15 ドワーフ

翌日、マイちゃんを眺めている私はゲストルームにある時計に目を向ける。


『そろそろいいかな?』

何時までも見続けることはできるのだが、今日はマイちゃんとダンジョンに行かねばならない。いつもなら早めに起きているマイちゃんであるが、昨日の今日でちょっと疲れたのかもしれない。


まだ寝息を立てているマイちゃんを名残惜しくも『影の手』で優しく揺り起こす。決して百合興すではない。何を言っているんだ私は……そんなセルフ突込みをしているとマイちゃんが目を開ける。


『おはようマイちゃん』

「ママ、おはよう……もうあさ?」

『そうだよ。昨日疲れちゃったからまだ眠たいかな?もう少し寝る?』

「ううん、マイ、おきる」


まだ少し寝ぼけ気味のマイちゃんを『影の手』で抱き起こし魅惑のお着替えタイムを行う。といっても『収納』から出したマイちゃんのメイド服を上からするっとかぶせるだけである。

決してあんなところやこんなところをまさぐったりはしないのだ。


着替えが終わるとようやくマイちゃんも目が冴えたようで「ママありがとう!」と元気いっぱいで抱き着いてきた。

そして私は昨日イーリスから聞いていた話を思い出す。


『マイちゃん、今日はダンジョンに行く前に魔道具屋さん行こうか?』

「うんいくー!」

マイちゃんのメイド服が駄目にならないように、保護の魔道具がないか探しに行くのだ。いずれ良いものを買ってあげようとは思う。だが今の服はマイちゃんが初めてメイドとして働いた記念の品なのだ。


傷まないように保護して大切に取っておきたい。


イーリスの話ではギルドの東側通路をまっすぐにマイちゃんの歩調なら5分程度で魔方陣が書いてある看板が左手にあるそうだ。『マイちゃんの歩調なら5分程度』と言うところにイーリスの気持ち悪さを感じる。まあ私も大体それで距離わかるけど……


そこならもしかしたら置いているかも?という話らしい。

とりあえず行ってみなけりゃ始まらない!ということでマイちゃんに朝食のサンドイッチを取り出した。今日は食堂ではなく部屋でマイちゃんを独り占めにしたいから。

昨日のお鍋を食べた料亭で朝食用にと提供されている奴を買っておいたのだ。出来立て状態で保存できる『収納』便利すぎ!


もちろんメシオのドリンクも一緒に。

メシオのドリンクとは、その料亭でマイちゃんが飲んだドリンクでマイちゃんがとっても気に入っていたので大量に買っておいた。

メシオは白いメロンのような見た目で中にはオレンジ色の甘くてとろりとした果汁が詰まっていて外側がちょっと固い奴とのこと。実物見てみたいな。どっかに生ってないかな?


こうやって私も少しづつ異世界の知識も増えてくる。

以前マイちゃんが門番さんに貰っていた真っ赤なはっさくのような見た目で皮をむくと中は桃のようであまずっぱくておいしい奴はハモモンというようだ。

他にも熟していないバナナのような青い見た目で、やわらかい皮をむくと中にはねっとりと甘い粒々の黄色い実が詰まっているバナボンというのもあるらしい。

あとアッポという赤いリンゴのような見た目で、薄い皮をナイフで剥くと中は少し見た目がリンゴのようで、味は甘酸っぱいというリンゴみたいな果実、いわゆるリンゴがあった。


その料亭には置いていなかったが、今度ぜひアッポジュースをマイちゃんに飲んで貰いたい。きっと気に入るはずだ。私もできれば飲んでみたい。あ〃女神、私に食べるスキルをくれないか?


そんなことを考えているうちにマイちゃんのお腹は満たされたようで、ベットの上で足をパタパタさせて鼻歌を歌いながら肩を揺らして私を誘惑しているマイちゃんがいた。これはもう……いいってことだよね?

もちろんお出かけの準備ができた合図と捉えた私は、マイちゃんに『じゃあ行こっか?』と声を掛ける。可愛い笑顔と共に元気な返事が返ってきたので、これだけで私は今日も一日元気に戦えそうだ。


ゲストハウスの一室を出てギルドの受付前を通ると、すでに待機していたイーリスが絡んでくる。


「きょうはママとおでかけなの!」

元気よくそう宣言するマイちゃん。そうだよ?イーリスの出番はないんだよ?


