!」とさらに貢物が増えてゆく。

そんなマイちゃんの魅力で予想外に色々な物資が集まった。ボランティアの炊き出しも何度かできそうなぐらいの量だ。お金はあるのにあまり使っていないという……


そんなこともありつつゲストハウスに戻り報告会を終えた今、私は『影の手』を使って備え付けのキッチンで野菜を切っている。

塩コショウ、しょうゆ、お酒を目分量で入れたお鍋に水を追加する。煮干しと昆布の乾物もちゃんと存在したので購入済みだ。見た目も名前も違うが多分大丈夫だと私の『鑑定眼』が告げている。


それらをコンロにかけ少し熱を加えてゆく。

そして出来上がったその出汁……マイちゃんも興味深そうにその様子も見ている。期待に膨らむその瞳……吸い込まれて吸収されたい!


おもむろに取り出した小さなさじを『影の手』で持ち……出汁をすくい……『影の口』を発動する!


そう、もう一つの秘密というのは実はさっきの狩りの最中に一度『ぽっぴぴ~』してたのだ!

そして取得したスキルに、狩り中にも関わらず思わずにんまりするのをこらえるのに必死であった。それはあの駄女神に感謝の意を表したいぐらいの待望のスキルであった。


――――――

『影の口』がおー!たべちゃうぞー!

――――――


私はマイちゃんにも秘密にしていたその『影の口』を発動し、なんとなくここらへんかな?と口元と思われる位置にさじを添え……ぺろりと舌を出してみる。久しく感じていなかった舌で何かを舐めるという感触に若干戸惑うが、確かに感じる出汁の味!


というかこれ『精神耐性』ないと絶対熱い奴だな。マイちゃんには真似をしないように言っておかないと……それよりも暫くぶりに感じた味と言う感覚。美味しいね。多分、私……今泣いてる。ほんと味覚って大事なんだね……


少し切なくも感動した気持ちを胸にしてマイちゃんの方を向く。すると口を開けたままびっくり顔のマイちゃんの顔が見えた。


「ママのおくちがあるのー!」

可愛い!何その顔!SSを!脳内をフル稼働して克明に記憶を!


私は初めて見るマイちゃんのびっくりどっきりな顔にある種の興奮を覚えた。


『マイちゃん、内緒にしていてごめんね。今日の狩りでママのこの影の手と同じように影の口ってスキル出たんだよね』

「かげのくちー!」

『これでママも味が分かるから……マイちゃんにお料理作ってあげられるよ!』

「やったー!」

喜ぶマイちゃんを眺めながらも私はさらに細かな味の調整を試みた。さらにさっき切り分けたお野菜を入れ、そして取り出したるはマイちゃんが初めて狩ったボア&ワーウルフのお肉!


適度な薄さでスライスをして……お鍋に投入!そして弱火でゆっくりと……

そうか、味覚はゲットしたけど嗅覚がないのか……以外と重要なんだね。本当なら今頃『いい匂い!』なんて叫んでるかも。次は嗅覚でお願いできないかな?まあこう考えておけば、なんだかんだで女神がそのうち叶えてくれそうな気がする。


「いいにおいする!」

そんな私の思いをくみ取ったのかマイちゃんが鍋にさらに近づいてクンクンしている。私も嗅覚あったらマイちゃんをクンクンしたいな。


そして完成した夕食のお鍋。『マイちゃんの初めてのボア&ウルフ討伐記念鍋』の完成であった。もちろんメシオジュースも一緒に提供した。


マイちゃんに『初めて討伐したボア&ウルフの肉だよ』と説明するとまた楽しそうに踊り出すマイちゃん。

『お金を一杯稼いだから外で高級なものも食べれるけどママの手料理でいい?』と聞くと「ママの手料理がいいのー!」と抱き着いてくるマイちゃん。

『でもたまにはお外で美味しい物食べようか?』と聞くと「うん!」と元気に返してくれるマイちゃん。


今日はご機嫌のマイちゃんと一緒に久方ぶりとなる食事を堪能した。

マイちゃんと食べる楽しい食事。鍋も格別に美味しかった……だが少し味気なかった……女神様、お願いだから嗅覚プリーズ!嗅覚って大事なんだと改めて思った。


そして私は女神に賄賂替わりにすやすやと眠るマイちゃんに『鑑定眼』を使ってガン見した。べ、別に私が視たいわけじゃないんだからね!女神が視たいだろうからやってるんだから!

