第35話 指宿(いぶすき)

「サツマイモはね、収穫したてはそんなに甘くないの。ひと月。涼しい場所で寝かせてから、一時間かけてゆっくり囲炉裏の灰の中で焼くと、ほっくり甘~い焼き芋が出来るんだよ。」


私がまだ小さい頃、祖母が教えてくれた美味しい焼き芋の作り方。


 江戸の屋敷に戻る頃には糖度とうどが増えて甘くなってるかも♪

「市十郎、芋は任せるね。江戸の小石川の屋敷におくって。兄上に文も書いておくから」市十郎に荷役にえきを頼み、薩摩観光に行こう。


「万姫様は、まだ帰らないのですか?」


「??まだ帰らないわよ。砂蒸し風呂に黒豚、桜島大根!たかつぐさんに案内してもらうから」

「わたくしで良ければ、どこでもご案内いたします万姫さま」

たかつぐさんも、了承りょうしょう済みだ。


「芋と俺だけ帰れって?」

市十郎の肩が、なで肩になるほど落胆らくたんしている。


「ぷっ・・残念なやーつ」

伯が市十郎のなで肩をツンツンつつく

「くくく」

紅の忍び笑い


覚兵衛はポンポンと、市十郎の背中を無言でうなずきながらたたく。

「まずは指宿いぶすき!砂蒸し温泉に行こう」



 浜辺に頭が四つ並んでいる


「ふう・・・ホントに首までまるんだねぇ・・・」


「姫さま、苦しくありませんか?紅がすぐに出して差し上げますから、苦しいときはおっしゃってくださいね」


「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」


「伯がこわれた・・・万姫様、このまま放置されませんよね?私は若くないので、長湯ながゆはチョット・・・・」


肥後屋の当主たかつぐさんは、後ろのほうで四つの頭を眺めていた。

「オヤジさん、初めてのお客さんだからそろそろ出してあげて」


 10分くらい埋まっていただろうか、着ていた浴衣よくいが汗でぐっしょりしている。


水風呂は無いから、そのまま海に入る。サウナの入り方だ。

「はぁ・・ととのう~」


 砂浜を堀るだけなのに湯気がたちこめる、不思議な光景だ。火山活動の恩恵だね。

簡易的な休憩所でお茶を入れてもらって飲む。


「万姫様、大根の漬け物はいかがですか?」たかつぐさんが行商のおばちゃんから買ってきたようだ。

「うん!いただきます」


差し出された漬け物に手を伸ばしたとき、パシッと紅に手首をつかまれた。

「いけません姫さま、毒味をしてからですよ」


「え~~~~今さらぁ?」

「そうですね、大根の季節は冬です。今あるものは夏越しのものですから」

そう言って、たかつぐが先に口に入れたから四人でジーッと様子を見る。


「大丈夫そうですが、念のために私が毒味をしましょう」

覚兵衛は小さな欠片を選んで箸でつまみ、食べた。


「○△×□!!!!!」

もごもご何かを言おうとするが、顔のパーツが中央に寄る。


「何?どした?」

「すっtttぱ」覚兵衛の顔が戻った。


「行商人の話では、大根の酢漬けだそうです。薩摩藩には黒酢を作る地がここより北にありますので、何でも酢漬けにして売っているそうです」


「大根のなますかぁ。切り干し大根にすれば何年でも保存できるし、酢漬けなら毒消しになるね」


 食中毒の心配が無くなったから、なますを頬張る。

黒酢の香りとコク、ほのかな甘みと塩分の調和のとれた味が唾液腺だえきせんを刺激する。


汗をかいた後に、さっぱりとしたお茶請けが合う。

「黒酢があるなら、酢豚が食べたいなぁ・・・あ!黒豚、たかつぐさん黒豚は何処で育ててますか?」


「黒豚なら、島津城しまづのしろに行ってみましょうか」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る