第29話
数日後の深夜。
訓練を終えたシャーナは、基地の女子寮で自由時間を過ごしていた。
最大16人を収容する部屋は細長く、左右の壁に机と二段ベッドが交互に並んでいる。
暖かみを感じられる内装になっていて、リラックスできる空間だ。
基地から出る機会が少ない兵員がストレスを溜めないよう、特務機関基地の居住区はそれなりに趣向が凝らされている。
今まではシャーナ、サリアの2人で使っていたが、現在は新しくカヤが加わった。
工作員だが戦闘能力も高く、ザルカ帝国の風土に精通するカヤは、傷の完治を待ってシャーナの分隊に入ることになったそうだ。
非常に仕事熱心で、自由時間だというのに、机に設置したノートパソコンに向かって作業をしている。
「何してるんです?」
シャーナは少し気になって聞いてみた。
「ん?ハッキングだよ」
シャーナの問いに、カヤはサラッと答えた。シャーナの表情が固まる。
「ザルカ帝国に押さえられた顔写真の削除?大変だね」
サリアも本から目線を上げることすらなく、まるで気に留めるべきことのない日常会話のように流した。
だがサイバー戦に関する知識があまりないシャーナは、状況が飲み込めない。
「大丈夫なのか?ここが特定されたりはしないのか?」
「問題ない。torっていうインターネット通信を匿名化するプログラムを使用しているから、逆探知は限りなく不可能に近いよ」
シャーナの知識では言っていることの半分も分からなかったが、とりあえず大丈夫だと信じることにした。
「カヤのプログラミング技術はすごい」
サリアはそう称賛した。
シャーナは、カヤのパソコン画面を覗く。
黒い背景に、白い文字が濁流のように流れていた。
そこで何が起きているのかは全く分からなかったが、カヤにとってそれがさして難しくないことは、その表情を見れば分かる。
「ねえ、仕事終わったら飲まない?」
カヤが、そう提案した。
「いいな」
「じゃあ、準備するよ」
シャーナが賛同して、サリアが冷蔵庫からビールを取り出す。
宴会の準備が終わるころには、カヤは全ての作業を終えてパソコンを閉じた。
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