14 メイドさんになるの

「ごめんなさい」

マイちゃんは戸惑いながらもペコリと頭を下げた。


マイちゃんを好待遇で向かい入れてやる!とニコニコ笑顔で意気込んでいたモーモス・ポボス伯爵の表情が固まる。何を言われたのか分からないのかもしれない……まあ普通の人なら好待遇で靡くのかもしれないしね。


「その……『ごめんなさい』はどういう意味か聞いてもいいであるか?」

「マイ、メイドさんになるの。だからごめんなさいです」

もう一度頭を下げるマイちゃん。ほんと良い子!


「そうか、メイドがしたいなら浄化で部屋掃除をしてから魔石の作業をやるがいい!メイドとして雇ってやろう!」

これならどうだ!とばかりに言い放つ伯爵。


「それに浄化で掃除するならメイドもそんなに要らなくなくなるのである!何人か首にしてもその分も上乗せしてやってもいいのである!」

「それだめ!」

さすがにこの言葉はないだろう。折角仲良くなったメイドさん達をクビにすると言われてマイちゃんが黙っているはずがない……


私はふわりと鞘から抜け出すと、マイちゃんの手に収まった。伯爵が怒りの表情に変わっていたのだから……


「私が……雇ってやると言っているのだ!平民風情が……私に仕えることを拒否するというのであるか?」

「マイ、ふつうのメイドさんがいいの!」

マイちゃんの私を握る手に力が入っていることが分かる。


「平民ごときが生意気である!お前なんぞ隷属紋つけて奴隷として強制労働させても良いのであるぞ!」

「きゃ!」

伯爵が拳を振り上げる。


『大丈夫!何があってもマイちゃんはママが守るから!』

「うん!」

私はマイちゃんの手から名残惜しくも離れ、伯爵の前へと立ちふさがった。


「な、なんだこのモップ!邪魔である!」

そしてマイちゃんに伸ばされた手は……バシ!と音を立ててはたき落とされる。


「いたっ!何をするのであるか!」

痛そうに手をさする伯爵。それでも懲りずにマイちゃんに近づこうとるすので、私は伯爵の頭や肩を足(柄)で何度も叩く。


バシバシ。バシバシバシバシ!

なんか前もやったなこのやり取り……


「な、なにをやっているであるかお前たち!見ているだけならみんなクビにするである!」

その声に慌てて部屋に待機していた二人の護衛が動き出す。二人とも剣を携帯しているので剣士であろう。


『マイちゃん、ママを使ってね』

私はマイちゃんの手に戻ると、その兵に向かって『棒術』による攻撃を繰り出した。二人の訓練された連携を私の足(柄)を使って捌いていくマイちゃん。もちろん『強化』も発動しているのでその身体能力はかなりの物になるだろう。


そして二人の護衛の間に切り込んだマイちゃんは、その二人の首筋に私の足(柄)を叩きつけて意識を刈り取った。

倒れこむ護衛を見てさらに伯爵が叫ぶ。


「な、何だと言うのだ!その二人はB級冒険者だぞ?なぜ、なぜそんなモップでさばける!おかしいのである!間違いなのである!」

頭を抱えて現実を受け入れたくないのであろう伯爵は何やら口走っていた。


「お、お前たちも何を見ているのである!この平民を……マイを何とかしろ!」

その言葉にアシスをはじめみんな困惑しているようだ。


そしてマリアちゃんが動き出し、食堂のドアを開ける。


「マイちゃん、ここはもうダメみたいだから、別のところ探した方がいいよ」

「マリアちゃん!」

あーマリアちゃんは優しいね……とっても良い笑顔してるけど、こんなこと言ったらマリアちゃんもクビかもしれないよ?


「私も、どっか別のところ探そうかな?一緒に探してみる?」

「うん!」

私はマリアちゃんと手をつないで部屋を出るマイちゃんの背後を警戒しながら付いていった。伯爵の怒鳴り声が聞こえてきたが、それよりもドアから顔を出してこちらに笑顔を向けるアシスさんを見てホッとする。


この屋敷は伯爵以外は良い人材が本当に集まっているんだなと……

私はマイちゃんとマリアちゃん、そして一緒についてきた残りのメイドさんたちとあの勝手口の部屋まで戻ってきた。みんな良い子ばかりだ。


「とりあえず私たちは様子見で残るから……何かあったら冒険者ギルドに連絡しておくけど、マイちゃん、たまに遊びに来てくれる?」

「うん、マリアちゃんすき!」

優しい笑顔を向けてくれるマリアちゃんに抱き着くマイちゃん。気の利く私はそっと背中から抜け出し後ろに浮かび待機する。厨房の人達が驚いたりしているがもうメイドちゃん達にはバレているから今更だ。


知性のあるインテリジェンス魔武具ウェポンとは思われないだろう。マイちゃんが操る魔道具?って感じで……部屋で少し『念話』を聞かれた気もするが……まあ大丈夫なはず!


