第18話 追うか追わないか
戦いが終わった。狂戦士とジェノ。ルーカスとジェノとの戦いだ。
結果は一勝一引き分け。狂戦士戦はルーカスが奇襲して、勝利した。
その後、ジェノとルーカスが衝突して、決着寸前に誰かに拉致られた。
「あー、逃げちゃいやしたね。兄貴、どうします?」
頭をかきながら、当事者のルーカスは尋ねる。
視線の先にいるのは、こっちじゃなくてパオロ。
(兄貴、兄貴って……指揮権はわたしだっつーの)
サーラはムッとした表情を作りつつ、傍観する。
形式上リーダーだけど、信頼されてないみたいだ。
関係値は薄いし、パオロの方がリーダー適性がある。
分かってはいたけど、ほんの少し、胸がもやっとした。
「即決即断は……できない状況だな。お前は、どう考える」
すると、パオロは考えながらも話を振ってくれる。
(お前って……。まぁ、指示を仰いだ分、まだマシか……)
偉そうな言い方だったけど、受け入れた。
蚊帳の外にされて、話が進むよりはまだいい。
それより考えないといけないのは、ジェノのこと。
「操られてるかは不明だけど、害がないなら、放置でいいんじゃない?」
サーラは、思ったことを率直に告げた。
ぶっちゃけると助けてあげる義理はない。
相手は元お兄ちゃんらしいけど、今は違う。
記憶がない今、知り合って数日の他人だった。
戦力が減るのは痛いけど、元々、不安定な存在。
追ったところで、どうにもならない可能性が高い。
それなら継承戦を進める方が有意義なように思えた。
「……本気で言ってるのか? あいつは、お前の兄なんだぞ」
すると、パオロは眉をひそめ、不機嫌そうに正論を告げる。
言ってることは正しい。世間一般的な価値観では、それが普通だ。
「さっきの狼男は第4王子の配下。悪霊じゃない。殺される心配はないって」
だけど、仁義も友情も家族の温かみも知らない。
経験したことがないものを、正しいとは思えない。
知識としては理解できるけど、肯定はできなかった。
この世の中で信じられるのは、お金と利害関係だけだ。
「しかしなぁ……放置ってのは、約束を破っちまうことになる」
次に反応を示したのは、ルーカスだった。
ジェノが白き神に操られれば、殺さずに止める。
そう約束を交わした上で、暴走行為が起きてしまった。
(言ってることは分かるけど、本心なのかな……)
ただ同時に違和感もあった。
ルーカスの様子が少しだけおかしい。
狂戦士を奇襲してから、うさん臭さを感じる。
気のせいかもしれないけど、妙に引っかかってしまう。
「僕も同意見だな。追った方がいいと考える。約束の件もあるが、操られているかどうかハッキリさせておきたい。あいつとは、それなりに付き合いもあるし、恩もある。このまま見捨てるのは、どうも心情的にできそうにない」
すると、パオロはルーカスの意見に乗り、持論を述べる。
二対一。追う側が優勢の状況。多数決なら、こっちが負けだ。
折れるか、反論するか。王子としての資質が問われる状況だった。
(折れたら楽なんだろうけど、正直、やりたくない。どうしよっかな……)
短期的に考えれば、折れた方がプラスに思える。
利害関係は維持できるし、目先のことを考えれば楽。
だけど、長期的に考えれば、マイナスに転じる気もする。
意思の力はやりたいと思えるかどうか。動機にかかってくる。
相手の考えを肯定して、自分の考えを否定すれば、性能が落ちる。
少なくとも王位継承戦の道中は、ずっと引きずられてしまう気がした。
(うだうだ考えても、仕方ない。ここは直感に従おう)
サーラは、清濁併せ吞み、考えをまとめる。
命令はしない。あくまで、自分の結論を述べるだけ。
「追いたいなら、好きにしたら。わたしは追わない。一人でも先に進む」
そもそもジェノと約束を交わしたのは、追いたい側の二人。
こっちは、あいつと約束してない。わざわざ約束を守る必要がない。
それなら、自分の意見に従って、パフォーマンスを維持する方が大事だった。
「ある意味、正論だな。……分かった、お前の意見は一部尊重しよう。ルーカスはジェノを追って、僕はお前を護衛する。折衷案というやつだな。これなら、どちらにも筋が通る。まぁ、あくまで決定権はお前にあるわけだが、どうする?」
全ての意見を聞いた上で、パオロは総合的な判断を下す。
(前から思ってたけど、この人、参謀向きだな)
リーダーの適性もあるけど、意見をまとめる方が向いている。
組織のナンバー2というポジションが一番合っているような気がした。
「文句なーし。それでお願い」
「俺っちも、それで構いませんぜ」
おかげで、いざこざもなく、意見はまとまる。
雰囲気は修羅場の後とは思えないぐらい、前向きだ。
この調子なら、なんの心置きもなく、先に進めそうだった。
「いいか、ジェノの安否を確認したら、一度、必ず戻ってこいよ」
パオロは最後に釘を刺すと、ルーカスは首肯し、離脱。
戦力が半減してしまった状態で、二人旅が始まろうとしていた。
◇◇◇
暗い森の中、肌を切るのは、心地いい風。
ジェノは狼男に抱えられ、樹々を移動していた。
(なんだか懐かしいな……。あの時を思い出す……)
マフィアのボスの邸宅に拉致されてしまった時。
助けてくれたのは、黒い鎧を纏うリーチェだった。
あの時も、体を抱えられながら、庭園を駆けていた。
「……どうして、助けてくれたんですか?」
ただ、あの時と違うのは、目的が分からないこと。
この狼男は、第四王子パメラの配下なのは分かった。
だけど、こっちは敵陣営の人間だ。助ける理由がない。
「あなた様の体には、継承戦より価値があった。それだけのことです」
狼男は、分かりそうで分からないことを言って、樹々を跳び移る。
「それって、どういう――」
もちろん、深掘りするために、聞き返そうとする。
すると、狼男は高く跳躍し、がくんと体は揺れていく。
風が吹き抜け、スタッという音が響くと、目の前には女性。
桃色の長い髪に、頭頂部にティアラをつけた、白衣を着る王子。
「あたいと組むなら、体の秘密と白き神の復活方法を教えるけど、どうする?」
パメラ・フォン・アーサーは、一番欲しい情報を餌に、共闘を持ちかけた。
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