第3話 女騎士

「ふぁぁぁぁ……」



 あれから日が明けて翌日。

 見広は、昨日シルルが近場で快適な宿として紹介してくれたその個室で見広は目を覚ました。


 まだ少々眠っていたい気分だったがぐっと伸びをして、あたりを見渡してみて昨日からのことが夢ではないことを確認する。



 するとドアの方からコンコンコン、と三回のノックの音が聞こえた。



「はーい」



 そう返事をして、寝起きでだるい体を動かしながらドアの方へ歩く。

 かかっていた鍵を開けて、ついでにドアも開くとそこに立っていたのは案の定シルルであった。

 

 そんな彼女は、昨日と同じようなそれでも少し着飾ったような服を着ていて。

 とても、見広の部屋に少しだけ顔を出すような格好ではなかった。


「おはようございます、見広」


「あぁ、おはようシルル。でも、どうしてこんな朝っぱらから俺の部屋に?」



 彼女の住居は近場にあるらしく、まぁ足を運びやすいといえば運びやすいのだが。

 だとしても、彼女が見広の部屋にこんなに早く来る理由にはならなかった。



「いえ、これからとある人の所に行くので見広もどうかとおもいまして」



 とある人、と言葉を濁していったのは何かしらの理由があるのかただ名前を出すのが面倒くさいだけなのか。


 どちらにせよ、見広は怪訝そうな顔をする。



「それは、俺も行かなきゃ行けないやつなのか?」


「はい。というか、見広のために行くようなものですよ。あの人……彼女なら稼ぎどころの一つくらい紹介してくれるでしょうし」


「何か、そういう系の仕事をしている人なのか?」



「ううん、違いますよ。お貴族様を守る女騎士って言えばわかりやすいですか?」



 なるほど、それは仕事の一つや二つ紹介できる権限を持っていそうだと見広は思った。

 騎士になることができる女性で、平民とも多少は関わりを持つとなると……。


「騎士爵……士爵の出の?」


 果たして返ってきた答えが肯定であったことに、ほっとした。

 外していたら恥ずかしい思いをしているところだった。

 

 同時に、そんな重要そうな人物とは極力関わりたくはないんだけどなと苦笑している自分もいることに彼は気がついていた。


 だとしても生活していくためにもその女騎士とやらには会わないといけないか、と思う。


「まぁとりあえず下で待っておいてくれ。俺は着替えて来るから」


「了解しました。ロビーの方で飲み物を飲んでおきますので終わったらきてくださいね」



 絶対ですよ、と念を押された見広は「はいはい」と適当に言葉を返した。





 しばらく経って、再び合流して町の中に出た二人は少しだけ買い物をしながら目的の場所へ歩いていく。歩きでたどり着ける距離だということにびっくりだ。



「見広、どうしました?」



 そんな中、見広が急に立ち止まってしまったのでシルルは不思議そうに首をこてんと横に倒した。ニコニコと彼女も楽しんでいるような高揚しているような表情を見せていた。


 それには、いいやなんでもないと見広は返す。



(誰かの視線を感じた……。なんて、流石に気のせいだろ)



 若干調べてみたさもあり、名残惜しそうにチラリと一回見広はその場所へ振り返ったがそのあとはまるっきり忘れてしまったようで、食べ物の方に話題が移っていった。


 そんなこんなで彼らが目的の場所にたどり着いたのは太陽が高く昇る頃だった。



「誰だ!」



 そこに近づくなり、鎧を着て立っていた兵士と思しき人間が一斉に槍の先をこちらに向けてきた。ビクリと突然のことに驚いて見広は形を震わせる。



「おい、シルル。これ大丈夫なのか?」


「ん、大丈夫ですよ。おーい、衛兵さーん私です。シルルでーす」



 彼女がそう言ったが、そんなものでいいのかと見広は若干呆れる。

 それで、兵士たちも槍を下ろしてしまうのだから、この世界はどうなっているのだ。



「なんだ、シルルの嬢ちゃんか。しらねぇ男が一緒だから誰だかわからなかったぜ」



 というよりか、平民であるシルルがこの場所を顔パスのようなもので通れることがおかしいのかもしれない、と奇妙なものを見る目でシルルを見つめた。



「で、そこの男はシルル嬢ちゃんの彼氏かなんかか?」


「いえ、違いますけど? えぇ違いますとも」



 シルルがにっこりと笑ってそう言った。

 見広からはちょうど反対側しか見えなかったが衛兵が顔を引き攣らせたのは分かった。



(どんだけ、その笑顔を恐れてんだよ)



 シルルは本当に何者なのだろうか、と思ったが一緒に過ごした感じただの平民にしか見えなかった。何かを隠しているようなそぶりを見せることもなかったので、本当に隠し事はないのだろうが。


 やっぱり、この世界は狂っているのかもしれない。

 


