第5話 他力本願
年季が入った昇降機に乗り、地下へ降りていく。
機内には、サーラたち一行の姿と、金髪のCAがいた。
他の王子たちの姿はない。というよりも、定員で乗れない。
その都合上、継承権上位者から先に、案内される形となっていた。
「……分霊室、どんなところか楽しみですね!」
気まずい沈黙が流れる中、ジェノは話を切り出した。
雰囲気を良くするためなのか、本気でそう思っているのか。
サーラは物憂げな顔をしながら、その様子をじっと見つめていた。
(能天気なのはいいけど、今はしんどいな……)
あの吐き気と気持ち悪さが、まだ体の中に残っている。
反応する元気もなければ、明るく振る舞える余裕もない。
グロッキー状態ってやつ。今はそっとしといて欲しかった。
「適性試験の延長線上と考えれば、まぁ、楽しめそうではあるな」
「ダンジョン攻略を思い出しますねぇ。あん時は俺っちも青かったなぁ」
パオロとルーカスは、ジェノに触発されたのか、前向きだった。
先祖のアレに触れてないから、そんな緊張感のないことを言えるんだ。
(気楽でいいなぁ……。ダンジョンなんかより、遥かにヤバイのに……)
とはいえ、一応、空気は読めるつもりだ。
明るい雰囲気をぶち壊すような発言はしない。
ただ意見には同意しないし、輪の中には入らない。
それが、せめてもの抵抗。自分なりの意思表示だった。
「サーラさんは、どう思います?」
しかし、ジェノは仲間外れをするような人じゃない。
心を閉ざすこちらに向かって、手を差し伸べてくれている。
(なんで……この人が主役じゃないんだろう……)
優しくて、明るくて、ムードメーカー的存在。
輪に外れている人がいれば、声をかける配慮もある。
戦闘面では粗が目立つけど、精神面では非の打ち所がない。
自分なんかよりもよっぽど、王の資格を持っているように思えた。
「……別に、何も」
だけど、それをそのまま口に出すわけにもいかない。
淡泊で、なんの味気もない返事をして、この場を乗り切る。
体調が良ければもっと上手くやれたけど、今はこれが限界だった。
「それだけ肝が据わってるってわけですね! 頼りにしてますよ!」
すると、返ってきたのは、あまりにもポジティブ過ぎる言葉。
心情を察した上での皮肉なのか、それとも、ただ鈍感なだけなのか。
正直、分からない。知り合った日数も浅いし、身内に能力は使いたくない。
(今は乗せられてあげようかな……)
色々と考えた上で、サーラは仮の答えを出す。
人の思考を深読みしても、いいことなんてないからね。
◇◇◇
「お待たせいたしました。こちらが終点。分霊室前でございます」
昇降機の扉を手で開き、金髪のCAはガイドする。
目の前に広がるのは、整地された広大な空間だった。
柱や壁は、白の大理石。奥には、巨大な白い門が見える。
至る所に文字が刻まれ、霊的な物々しい雰囲気を放っている。
灯りは現代的なLEDライトに明るく照らされ、視界は良好だった。
門の奥はともかく、ここは、人の管理が行き届いているように見えた。
「……ここ、何階なの?」
舌足らずなCAに不満をぶつけるように、サーラは尋ねる。
肩書き的に、ぺらぺらと世界観を説明する人のように思えた。
だけど、その実は寡黙。質問以外はあまり答えないタイプだった。
「地下十三階でございますね。……行ってらっしゃいませ」
こんな感じで、最低限の回答だけして、会話を切り上げる。
気付けば、昇降機の扉を閉じて、自分だけ上階を目指していた。
「なに、あいつ……。役に立つこと全然話してくれないじゃん」
別に建物のうんちくを聞きたかったわけじゃない。
少しでも、継承戦に使えそうな情報を集めておきたかった。
だけど、結果は見ての通り。ここが地下十三階にあると分かっただけ。
「まぁまぁ、今度はまともに案内されただけでも、良しとしましょうよ」
機嫌悪くしていると、ジェノがフォローを入れてくる。
実際、一理ある。彼女は、条件付きの空間移動能力を持つ。
他の王子とは経歴が異質だし、間引かれる可能性も十分あった。
「聞かれたこと以外は答えない。能力を満たす条件かもしれないしな」
続いてパオロは話を補足し、門を睨んだ。
明らかに場慣れしている。初々しさが感じられない。
(状況は面倒極まりないけど、人には恵まれてるのかも……)
ハッキリ言って、こっちは経験不足だ。
初めての任務がドイツで、ずっとサボってた。
まともに任務を達成したことはないし、自信もない。
だけど、それを補って余りある人物が周りにいる気がした。
「ともあれ、門を開けないと話になりませんねぇ。ここは強引に……」
一方、下手に出るルーカスは、左足の義足を上げ、言い放つ。
何か仕込まれている。もしくは、得意とする戦闘方法に違いない。
(面倒だから、やってもらおうかな……)
ぼーっと、サーラは口を挟まず、状況を見守る。
継承戦には参加するけど、面倒事は極力避けたい。
最初の一歩は踏み出すも、本質は変わってなかった。
「……いや、待て。王族以外が触れたら祟られる形式だったらどうする」
ただ、パオロは少し悩んだ後、考察を告げる。
うーん、これは正論。言い訳を挟む隙もなさそう。
面倒だけど、重い腰を上げて、巨大な門を見上げた時。
「あ……。もう開けちゃいました」
気付けばジェノは門に触れ、すでに開いていた。
パオロの言う通りなら、祟られるかもしれない状況。
もしかしたら、何かしらの罰則が発生するかもしれない。
(ラッキー。楽できたならいいや)
ただ、サーラはお構いなく、前に進む。
開けたのは他人。祟られるのも同時に他人。
自分に被害が及ばないなら、なんでもよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます