第55話

 被弾し重傷を負ったガーランは、コンピューターに背中を預けて座り込み、自分の腹部に触れる。


 戦闘手袋に、べったりとした黒い血が付いた。重症ではあるが、まだ致命傷には至っていない。


 だが、周囲に自分を殺そうとしている人が大勢いる現在の状況で、動きに支障が出るほどの傷を負うことは、致命傷も同義だ。


「俺もここで終わりか」


 多くの仲間を失って、その血肉を糧にここまで来た。この死に方は妥当としか言いようがない。


 ガーランは自嘲するように、それでいて満足げに笑う。


「シャーナ」


 何となく、その名前が口から飛び出した。


 俺の血肉も、また誰かの糧となって特務機関は続く。


 ふと、コンピューターの隙間に隠れた一人の敵兵が、自分の頭に銃口を向けていることに気付いた。


 もう、引き金に指がかかっている。


 ガーランは拳銃を構えて、間一髪でその敵兵を射殺した。


 腹部を弾丸で抉られながらも、その射撃は正確だ。


「仕方ない。もう少し粘るか」


 ガーランは黒いコンピューターに体重をかけて何とか立ち上がると、ゆっくりとした足取りで歩き出した。


 無線のマイクを口元に寄せる


「カヤ。共産党委員長はどこにいる?オーバー」


 ガーランは聞いた。


 ビルの設計図は、ガーランたちが内部のコンピューターにウイルスを流し込んだことでカヤの元に送信されているはずだ。


「君のいる階の廊下を直進。突き当たりを右に曲がった一番奥に委員長室がある。でも、委員長はもう逃げている可能性が高い。オーバー」


 カヤは、冷静に指示を下す。


 だが、ガーランの頭には全てを終わらせられる道筋が、すでに完成していた。


 シャーナの復讐も、戦争も、何もかも。もう終わる。


「構わない。行ってみるよ。オーバー」


 ガーランは、静かにサーバールームを出た。

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