17 ボア

装備を確認し終えた私たち。

そして私から手渡されたメイド服を広げて作業台に置くクルダレゴ。


あれはなんだろう?鉄の粉のようなものを振りかけている。見かけによらず器用な男のようだ。その粉で広げたメイド服の上に魔方陣のような細かい模様を描いている。


試しに『鑑定眼』でその粉を見てみると鉄に銀、白金に炭、あとは竜骨なんてのも視える……なにげに凄くない?竜とかやっぱいるんだね。そしてその素材を微量のようだけど使ってるこの男……

私はちょっと悪いことしたかな?と思ったが、やっぱり私をスリスリした罪は重いと判断して例の魔道具も譲ってもらおう。そう心に決めた。


「よし!できたぞ!」

どうやら完成したようで手渡されたメイド服。一応鑑定すると防御+20になってるけど?そこに飾ってある銀の軽鎧と同じぐらいになってるんだけど?


『ねえ、防御+20もついてるんだけど……』

「そりゃー装備品だからな。俺の限界の劣化防止を付与したがそれを邪魔しない程度だとこれが限界だがな。これ以上の性能を求めるなら他の部位で補うんだな」

少しドヤってる表情は気にくわないが……


『何気にあんた凄いんだね』

「いまさらかよ……」

『あとイーリスにあげたインクに変える奴もちょーだい』

「お前、図々しいって言われないか?」

失礼な言動には無視を決め込んでいたが『影の手』を前に出していたら渋々ながらも魔道具を手渡された。これは?醤油さし?10cmほどの高さのある丸い瓶にちょこんと突き出た注ぎ口がついている。


「そこに果物とか入れて1分程度待てばこの口からインク出てくるから、それを別の容器にいれてあとは筆でちょちょいのちょいだぜ!」

俺知ってんよ!というノリでしゃしゃり出てきて説明したイーリスにも無視を決めて、私はクルダレゴにお礼を言っておく。


『今更だけど装備にメイド服の付与に魔道具にって、やっぱりそれなりな金額になるでしょ?良かったの?本当に今更だけど』

「まあ今更だな。金額にすると白金貨が数百枚ってとこだが……俺はお前を視れるならそれぐらい惜しくない!」

白金貨数百枚という額に驚きつつも、イケメン限定色の強い言葉をこちらに放つクルダレゴにイラっとして『威圧』を飛ばす。


「なんでそこで怒るんだよ!」

『いや、なんかイラっとしたから……』

言われたクルダレゴはため息をついていた。


「とりあえず久しぶりに知性のあるインテリジェンス魔武具ウェポンを見ることができて俺はそれだけで満足だ!なんならもう少しいじらせてくれると嬉しいが……いや大丈夫だ。もう無理は言わん」

不吉なことを言い放つので再度『威圧』をと思ったら察したようで言葉をひっこめるクルダレゴ。


『そいえば久しぶりにって言ったよね?前にも見たことあるの?』

「ああ、あるぞ!勇者様の聖剣が知性のあるインテリジェンス魔武具ウェポンだからな。結構有名な話だ。まあ200年ほど前だがな」

『200年て……あんた何歳なのよ』

「知らんけどその倍は生きてるぞ」

その答えにやっぱりここは異世界だなと思った。


『でも200年か……見てみたかったな勇者と聖剣』

「いや会えるぞ?」

『えっ、なんで?』

「アイツら死なないからな。そう言えば近々王都に召集されるようだし王都いったらそのうち会えるんじゃねーか?」

聖剣はともかく勇者も不老不死とか凄いね。


それよりも王都か……今度マイちゃんとお出かけしてみてもいいかな?そう思いながらマイちゃんを見て……


『うぉーい!』

私は大急ぎでマイちゃんの元に戻った。


『何やってのよ!』

「いいだろー!マイちゃんとお馬さんごっこだぜ!」

「おうまさーん!」

私が目を離した隙にマイちゃんがイーリスにまたがってパッカラパッカラだった。マイちゃんの初お馬さんがイーリスに奪われて……と思ったけどすでに私にのってビューンってしてるから初めてのお馬さんはやっぱり私の物だ。


