第34話 薩摩

志布志しぶし

「さつま?九州だーーーーーーーーー!鹿児島だーーーーーーーーー!」

船が接岸せつがんする前に甲板に飛び出す。


「ひめさま!海に落ちます!!」

たとえ落ちたとしても、着水する前に優秀な女従者しのびが引き上げてくれると確信している。


「早く!サツマイモに早く会わせてーーーーーーー」

「あはははh食い意地が張ってて姫さまらしいや」

伯の馬鹿にした笑いがムカつく。


「芋は逃げませんよ、屋敷の者が迎えに来ているはずなので落ち着きましょう」

同じ船に乗ってきた肥後屋の当主が、羽織のたもとに手を入れて何やらゴソゴソまさぐり、小さな竹筒を取り出しキセルの火種をポンと竹筒に入れる。すると・・


ヒューーーーーーーパン

空に向かって煙が上がり弾けた。


運動会の朝、開催の合図で打ちあがる花火の小さいやつだ。

「これで船の場所がわかるはずです、降りる準備をしましょう」


 船を降りると、肥後屋の言うとおり屋敷の使用人たちが迎えに来てくれていた。

「旦那様おけらし、もてなしの準備は出来ておりもす」


「そうか。では、たづ吉に明日行くと伝えてくれ」

「わかいもした」


 港から少し高台に登った場所に屋敷があった。

「ようこそおいでくださいました、家内かないはつと申します。何もない田舎ところですが自慢の温泉は何時でもお入りいただけますので、ゆっくりとご滞在ください」

「ありがとうございます、万姫といいます。数日お世話になります」


 女主人とはこんな人を言うのだろう。

当主不在でも使用人たちにテキパキと指示を出し、来客にも対応していく。


「たかつぐさん!?帰ってくるなり今度は何を作ってますの?」

『自慢の温泉』を堪能たんのうさせてもらい部屋に戻る途中、客間の囲炉裏いろりで何かを作り始めた肥後屋の当主が、お初さんと話してる声が聞こえた。


たかつぐ?


 客間をのぞいてみると、肥後屋の当主が囲炉裏でお好み焼きを焼いていた。

「これはタコ焼きと言って、万姫様が教えてくれたんだ。丸くへこませた鉄板はないけどね、こうやって切り分ければ・・・・ほら!四角いタコ焼きだ」


得意げに微笑む肥後屋の当主さん、たかつぐっていう名前だったのね・・・


 良く気が利く、料理上手なご主人。うん!わたしも未来の旦那様は肥後屋さんみたいな人がいいな。


 翌朝、たかつぐさんに連れられて『たづ吉』と言う百姓の家に向かう。

当主自ら琉球りゅうきゅうより取り寄せた甘藷かんしょを試験的に栽培さいばいさせているというのだ。


「今年の芋の出来はどうだ?たづ吉」

「ことしゃ あばてんね」


「それなら、少しくらい分けてあげられるね。万姫さま、どのくらい持って帰りますか?」

「あの・・・・たづ吉さんは何て?なまりがすごくて・・」


水戸藩の茨城訛りもすごいけど薩摩訛りは、もっと解らないよ。

「今年は、どっさり出来たって」


たかつぐさんに通訳してもらおう。

「江戸屋敷のみんなが食べられるくらい、ください!」


「よかんど」

「いいよ、って言ってる」


「やったー!堀り起こすぞーーーーー」

畑に入り芋のつるを搔き分けて、引っこ抜く。


「てげてげにね・・・・」たかつぐさんの顔が引きつり笑いになった。


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