地獄に響く子守唄

第56話

 ガーランは、ゆっくりと廊下を進みながら思考を巡らせる。


 腹部に走る激痛のせいで体に力が入らないが全く歩けないほどではないし、頭もぼんやりするが何も考えられないほどではない。


 ザルカ帝国は核保有国だ。


 そして、ほぼ全ての核保有国が、首相のすぐそばに核兵器使用許可を下す装置を控えさせている。


 もしかしたら共産党トップの部屋に、その装置が残されているかもしれない。


 平時であれば有り得ない事態だが、この緊急時だ。必ずしも核発射ボタンを持ち出せるとは限らない。


 その装置を使ってザルカ帝国内の全核兵器を自爆させる。


 それがガーランの作戦だった。


 国内各地の核ミサイルが全て自爆すれば、流石のザルカ帝国でも大きな損害を被るし、何より核抑止が失われればザルカ帝国に勝ち目はない。


 もちろん、そこに核発射ボタンがあればの話だが。


 ガーランは廊下を曲がる。


 正面に、一際立派な観音開きのドアがあった。


 ずっしりした木製のドアには繊細な彫刻が施されていて、真鍮のドアノブはライオンを模したデザインになっている。


 ドアノブに手をかけたが、施錠されているのか開かない。


 ガーランはドアに爆薬を取り付けて、離れた。


 数秒後、美しいドアはひしゃげて吹き飛ばされる。


 炎の爆ぜる中、ザルノフは拳銃を構えて委員長室へと突入した。


 彼の目が、驚愕に大きく見開かれる。


 ザルカ帝国首相の仕事部屋である委員長室は、それに見合う豪華な造りになっていた。


 紅い絨毯が敷かれ、壁には高名な画家による絵が飾られ、中央にはずっしりとしたオーク材の机が置かれている。


 その机の上には、2つのブリーフケースが載せられていた。


 ケースの中にはケーブルとスイッチで構成された複雑な機械が納められている。


 そして、そこにはガーランもよく知っている人物が座っていた。


「なぜここにお前が」


 次の瞬間、後頭部に強い衝撃を受けて、ガーランの意識は途絶えた。

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