……などと私が考えていると、マイちゃんを抱きしめるマリアちゃんの顔と手元がかなり妖しくなってきたので、大急ぎでマイちゃんの背中に戻り私の髪(房糸)で軽く邪魔をする。

マリアちゃんの「うわっぷ」という無様な声と共にマイちゃんが解放され、マイちゃんも少しだけ距離を取る。マイちゃんも多少なりとも何かを感じ取ったのかもしれない。あのだらしない表情にお尻辺りをまさぐっていた手はどう考えてもダメなやつだ。


さて、何はともあれ事の顛末を冒険者ギルドには報告しておいた方が良いだろう。そう思った私はマイちゃんに冒険者ギルドに戻ることをそっと伝えた。


みんなに手を振って屋敷を出ると久しぶりにマイちゃんを乗せて空へ飛び立つ。

マイちゃんは大空の風を感じで気分転換になっただろう。良い笑顔だ。私はマイちゃんのお尻と太ももの愛しさを感じて……見せられない笑顔になっていることだろう。モップだから表情無いし!問題無いし!


より道をしながら冒険者ギルドへたどり着き、その入り口にふわりと降りる。


ギルドに入ると「マイちゃーん!」と叫びながらイーリスが飛びついてきたのでマイちゃんがサッと躱す。うん、マイちゃんも冒険者として成長しているようで何よりだ。

躱されたイーリスだがその動きは洗練されており、片手をついてくるりと回ると体勢を整え正座の状態でマイちゃんを見つめる。そして間髪入れずに「おかえりマイちゃん!」と良い笑顔を見せていた。怖すぎる。


私はマイちゃんの背中から抜け出しイーリスに近づく。


『話がある。裏行くわよ!』

「な、なんだよ……」

そして私はマイちゃんの背中に戻って『ギルド長のところ行こっか』とマイちゃんをギルド長ディッシュの元へといざなった。


そして後ろからついてくるイーリスは無視してマイちゃんがギルド長の部屋の前に立つと、すかさずイーリスが一回ノックしたと同時にドアをあけマイちゃんを部屋の中へと誘導した。


「な、なんだよ。お嬢ちゃんもいるのか」

『伯爵が普通の貴族って言ってたけど全然違うじゃない!』

私はディッシュに詰め寄り大きな『念話』で文句を告げた。


「な、モップが!しゃべった!」

『あっ』

そういえばディッシュにはまだ言ってなかったっけ……


『まあそんなことはいいの!私はあの伯爵がクソだってことの報告をしにきたんだから!』

「お、おお」

私の誤魔化しを含んだ勢いに押されるギルド長ディッシュ。


その後、イーリスから私についての説明が行われ、続けて私とマイちゃんの言葉によりあの館でのことを全て報告する。ディッシュからの説明も聞くとやはり伯爵はこの街、オネイロスを治める領主様であまり文句は言えないらしい。

だが、派遣した冒険者に奴隷紋を!なんて発言があったのであれば話は別とのこと。ギルド本部を通して正式に抗議をする事になりディッシュも「やってやろうじゃねーか!」と鼻息を荒くしていた。


晴れて契約は解除。迷惑料は全てが終わってから、となる。冒険者としても十分やっていけそうな私とマイちゃんにとっては、別にお金は必要ではないのだがやはり働いた分の対価は貰うべきだと思った。

そのお金でマイちゃんにいっぱい美味しい物を食べてもらわなきゃ!


そんなこんなで話を終え、少し冷静になれた私。

そしてさっき護衛とバトルした際にまた『ぴっこぴっこぽっぴぴ~!』が聞こえたのを思い出し確認してみた。


――――――

『威圧』だめでしょ!めっ!

