第38話 竜馬と水晶玉

「竜馬さん、未来に行った後、元の時代に戻ったんですよね?どのくらいで戻れたの?」

 (脱藩だっぱんする前ってことは、若い時に未来に行ったのよね?戻って来てから土佐藩とさはんを飛び出したのなら、そんなに長く未来にいなかったのかな)


「あん時は、十日くらいじゃったかなぁ?親切な男が、元の世界に戻しちゃるっちゅうて、あっという間に戻れた」


「親切なその人は、戻り方知ってるんだ・・・・・?あれ?じゃあ、なんでまた過去に来たの?」

「それがわかっちゅうなら、ここにおらんじゃろ?」


「う~~~ん、たしかに・・」考えても無駄むだなんだが、考えてみる。


「決めた!わしゃあ、元の世界に戻るまでおまんらと一緒にいるぜよ」

「ええええ?なんで?」


「わしを竜馬と知っちょたからに決まっちょるき」

さすが坂本竜馬、図々ずうずうしさは日本一だ。


~~肥後貴次ひごたかつぐの心の中~~

 この人たちは一体、何を言っているのか?未来がどうのとか、過去がどうとか。

そもそも、この私のことをかつらと呼ぶあやしげなやつは何者なんだ?万姫様はご存知ぞんじのようだが・・・姫様の家臣たちもおどろかないし。


「そうと決まれば、めしにするき。姫さん、しゃも鍋屋はあるかな?」

奥久慈おくくじしゃもは水戸藩です。薩摩藩なら黒豚でしょ」



 竜馬さん・・黒豚をすき焼き鍋にしちゃった・・・

「お・・おいしいーーーーーーーーーーーーーー」

「あったりまえじゃき」


 肉厚の黒豚さんと、とろとろのネギ、プリップリの白滝しらたきしたと肉汁を吸い込んで「ドヤァ」って口の中ではじける。

春菊しゅんぎくのほろ苦さが、全体の味のまとめ役をになっていて生卵でまろやかに沈み込む。


「薩摩に来て良かったぁ」

「そりゃあ、良かったなあ。うまいもん食って寝る、人が最も幸福を感じる瞬間だぜよ。西郷さいごうさんも良く食って、良く寝る人だった・・・・・・・おりょう~~~~~~わしゃあ、いつ帰れるんじゃぁ」


あきらめの悪い人だねぇ。


「そのうち帰れるんじゃないですかぁ?」

「姫さま、ひでぇ・・・いい加減」

「しいぃ・・聞こえますよ」


新婚旅行ハネムーンっちゅう、夫婦めおとの初めての旅行途中だったき。霧島きりしまの温泉が傷(池田屋事件で負った傷)に良く効くちゅうて、神宮じんぐう参拝さんぱいの後に・・・・そうじゃ!神宮で変な坊主ぼうずに会ったぜよ」


「よくしゃべりますねぇ・・竜馬さんて人」

「桂さん、じゃなかった。貴次さん、坂本竜馬って人は薩摩と長州ちょうしゅうの仲を取りもった人なんです」

「へえ、あの仲が悪い長州と・・・ねぇ」


「その坊主が、この丸い石の玉をくれたぜよ」

ごそごそと着ていたれたままの着物から、きれいな透明の石を出した。

「坊主の話では、これは針水晶ルチルちゅうて珍しい石じゃと」


竜馬が手に持つキラキラ光る丸い水晶玉すいしょうだま

「竜馬の玉(ドラゴンボール)・・・・・まさか、七つ集めると願いがかなうとか言ってないよね?」


「ななつ??・・・・そん・・・いうちょったな」


ガシャン とんすいを落としてしまった。

「!!竜馬さん!その人、未来から来た人だ!・・・何か手がかりが見つかるかも」


霧島神宮きりしまじんぐうなら、山を登る準備じゅんびをいたしましょう」

貴次さんは、素早く部屋を出ていった。なんて仕事が早い人なんだ。


 落とした肉の破片はへんひろいながら、竜馬の手の中にある針水晶ルチルを見た。








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