「すんません、通らせてもらっていいすか?」


「おう、シルル嬢ちゃんの連れなら厄介なことは起こさないだろうしな」



 それは信用された、と受け取っていいのか見広としては悩ましいところではあった。

 失礼します、と言いながらそこにあった門を潜ると中は意外にも綺麗に整備がしてあった。

 もっとこう、荒々しさを表現したような場所なんじゃないか、と思っていた見広としてはまぁ拍子抜けだった。



「ここは?」


「兵士さんたちが寝泊まりする兵舎ですよ。ちょうど彼女が帰ってきているらしいので……。あ、いましたリシア様!」



 ヒュン、と風を切ってシルルが飛び出していった。


 日常の彼女からは考えられないその速度に見広は目を見開いたが、さらに目の前のリシアと呼ばれた少女を見て口をぽかんと開けた。



「こら、見広。いくらリシア様が綺麗だからと言って見惚れたら行けないでしょう?」



 藍色の髪を揺らすリシアを見て固まった見広を、軽くシルルが叱責する。

 確かに、リシアは女性らしく整った顔立ちと、体型をしていたがそれよりも。



(なん、だ。もっと別の俺を誘惑するような)



 精神に干渉する魔法を使われているのならば、その両手の権能によって打ち消されるはずだ。


 だから、これは人を魅了するようなものを使われているわけではない。


 では、いったい何が見広をこんなにも惹きつけているのか。



(もっと何か、絶対的な____)

 


 運命的な。

 出会ってはいけない人間と出会ってしまった時のような感覚を見広は感じて。



「見広?」



 ハッと意識が思考の中から急上昇してきた。

 それでやっと、見広は自分が彼女を見つめてばかりいたことを思い出した。



「っ、すみません」


「いえ、いいんだけど……。どうしたの?」



 あなたに何か運命的なものを感じました、とは口が裂けても言うことはできない。

 あたり障のない社交辞令で誤魔化しておくことにした。



「で、シルルは今日彼をどうしてここに連れてきたの? 惚気話なら遠慮して欲しいのだけど」


「ちょ、リシア様までやめてください! 私たちが今日ここにきたのはちゃんと目的があってのことなんですから。あ、そうだ。その前に自己紹介しないと」



 百合百合しいのかよくわからない光景を、眺めていると急に会話の矛先が飛んできて見広はビクンと軽く飛び跳ねた。



「あ、あぁ。俺の名前は天智 見広。見広でいいっす」

「私はリシア・オルティリア。見ての通り騎士職についているわ。よろしくね」


「あぁ、よろしく」



 一通りの流れが終わると、ゴホンとシルルがおもむろに咳払いをした。

 それで、二人はそちらに向き直る。



「今日は見広くんの特殊な体質について調べにきました!」



 ぴくり、と自分の眉が変な方向に動いたのは気のせいではないだろう。

 はぁ、とため息をつく他なかった。



「特殊な体質?」



 リシアが疑問符を乗せてそう言ったので、シルルから発言権が見広の方へ回ってきてしまった。

 どうせなら最後まで自分で話してくれ、とシルルをジトーとした目で見るとそっぽを向かれた。

 

 ため息をついて、見広は仕方がなく口を開く。



「____《魔を喰う者マナイーター》っていうものでな。俺の両手はどうにも異能を食い殺す力があるらしい」


「……その体質を調べたい、と?」



「あぁ、それで生きていくだけの基盤を作ることのできる職を見つけたいんだ」



 ほぅ、とリシアが唸った。

 それから、何か案を考えていたようでしばらくは黙っていたのだが、じゃぁとそれを口にした。



「とりあえず、私の魔法を食べてもらっていいかしら」

「____いいけど」



 そう言った瞬間、大気の流れが微かに変わった気がした。

 見広が、もっと気を許しているような状態ならば確実に気がつかないくらいの何かの変化が。

 

 見広はその一瞬の間に右手を振り切る。

 手が何かに触れたが、それが魔法であると認識するのに刹那の時間も必要がなかった。

 

 その右手に吸い込まれるように消えていく魔法を見てリシアが今度は感嘆の声を漏らした。

 飲み込んだものはなんなのかと考えて、見広は言葉を発する。


「……氷系統の魔法、ってところか?」


「正解ね。流石に今のに反応されるとは思ってないなかったのだけど」

「……この至近距離なら、拳の方が早いからな」



 この世界の魔法は、創作物の世界の魔法と同じで《魔法陣》を構築するメカニズムを魔法発動までに挟むということはシルルに教えてもらった。

 

 見広はパンパンと手を払ってから、にっと笑った。

 リシアはその物言いに驚いたらしく、フフッと同じように笑っていた。



「確か、職を探しているって言ってたわよね」


「ん、そうだな。なんせ現在絶賛ニートなもんで」



 自嘲気味に見広がそういうと、だったらとリシアは笑みを浮かべた顔で言ってきた。



「私たちの学校に来てくれない?」



「え、見広は学園に行けるんですか?! いいなぁ、私もいってみたかったな学園」



 シルルがうっとりとした目で言うので、見広は顰めっ面をし損ねた。

 見広としては、異世界まで来て学校に通うとか勘弁してほしかったのだが。



(あと、異世界の学校とか嫌な予感しかしねぇ……)


「まぁ、実際には学園の運営のお手伝いね。人手が不足してるから来てくれると嬉しんだけど……」




「____まぁ、暇だからいいけどさ」



 結局その日、折れたのは見広の方だった。

 口喧嘩は女の方が強いと言うのはこの世界に来ても変わらないのかもしれない。





《あとがき》

 序盤、ハイスピードで飛ばしております。

 展開はっや! て思うかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。


 あと、僕は思ったんですよ。

 毎日星一つゲットできれば、あと70日ちょっとで星100達成じゃね? と。




 

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