『マイちゃん、そろそろ帰るよ。新しい装備試しに行こうか』

「ダンジョン?」

『そう!ダンジョン!』

「いくー!」

嬉しそうにイーリスから降りたマイちゃんが私を抱きしめる。悔しそうなイーリスに少しドヤって見せてから一応クルダレゴにお礼を言って外に出た。


マイちゃんもクルダレゴにペコリとお辞儀していたので、クルダレゴの方もニッコリしていた。マイちゃんの魅力はドワーフにも通用するからね。ちょっかいを掛けられないように注意しなくてはならないと感じざるをえない。


そしてご機嫌なマイちゃんとストーカーなイーリスを伴い冒険者ギルドへと戻ると、マイちゃんが「ママとダンジョン!」と繰り返し歌っていたので『イーリスは?』と合いの手を入れると「だいじょうぶー」と返ってきた。

きっとイーリスがいなくても戦えるって意味なんだろうけど……その言葉にイーリスは膝をついて撃沈していたので、その隙にダンジョンへと続く通路にマイちゃんを誘導していった。


「あれ?イーリスちゃんは?」

『お仕事だって』

「そっかーしかたないよねー」

『仕方ないねー』

入り口でイーリスがいないのに気付いたマイちゃんに適切なフォローをする私。最近イーリスと仲いいな……少しマイちゃんと私の二人だけの時間を多く作るべきか。


そんなことを考えながらもダンジョンを進む。


マイちゃんは新しいダガーを手にスライムに向かって攻撃を仕掛ける。

ステータスのおかげで負けることは無いものの、ダガーを振り回すその手はかなりぎこちなかった。これはステータスアップの防具として腰に添えておけばいいのかもしれない。


『ダガーは練習が必要だね』

「うん」

ちょっと寂しそうな顔をしたマイちゃんを見ながらダガーに浄化をかけ、マイちゃんに鞘に戻してもらう。


『今日もママを使ってバシバシしちゃおうか!』

「うん!」

『様子を見てもっと下の方にも行ってみよう!』

「わかったのー」

マイちゃんのいつもとちょっと違った返事にドキっとする。マイちゃんも日々成長しているのかも!


そして私を握って強化されたステータスによりサクサクとスライムとゴブリンを抹殺していくマイちゃん。魔石も『回収』&『浄化』でサクサクと集めながら下へと進んでゆく。

お昼ちょっと前に来たのにもう10階層へとたどり着いてしまった。


良くある階層ボスなんてもはこのダンジョンには無いようだけどこのダンジョンはまだ未踏破だ。おそらく50階層ほどあるって言ってたから、いずれ踏破してみたいなと思う。

多分最後にはボスとかいるだろうし……ダンジョンのボスかー。お宝の予感がする。


そして10階層の階段を降りる。

ダンジョンの壁に何気に設置されている『10→11』の看板を見て、これは最初からついていたのか後付けなのか?と考えるが、答えなど出てくるわけがないのでそのまま横を通り過ぎ、下への階段を降りてゆく。


さて、ここからは初めての階層になる。

ここにはボアちゃんもいるようだし……まずは少し狩って腕試しだ。


階段を降り11階層に到着すると、10階層までとは違ってちらほらと冒険者がいるようだ。見知った冒険者も多い。

どの冒険者もソロ冒険者マイちゃん5才に一瞬驚くが、すでに赤鬼イーリスと互角の強さという尾びれがついた話が噂されているのを聞いていた。気さくに声を掛けられるマイちゃん。一部ハアハアしている奴もいるので何かあれば滅さなくてはならないかも……


そして他の冒険者に手を付けられていないボアと遂にご対面。というか一緒にワーウルフという狼型の魔物も群れっていた。全部で10体ほどのその群れに少し緊張するマイちゃん。

大丈夫だとは思うけど一応警戒はしておこう。


すでに私を手にして臨戦態勢のマイちゃんはゆっくりとその群れに近づいて……


装備と私の『強化』により上がった身体能力で一気に距離を詰める。そして私の足(柄)をバシーン!


