第七楽章 そして戦争へ落ちていく
第28話
仮装巡洋艦は、一週間ほどかけてアトラ連邦の民間港に辿り着いた。
カヤはまだ松葉杖をついていたが骨折も治りかけていて、シャーナの腕も完治し、もう負傷前と同じように使える。
「久々の陸地だな」
船から降りたシャーナは、心地良さそうに目を細めた。
港は賑わっており、沿岸に並べられたクレーンが忙しく動いて、接舷した商船から荷物を下ろしている。
「迎えのバスが来ています。早く行きましょう」
ライツがスマートフォンを取り出して、そう言った。
港を出て、路駐しているスモークガラスの小型バスに乗り込む。
バスの運転手は実在するバス会社の制服を着用していたが、制帽を目深にかぶっていて顔は見えない。
バスの中には、灰色の作業服を着た人がまばらに座っており、一見すると単なる通勤バスだ。
彼らが服の下に拳銃を隠していることに気付けないほど、シャーナは鈍くなかった。そして、全員が帽子を目深にかぶっており顔は見えない。
おそらくはザルカ帝国の諜報機関による襲撃を警戒したのだろう。
シャーナたちは、そのままバスの座席に座る。
ドアが音を立てて閉まり、バスが出発した。
シャーナは窓に頭を寄せて、外の様子を眺める。
良くも悪くも普通の町だ。
そんな何でもない風景に、ふと崩れたビルが映った。
微かな硝煙の匂い。崩れたビルの周りには黄色いテープが張られていて、まだそこが安全ではなく、復旧の見通しも経っていないことを示している。
道路に崩れた瓦礫は、通行に支障が無い程度には撤去されたようだが、まだコンクリート片が転がっていた。
ミサイル攻撃や爆撃の爪痕は、目立ちにくくも至る所に残る。
まだ戦線が膠着する前は、通常弾頭の弾道ミサイルが飛び交っていたし、戦略爆撃機による都市爆撃も盛んだった。
この街も、その被害を受けたのだろう。
侵略者たるザルカ帝国にとっては、街だろうが軍事基地だろうが同じだ。
そこに人がいる限り、彼らは銃を向けてくる。
ならば、特務機関がザルカ帝国を内側から食い荒らそうが、構わないか。
爆撃機や弾道ミサイルを振りかざす敵よりも、静かに殺すこちらの方が、殺す数は少ないのだから。
バスは山道へと入っていく。
森の木々が、バスの姿を覆い隠した。
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