私はご機嫌のままマイちゃんの背中で悦に入りながら思わず鼻歌が漏れるところだった。まだ朝早い時間帯だから他の冒険者たちも可愛いマイちゃんのおかげで注目されてるようだし……色々と気を付けねば。


マイちゃんの言葉にショックを受け撃沈されたイーリスを置き去りに目的地の場所までゆっくりと散歩する私たち。マイちゃんはまたもご機嫌で鼻歌を歌っている。お宝SSが私の脳内に日々増えていくので脳内の無限収納に記憶する作業に没頭する。


そんな私は、街中でひっそり光る男の目線に気づくことはできなかったようだ。


「おいモップ」

ん?今なんか聞こえたような……ま、いっか!


「おい!聞こえてんだろモップ!」

やっぱ呼んでる?


すでにマイちゃんも気づいているようで、立ち止まって私の方に首をまわして少し不安な表情をみせていた。


声の方を見ると……


茶髪のさらさらヘアで見た目は子供ってほどでもないが、20代前半ぐらいに見えるグレーのスーツのような見た目の優男がこちらを睨んでいた……


――――――

名前:クルダレゴ

種族:ドワーフ族

力 300 / 耐 620 / 速 120 / 魔 590

パッシブスキル 『武具の魂』

アクティブスキル 『鑑定+』『耐熱』

称号 『鍛冶の神』

――――――

『武具の魂』武具の作成の際、その能力を上昇させることができる加護

『鑑定+』人や物の名称が確認でき、さらにその能力をうっすらと視る目を持つ

『耐熱』熱に対する防壁を生成する

――――――


なるほど『鑑定』もちか、というか『鑑定+』って……ママって名前は見えるとして、その他にどの程度見えているのだろうか……

というかこの男、ドワーフなの?イメージが違いすぎるよね……


『マイちゃん、一応あの人に声かけてみようか?』

「うん」

ちょっと不安そうではあるがマイちゃんはその男、クルダレゴの元へと歩いてゆく。私は警戒しながらマイちゃんの背中で待機している。


「なんですか?」

「ああ、お嬢ちゃん。後ろのモップに話があってな、ちょっと時間を貰いたい」

やっぱり私がご指名なんだね。鑑定持ちはこれだから困る……と自分のことは棚上げしてため息をはく。


「なんのことですか?」

「いや、いいんだ。ちょっと中で話さねえか?ここじゃ色々とまずいだろ?」

私はクルダレコの言葉にマイちゃんの安全を確保するため、警告することを選択して背中から飛び出した。


『このド変態』

「なにがド変態だ!」

右足をドンと地面に一度打ち付け怒りの表情をするクルダレゴ。


『可愛いマイちゃんに我慢ができず連れ込もうとするなんて変態以外いないわ』

「連れ込みたいのはお前の方だ!」

「えっ」

ひときわ大きく叫んだクルダレゴの声で道行く人たちの注目が集まっている。ひそひそと何やらご近所さんで話しながらの冷たい視線がクルダレゴに集まっている。


「くっ!モップ!お前のせいだぞ!いいから早く中に入れ!色々とバラされたくないだろ!」

「やっ!ママー!」

マイちゃん!そんな素敵なセリフをなんてタイミングで叫ぶの!……とってもイイ!ナイスタイミングよ!クルダレゴの顔がさらに引き攣っていく。


周りのガヤガヤとした批難の声が徐々に大きくなってくる……


「お、おい……あの、モップ、さん……ちょっと来てくれないですか、お願いします、から……」

膝から崩れ落ちて地面を見つめながら懇願するその様を見て……少しだけ可哀そうになってきたので助け舟を出すことにした。まあドワーフだし、後々役に立つかもしれないからね。