――――――


うん、なんかひどい。たしかにさっきあれば良かったかも?なスキルではある。あの時すぐ気付いて発動したらよかったかも。と少しだけ反省しつつ試しに『ひかえおろー!』とギルド長ディッシュに『威圧』をつかってみる。


「くっ!おい、なんか殺気みたいの飛ばすのはやめろ!」

『あ、ごめんねー』

どうやらかなりの効果があるようだ。


「ママがごめんなさい」

その様子を見ていたマイちゃんがペコリと頭を下げる。ちょっ!私はすぐにマイちゃんの前に浮かび謝った。


『ごめんねマイちゃん!ちょっとスキル試したかっただけなの。ディッシュになんか謝る必要ないんだよ?』

「おいこら!俺の扱い悪すぎないかモップ!」

『うるさい!あと私はマイちゃんのママさん、もしくはユイコさんって呼んでね!』

「くっ」

その様子を見ていたマイちゃんが両手に可愛い手を当てて「くふふ」と笑う。そしてまた「ごめんさない」とお詫びするマイちゃん。笑っちゃったことに対するお詫びかな?私は『影の手』でマイちゃんの頭を『いいのいいの』と撫でまわしていた。


『とりあえず暫くは冒険者で頑張ってみる?』

「うん!マイ、もっとつよくなる!」

意気込みが隠せずにいるマイちゃんをさらに撫でまわす。今日はゆっくり休んで明日から頑張ろう!


そんな思いでちょっと大変だった今日が終わる。

夜はイーリスの奢りで美味しいお鍋を頂いた。


たっぷりの野菜のうま味が染み込んだお肉は、ボアという魔物の肉らしい。異世界定番の猪ですよね知ってます!ねっとりと濃厚なうまみがやばいね!ボアは常に人気のある魔物素材だという。

ダンジョンも10階層を過ぎたぐらいだとボアが出てくるのでほとんどの冒険者はそこで稼いでいるらしい。これは……行くべきか?


『マイちゃん……ダンジョンではボア狩ってみる?』

「ボア?」

『うん。このお肉、ボアなんだって。それいっぱい狩ったらママが色々な料理に挑戦しちゃうかも……』

「ほんと!」

『うんホント!』

「わーい!いっぱいかるー!」

喜ぶマイちゃんを見て提案して良かったとホッとする。


ソシャゲ以外の唯一の趣味だったがブラックな環境で最近はほとんど出来ていなかった料理が、この世界ならゆっくり楽しめるのでは?と思って提案をしてみたのだ。

見た目こんなだけど『影の手』もあるし、味見もできないけどきっと大丈夫なはず!と思っての提案である。


明日はボアとご対面して狩れそうなら狩ってしまおうと思う私は、お腹いっぱいになったマイちゃんと一緒にギルドのゲストハウスへと戻ってきた。

途中空気と化していたイーリスもそのまま部屋へと入ってこようとしたので、そこは丁寧に私がせき止め弾き飛ばしたところで『じゃあおやすみ』と優しく声を掛け、間髪入れずにドアに鍵をかけておいた。我ながら丁寧な対応である。


すでにこっくりしているマイちゃんに、ダンジョン探索にむけ装備をどうするか聞いてみると、今着ているメイド服でいいとの返答だった。まあ何気に高級素材つかってるからね、あのハゲ男爵……

街で売っている服も確認してみたけど安いのは全部ゴワついていた。まあそのうちもっと高級な素材で装備を新調しよう。でもその時はやっぱりメイド服にしたいのかな?まだ今日はそんな空気ではないけど……


いずれにしてもちゃんと話し合う必要がありそうだ。


こうして、明日の冒険を夢見て眠るマイちゃんと、それを眺める私の夜が今日も過ぎてゆく。



現在のステータス

――――――

名前:ママ

種族:マイの不朽なモップ

力 90 / 耐 ∞ / 速 45 / 魔 60

パッシブスキル 『痛覚耐性』『視界確保』『念話』『不朽』『怪力』『精神耐性』

アクティブスキル 『浄化』『念動力』『影の手』『突撃』『棒術』『鑑定眼』『強化』『火弾』『収納』『威圧』

称号 『マイちゃんの眷属(呪)』

――――――

これ以前は過去話参照

『強化』あなたをつよくするそのあいで!

『火弾』もえつくせ!

『収納』いいのいいの。もうないないしましょーね。

『回収』ちょっとこれ、もらってくね?

『威圧』だめでしょ!めっ!

――――――

とりあえず冒険者稼業を再開しましょうかね。よーし頑張るぞー!マイちゃんは、ママが絶対に幸せにしてあげるからー!

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