第45話

 険しいアトラ山脈に築かれた道路の下で、3名の兵士が作業を行なっていた。


 ザルカ帝国陸軍迷彩の上から、緑の防寒着を羽織っている。


 空は曇っており、風に粉雪が舞っていた。


 彼らは山肌に工兵隊が突貫工事で築き上げた道路の鉄骨に、爆薬を設置していた。


 鉄骨で支えられる道は戦車が通過できるほどの強度があるものの、長期的な運用を想定していないため、そこまで頑丈ではない。


 ある程度の爆薬を効率的に発破すれば、簡単に破壊できる。


 彼らは鉄骨の根元に爆薬を取り付け、安全な場所まで離れると、発破用のスイッチを握りしめる。


 それから数十分して、前線へと物資を運ぶトラックの車列が近づいてきた。


 軽戦車を荷台に積み込んだ大型トラックに、濃い緑の帆布を貼った中型トラックが続く。


 その先頭車両が爆薬の直上を通り過ぎた次の瞬間、兵士はスイッチを押して、即座に地面に伏せた。


 山に爆音が響き渡り、爆圧で鉄骨がへし折れる嫌な音がこだます。


 激しい爆発とトラックの重量に、道は大きく歪む。慌てて駆け抜けようとしたトラックのタイヤが空回りして、硝煙に焼けたゴムの香りが混じった。


 直後に、道路はトラックもろとも崩れた。


 地面に叩きつけられた大型トラックめがけて、コンクリート片や鉄骨が降り注ぐ。


 荷台に積み込まれていた戦車が吹き飛んで、斜面の木々を薙ぎ払いながら激しく滑り落ちていく。


 火薬を運搬していたトラックが、地面に追突した衝撃で辺りに炎を撒き散らした。


 爆発テロの実行犯となった兵士たちはそれを見届けると、離脱を開始した。





 国防軍の輸送道路で発生した爆破テロ。


 50名を超える犠牲者を出したそれも、まだ序曲に過ぎない。

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