『マイちゃん、イーリス呼んでみようか』

「イーリスちゃんいるの?」

マイちゃんが首をかしげた次の瞬間、路地に隠れていたイーリスが飛び出してきた。ずっとギルドから尾行してたの見えてたからね。


「マイちゃーん!私はここよ!」

「きゃっ!」

突然あらわれたイーリスに驚くマイちゃん。


『さて、イーリスならここはどう治める?』

「しかたないわね……」

私はイーリスに近づきこそっと丸投げしておく。


「あーん”んん!……あークルダ、私の妹を招き入れるにしても、少しは人の目も考えろ?いやーすまんね皆さん。この天使、私の妹ね、じゃあクルダ、色々美味しい話もあるんだろ?中、入ろうか?」

「あ、ああ」

どうやら知り合いだったらしいイーリスががっちりとクルダレゴの肩に腕を回してそのまま後ろの家屋へと歩いて行った。なんだか見た目は借金取りに捕まった債権者のようだ……とはいえこれで少しは治まって……ないかも。


まだ続くひそひそ話の中には、ロリコンやら変態やら危険近づくなといったワードが数多く聞こえたが、それはそれとしてマイちゃんへと声を掛けながら背中の鞘へと戻る。


『なんだか御用があるようだから、一緒に中に入ろうか?』

「うん!なんだかたのしそう!」

さっきまでのやり取りを見て面白みを感じたのなら幸いだ。


マイちゃんはルンルンな足取りでイーリス達の後について家屋に入ってゆく。


「おいモップ!お前のせいで白い目で見られちまった!どうしてくれる!」

中へ入ると間髪入れず私に詰め寄ってくるクルダレゴ。鼻息が荒いので暑苦しい。


『あんたがあんな場所で声を掛けるからじゃない?』

「ぐっ……」

私の正論に返す言葉もないようだ。


『そんなことより、この世界のドワーフってみんなこうなの?イメージとだいぶ違って困る』

「けっ!」

不貞腐れた様子でクルダレゴは椅子にドカリと座ると、耳に付いているイヤリングを外した。すると……


『ドワーフ!』

「そうだよ!本来ドワーフはこんなだよ!俺たちを含め、亜人はほとんど魔道具で姿を変えてる。お前、鑑定持ちだろ?あとで街の連中も視てみろよ!結構いるんだぜ?」

なるほどなるほど。


魔道具を外すと元のいわゆるドワーフといった低身長でガタイの良い髭もじゃに変わっているクルダレゴ。でも亜人も結構いるんだね。良くある異世界転生のようにロリエルフさんとか、モフモフな猫獣人さんとか、見ないなって思ってたけど……


「まあ俺は鑑定でも一つ上のを持ってるからな!名前以外にもなんとなく直感のような何かを感じれるんだ!だからお前も何かあるって気づいたんだ!」

少しドヤってるクルダレゴにイラっとする。


『私、鑑定眼もってるけどね、あんた武具の魂ってスキル持ってるでしょ!』

「な、なんだと!どうしてそれを……って鑑定眼ってあれか?神の目ってやつか?」

『神の目?それは知らないけど、まあ女神から貰った目だけどね?』

「くそっ……女神様の眷属かよ……」

女神様の眷属?どうやら私はこのクルダレゴという男をしばき倒さなければいけないようだ……


「おい!その殺気飛ばすのやめろ!」

『うっさい!あんな駄女神の眷属でたまるか!私はマイちゃんのママ!そしてマイちゃんの眷属なのよ!』

私は『威圧』を飛ばしながらふわふわとクルダレゴの前に浮かび『影の手』を広げ『浄化』でキラキラと自分を輝かせてその神々しさを演出する。マイちゃんが一番なのよー!


「わ、わかった!わかったから!」

『分かればいいのよ!』

私はゆっくりとマイちゃんの横まで戻ってきた。そしてマイちゃんが「ママー」と甘えてきたのでそれを受け止める。


ふふふ。私がママよー。



この世界では亜人は種族ごとに小さな村を作って点在してるとか……それでもその村が奴隷狩りで襲われちゃうとか酷い話もあるそうだ。それでもこうやって紛れて暮らしてる亜人も多いみたい。


いつかはみんなが平和に暮らせる世界になればいいな……

そして私はケモ耳少女とか合法ロリエルフとかに囲まれ……

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