第2話 王位継承権者


 イギリス。ロンドン。バッキンガム宮殿。玉座の間。

 

 赤い絨毯が敷かれ、正面中央には、二つの赤い玉座がある。


 正面右側の玉座には、王冠を被った金髪の老人が、腰かけている。


 右手に王笏。左手に宝珠。両肩に白マントを羽織り、金のローブを着る。


「……揃ったか」


 老人は立ち上がり、何もない空間を見つめる。


 直後、その空間が歪み、そこから現れたのは、五人。


「皆様、バッキンガム宮殿に到着いたしました。足元にお気を付けください」


 スタッと真っ先に着地したのは、金髪のCA。


 足音すら立てないほどの、余裕のある身のこなし。

 

 上空一万メートルから連れ去られたのは、彼女が元凶。


「……うわぁぁっ!!」


 という叫び声と共に現れたのは、ジェノ。


 顔から地面に激突し、無様な着地をしている。


 なんというか残念な反応。強さは微塵も感じない。


「移動系の能力者か……。やられたな……」


「っとと、約束破りは厳禁ってか。やるねぇ」


 次にパオロと、ルーカスが着地する。


 状況を理解し、環境に適応しつつあった。


 反応から見て、ジェノより期待できそうだった。


「……ここが、バッキンガム宮殿」


 最後に着地したのは、サーラ。


 慌てふためくような真似はしない。


 見聞きした情報から場所を察していた。


 それよりも問題は、ここに拉致された理由。


「ハインリッヒ国王陛下。王位継承権者、及び、その一行をお連れしました」

 

 CAは何事もなかったように、正面の老人に告げる。


 姿勢は片膝をついて、平伏し、最大限の敬意を払っている。


(こいつが、イギリスの現国王……。一体、なんの用で……)


 サーラは、老人ハインリッヒを見つめ、思考を巡らせる。


 ここまで大がかりなことをしておいて、無計画はあり得ない。


 何か意図がある。それも、壮大な計画の一部のように感じられた。


「……お父様、これは一体なんの冗談ですか」


 真っ先に反応したのは、パオロ。


 反応から察するに、王室の関係者らしい。


(ふーん。彼が火種で、こっちは巻き込まれた側か……)


 少ない情報だったけど、ある程度の察しがつく。


 CAは『王位継承権者、及び、その一行』と言ってた。


 パオロがお父様と言ったことから、国王の血族なのは確定。


 王位継承権を持てるのは、王室の血縁者のみ。息子なら資格十分。


 つまり、パオロが王位継承者であり、他はオマケだと容易に想像できた。


(面倒だなぁ。自分ならまだしも、他人の家族問題とか心底どうでもいい)


 サーラは、冷めた目で渦中にいるパオロを見つめる。


 国王の息子なら、王子。主人公の役職にはぴったりだ。


 今回もそれらに巻き込まれて、脇の方で踊っているだけ。


 ため息の一つもこぼしたくなるけど、空気は読めるつもり。


 できることと言えば、安直な王道展開を見届けるだけだった。


「……パオロ・アーサー。落とし子のお前に用はない」


 ただ、ハインリッヒは予想外のことを告げた。


 落とし子とは、正妻以外の女性に産ませた子供。


 王族の場合、王位継承権を持てないケースが多い。


(え……? 待って……。じゃあ、他に本命がいるってこと?)


 サーラは視線を左右に動かし、他の候補を見る。


「……はっはぁ、そういうことか」


 納得したような声を上げたのは、ルーカス。


 黒髭を生やす、どこにでもいそうな中年オヤジ。


 青と白のアロハシャツが、場違いさを際立てている。


(絶対こいつじゃない。でも、この反応……。何か知ってる……?)


 本命ではないけど、事情を知っている。


 確信はないけど、そんな態度のように思える。


「え……ちょっと待って……。消去法でいくなら……」


 次に声を発したのは、ジェノだった。


 反応から見ても、当事者のようには思えない。


 だけど、答えを知っている。察したような顔をしてる。


(どういうこと? 鈍い彼でも、何かに気付いてる……)


 彼は接した限り、この手の話に鈍い。


 それなのに、先を越されてしまっている。


 こっちは糸口さえも掴めないのに分かってる。


「……嘘だろ。こんな近くにいたっていうのか!」


 パオロは声を張り上げ、視線は一斉にこちらの方に向く。


(消去法。こんな近く。視線の意味。他三人が察した理由……)


 今まで出てきた情報を、頭の中で並べる。


 何度も何度も考えて、状況の答えを探し求めていく。


 だけど、行き着く場所は毎回同じ。何度やり直しても結果は同じ。


(他人事じゃない……。これは……)


「王位継承順位第五位。エリーゼ・フォン・アーサー。用があるのは、お前だ」


 察したと同時に、ハインリッヒは答えを口にする。


 過去を紐解く鍵が、閉じた扉をこじ開けてきた瞬間だった。

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