戦国時代、南蛮船やイエズス会の宣教師が行き交い、賑わっていた港町・横瀬浦。一夜にして壊滅してしまったという惨劇に、ひとつの新たな可能性を提示した物語。
領主たる大村家のお家騒動、仏教とキリスト教の対立、イエズス会内部の思惑に振り回されながらも、人々のために尽くそうとする宣教師アルメイダ。さまざまな事情がからみ合い、緊張の高まる横瀬浦を襲ったのは、衝撃的な悲劇だった。時代を超越して目撃することとなった事態とは――。
読み手の「目」として当時の出来事を経験していくことになるのは、意外な立場にいる人物。その観点はSFでもありファンタジーでもある。また、登場人物・安起龍の言動には不可解な点が多く、ミステリーとしても楽しめる。いくつものジャンルの要素が味わえる、ぜいたくな本作はしかし、「歴史改変」というタブーに考察を寄せてもいる。わかってはいるけれど、それでも過去を変えてはならないのか。あまりにも重く苦しい未来を変えるために……。読了してふと、現実社会の未来はどうなっていくのだろうかと、思った。