第47話

 首都近郊のある港町は、すでに首都よりも酷い状況に陥っていた。


 APMC社の戦車が大通りを闊歩する中、多数の歩兵達が苛烈な銃撃戦を繰り広げている。


 膨大なテロリストとAPMC社の部隊に対し、ザルカ帝国軍の兵士達も、短機関銃で武装した警察も満足に反撃すらできていない。


 銃器を持った政治団体の物量に任せた突撃に合わせて、APMC社の戦闘員が繰り出す精密な射撃と、戦車砲の榴弾が国防軍の兵士達を襲う。


 援軍は来ない。ネットワークを蹂躙されたザルカ帝国軍総司令部から、瞬時に部隊を動かす能力はすでに失われている。


 有効な手すら打てないまま、ザルカ帝国各地で火の手が上がっていた。


 だが、もっとも悲惨な状況にあるのは、アトラ連邦領内に突出したザルカ帝国軍の最前線部隊だ。


 補給線や武器庫が破壊されたところに、アトラ連邦軍機甲部隊からの総攻撃を受けた彼らは、後退することも前進することもできず、大混乱に陥っていた。


 砲弾がザルカ帝国軍陣地へと降り注ぎ、土煙の舞い上がる中を歩兵たちが逃げ惑っている。


 反撃しようとしたザルカ帝国戦車に対し、性能で劣るアトラ連邦軍の軽戦車が体当たりした。金属が擦れあう嫌な音が響く。


 ほぼゼロ距離からの射撃。堅牢さで定評のあるザルカ帝国戦車すら、それには耐えきれなかった。


 砲弾を逃れた現場指揮官が援軍を要請しても、サイバー攻撃で軍事ネットワークが機能を停止している上に、主要な輸送ルートはほとんど破壊されている。


 部隊を動かすことはおろか、命令すら満足に出せない。


 帝国兵士に扮した特務機関の戦闘員の暗躍もあり、ザルカ帝国軍は戦争が始まってから、初めて劣勢に追い込まれていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る