オーバーキルでした……


その攻撃により一番手前にいたターゲットとなったワーウルフは爆散。大量の血肉をぶちまけるというスプラッタな展開となったので、群れの動きも止まる。というかちょっと後ずさってるんだけど……


まあそんな事よりはまず『浄化』だ!血肉まみれスプラッタで困った顔をしているマイちゃんに別の癖が目覚めそうになるのを押さえ、余すところなく『浄化』してゆく。浄化されてゆくマイちゃんとキラキラと綺麗になってゆく肉片……


細切れだが豚の切り落としならぬ狼の切り落とし肉をゲット……ということで良いかもしれない。


『マイちゃん。ちょっと軽くでいいかもしれないよね』

「うん。バーンってなっちゃったもんね!」

綺麗になって笑顔に戻ったマイちゃんがバーンと何度か口ずさみながら私をふりふりしている。可愛い。


そしてジワジワ後退している群れに飛び込むマイちゃん。


今度は軽くバシンと一体のボアを叩くと「ピギー」という悲鳴を上げて頭が陥没して倒れ込んだ。このぐらいなら良さそうだ。マイちゃんが「おお」と喜びの声を上げ次なる獲物に飛びついていた。

数分後には10体全てを打ち倒したマイちゃん。


そして私はワーウルフに近づいて……こいつは毛皮とお肉のみが買い取り対象だったはず。と『回収』を発動するとするりと毛皮とお肉が取り出せた。やっぱり便利。

そして念とためともう一匹に近づいて……『素材!』とふんわりイメージで『回収』を試みる……毛皮とお肉、そして牙と爪がボロボロとはぎ取られてゆく。これは……

再度確認とばかりにさっき回収した奴にも、もう一度『素材』と思い浮かべて『回収』すると牙と爪が……


これはやばいね。

ふわふわ浮かぶそれらの素材全てを『浄化』して『収納』する。


次はボアに移ると、毛皮にお肉、そして牙が回収できた。

それを見てマイちゃんも楽しそうにしていた。


『なんだかすごいよね。牙とかも買い取ってくれるんだよきっと』

「きば!かっこいい!」

マイちゃんのその言葉に反応した私はサッと牙を一つとりだした。


それを「おお!」と言いながら指先でつまんでブンブンふっていたマイちゃん。何をしているのか不明だがご機嫌な笑顔を見せていたのでしばらくその至福の時間を堪能していた。

2~3分ほど後、マイちゃんも満足したようで牙を「はい」と差し出されたのでしっかりと収納しておく。マイちゃんが楽しんだ牙、として別に名前を付けて『収納』をしてみた。無事成功しなんとなく取り出す時はそれらを区別することができるようだ。


なんとも便利なご都合スキルである。

多分女神製の特別仕様なのかもしれない。


それからお昼休憩を挟み狩りを続けるマイちゃんと私たちは順調に狩りを進める。

すでにマイちゃんは手加減も覚えてサクサク狩り進める。


そして夕刻過ぎ、マイちゃんのお腹が可愛い帰宅の音色を奏でたのですみやかにギルドへと戻る私とマイちゃんであった。



――――――

名前:マイ

種族:人族

力 70(+50) / 耐 30(+50) / 速 40(+10) / 魔 60(+10)

パッシブスキル 『精神耐性』

アクティブスキル 『小回復』

称号 『ママの飼い主(呪)』

――――――

『マイのダガー』力+50 速+10 魔+10

『マイの鞘』耐+50

――――――

また強くなったマイちゃん!ボアいいよね!かなり稼げた予感!でもとりあえず最初に飼ったボアとワーウルフ(小間切れは除く)については別途収納してるんだよね。これでお鍋パーティーするんだ!

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