第52話

 額に傷のある男は、全速力でザルノフの待ち構える出入り口へと走る。


 それに気づいたザルノフは散弾銃を構えると、引き金を引いた。


 男は素早く体を捻って弾丸を避けると、拳銃を構えた。


 それと同時に、数名の敵兵がザルノフへと駆け寄りながら銃を構える。


 彼らは、同時に発砲した。


 ザルノフは地面に伏せて弾丸を躱すと、散弾を乱射する。


 敵兵の数名があっという間に射殺されたが、ザルノフとて、ここまで囲まれて無傷という訳にはいかない。


 弾丸が、ザルノフの片足に食い込む。


 だがザルノフは、微動だにせず交戦を続けた。


「ちっ」


 男は、流石にここを突破することは難しいと判断し、散弾の雨から逃れるためコンピューターの陰へと逃げ込む。


 そこでは、ガーランがその時を待ち構えていた。


 素早くナイフを振りかざしたガーランは、それを一直線に振り下ろす。


 寸前で気付いた男は、素早く顔を捻って避けると、ガーランの腹部に拳銃を突きつけた。


「ガーラン!」


 シャーナが叫んだが、もう間に合わない。


 発砲音。


 腹部を穿たれたガーランは、数歩よろめいて倒れた。


 シャーナは、額に傷のある男に、怒りに燃える瞳と銃口を向ける。


「おっと」


 男は愉快そうに笑いながら、コンピューターの影に消えた。


 ザルノフは散弾銃の引き金を引いたが一歩遅く、鉛の散弾はコンピューターと床を穿つだけだった。


「大丈夫か!」


 シャーナは安全の確認もそこそこに、ガーランの側に膝をつく。


「問題ない。交戦を続けてくれ」


 ガーランは、苦し気に喘ぎながらも頼んだ。


「待ってくれ。せめて安全な場所に」


「このビルの制圧が最優先だ。頼む」


 手榴弾の爆音が響いた。コンピューターの電気系統が火花を散らす音が、空気を切り裂く。


「こちらカヤ。たった今ライツからの連絡が途絶えた」


 無線から、不穏な連絡が流れる。


「俺は大丈夫だ。自分の身は自分で守れる。だから行け」


 ガーランは、拳銃を掲げてそう言った。


 シャーナは後ろ髪を引かれる思いを感じつつも、敵の掃討へと走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る