交錯
航空自衛隊小松基地所属 F-15J戦闘機
コールサイン・“ドレイク2-1”
御前崎沖35
/日本国
平成33年10月21日 午後0時30分(日本標準時)
「ドレイク・リードよりアストラ。
2機編隊“ドレイク”隊の
「アストラよりドレイク・リード、
「ドレイク2-1、
ことの始まりは、房総半島沖の防空識別圏内に、数機の
その後、当該機は領空にじわりじわりと近づきながら外縁をなぞるように南西方向へと飛行をつづけ、ケイロン隊が監視および追尾を継続していた。
「ケイロン、
「ケイロン1-1
「ドレイク2-1、
480ノット――時速890キロでの追っかけっこ。相手は、世界最速のプロペラ機と名高いTu-95爆撃機と、その派生型のTu-142対潜哨戒機。ドレイク隊のF-15Jに比べ、ケイロン隊のF-2Aは小型で燃料積載量も少なく、百里から静岡までの高速飛行で消耗している。なるべく早く加勢に入りたい。
「ケイロン1-1よりドレイク」
「ドレイク・リード。ケイロン、
「現在、2回の無線通告と機体信号、および写真撮影を実施。無線に応答なし」
「目標機は
「見えない」
「了解。ケイロン、
「指示了承。ケイロン1-2、対潜哨戒機のケツについて煽れ。1-1は右側に遷移する」
「1-2、指示了承。後方上につく」
ケイロン隊がなめらかに機体を滑らせ、対潜哨戒機の右横と後方上につく。領空侵犯措置で定められた手順通りだ。
「ドレイク2-1から2-2、俺らも仕事だ」
「ドレイク2-2、指示了承。ケツとります」
後輩である2-2からの麗しき謙譲の精神。ありがたく爆撃機の右横におさまることにする。
「ドレイク2-1よりアストラ。機体信号実施」
「アストラ了解」
「おらよっ、と」
機体をロールさせ、翼をパタパタと左右交互に振る。国際慣習における“我の指示に従え”の機体信号。
「さあて、どんな具合だ」
「こちらアストラ。目標の行動に変化はあるか」
「ドレイク2-2よりアストラ、目標の行動に変化は――いや、ボギー2が右旋回を開始」
「ケイロン1-2よりアストラ、ボギー1も右旋回。
巻き込まれないようにこちらも右旋回して機体を安定させ、目標機との位置を保つ。――西南西? ……おいおいおい!
「アストラより各機、目標は領空方向へ変針。――領空まで10マイル。通告実施せよ」
ケツとられて領空側に旋回するとはいい度胸だ。無線を
「
我ながら酷い発音だが、緊急周波数でがなり立てられて何も思わない飛行機乗りはいない。同内容の通告を、今度は連邦の言語で行う。
「3度目の通告実施。ケイロン1-1よりアストラ、機体信号を行う」
「ドレイク2-1、機体信号を行う」
2機で翼を振る。……どうだ?
直後、後方上から見ていたドレイク2-2から管制機へと報告が飛ぶ。
「ドレイク2-2よりアストラ! 目標
「アストラより各機。
対潜哨戒機と爆撃機が、高度を下げて速度を上げる。500ノット――時速926キロといえば
「2-2、
「指示了承」
「
アストラからの通告。
「前方150nm、『スティール・アックス2021』演習が実施中。および、海上よりロケット打ち上げが
まさか連中、合衆国・海自の連合艦隊ド真ん中に突っ込むつもりか。
「
「ケイロン、指示了承」「ドレイク、指示了承」
対潜哨戒機や爆撃機が積めるのは爆弾だけではない。機体下部の爆弾倉が開いて、長距離からの対艦ミサイル攻撃をかます可能性だってある。――無線通告と機体信号に従わない場合、次に取るべきオプションは――。
「ケイロン、ドレイク、傾注せよ!」
足に張り付けたチェックリストに目を通していたところに、アストラからの通信。
「ボギー1、ボギー2、日本領空に侵入。領空侵犯機と判断された。警告開始!」
「ドレイク・リードよりケイロン、無線は任せた! 最大速度はこっちが上だ!」
速度を上げ、こちらの機首を目標機の機首よりも先に出す。
「ケイロン1-2、指示了承。警告開始」
ケイロン1-1も意図を察し、同じように機首を前に出す。そのタイミングで、ケイロン1-2が緊急周波数で警告を発した。
「
機首を前方に出した2機は、無線警告と同時に翼を左右に振る。ここまでやって「気づかなかった」とは言わせない。
「2-2、やっこさん動いたか」
「
「信号射撃を上申するか」
「指令了承。ドレイク2-2よりアストラ――」
ドレイク2-2の報告を遮り、アストラからの悲鳴にも似た警告が無線に響いた。
「
――後方から超音速機が接近?
「ドレイク・リードよりアストラ、機種は?
「反応が弱いが途切れてはいない。爆撃機のサイズではないが、ステルスでもない。敵味方識別装置応答なし、合衆国空母の
となると、可能性はひとつ。
「……連邦軍の戦闘機か」
爆撃機の援護に来るとは殊勝な連中だ。
「
空対空戦闘においては東側トップクラスの戦闘能力をもつSu-27“フランカー”シリーズの最新ロット、Su-35S。元が対艦攻撃機のF-2Aが相手するには分が悪い。
「ドレイク・リードよりケイロン。フランカーはドレイクが引き受ける。ケイロンにはベアを任せた」
「ケイロン・リード了解。くそっ、厄日かよ」
――だが、厄介事は続くものだ。
「
おまけに、合衆国海軍のレーダー機からの呼び出しときた。考えることが多すぎるが、急いで応答する。
「
「
戦闘空中哨戒。空母を守るため、交戦も辞さない構えで実弾を積んでいることを意味する。
――だとしても、領空内で好き勝手に交戦行動だと?
「クエーサー、
クエーサーは一瞬言いよどんだのち、言葉を返す。
「
上等だ、何度でも言ってやる。
「
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