なんてことをやっていたのだが……


『ぴっこぴっこぽっぴぴ~!』

――スキル『嗅覚』をゲットしました。


――――――

『嗅覚』くんくんくんくんくんくんくんくんくん!

――――――


早いよね。ってか説明文に恐怖を感じる……


欲望に忠実な駄女神のために……マイちゃんをクンクンした。とっても美味しそうなお肉の匂いがした。きっと女神もこの香りを堪能しているのだろう。……食べてもいいかな?

結局その夜が一晩中クンクンすることをやめなかった。もう全身マイちゃんに包まれていると錯覚するほど堪能した。今なら魔王も一撃で屠れそうに力がみなぎっている。この世界に魔王いるか知らんけど。


朝日が昇るころ、名残惜しくもマイちゃんの全身を『浄化』する。このままだとイーリスに飛び掛かってこられるかもしれないから安全のため必要なことである。良い匂いを放つマイちゃんは危険なのだ。


翌朝、ご機嫌で起きたマイちゃんとまたダンジョンへと入りびたる。

正直昨日一日で金貨20枚。住むところはある。買わずとも貢がれる大量の食料。充分生活できる。だがお金の問題ではないのだ!狩りをしてマイちゃんと一緒に強くならねばならないのだ!


そんな思いもあって連日狩りを続けていた。


そして変わらぬ成果。毎日大量の素材を買い取ってもらっては夜には美味しい料理を振舞った・朝も昼も購入しておいたパンに野菜とお肉をはさんで様々な調味料を試しては堪能するマイちゃんと私。

『嗅覚』を得てからさらに細かな味と香りの調整に余念のない私はかなりの量の調味料のブレンドを夜な夜な試していた。いずれお米が見つかったらぜひ絶品カレーを食べてもらいたい。


日々変わらないマイちゃんと私の冒険者生活。

至福の時間が流れてゆく。


変わるのは連日の確認作業のためかヘックはどんどん疲れた顔をしていることぐらいか……それはイーリスがもう少し働いてくれればなんとかなるのではと思うところもあるが、まあヘック頑張れと応援しておこう。


そして問題が発生したのが1週間目の夕方だった。


今日も大量の素材を倉庫に吐き出した後、突然ヘックに土下座をされた。

どゆこと?


「マイちゃんママ。非常に言いづらいのですが……しばらくボアとウルフは狩らないで頂けますか……」

『ん?どゆこと?』

「毎日大量の肉を納品されてるので、市場価格が下がってまして……」

なるほど。確かに最近少し報酬下がってきてないかな?って思ってたけど……


「それで他の冒険者さんからも若干のクレームが……」

『そうなんだね』

「そうなんです」

まあそうなるよね。じゃあどうしようかな?しばらくお休みにしちゃおうかな?マイちゃんも結構レベルアップしたしお金もお肉も十分貯えたし……


『とりあえず分かった。しばらく大人しくしてるかな?』

「ありがとうございます!」

土下座したままぺこぺこしているヘックを見てるとなんだか可哀そうになってくる。


『もういいから、ほら、立って立って!』

私は『浄化』を使いながらヘックをねぎらった。



現在のステータス

――――――

名前:ママ

種族:マイの不朽なモップ

力 110 / 耐 ∞ / 速 60 / 魔 85

パッシブスキル 『痛覚耐性』『視界確保』『念話』『不朽』『怪力』『精神耐性』『嗅覚』『????』

アクティブスキル 『浄化』『念動力』『影の手』『突撃』『棒術』『鑑定眼』『強化』『火弾』『収納』『威圧』『影の口』

称号 『マイちゃんの眷属(呪)』

――――――

これ以前は過去話参照

『回収』ちょっとこれ、もらってくね?

『威圧』だめでしょ!めっ!

『影の口』がおー!たべちゃうぞー!

『嗅覚』くんくんくんくんくんくんくんくんくん!

『????』?????????????

――――――

マイちゃんも強くなったけど、私も3つ新たにスキルゲット!えっ?二つだろって?もう実は一個覚えているのだよ!

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