第25話 万姫の世直し旅

 水戸藩主が、そこまで重要な役割(相談役)をしているとは思わなかった。

経済を回さなければ領民が苦しむ。だが税金は大名のふところに・・・・


「よし!全国まわろう。父上もドラマの中では全国世直しの旅に行ったんだから」

「万姫さま、大殿は鎌倉までしか・・・」


「知ってる!だから私は本気で全国まわるよ」

なぜだろう、この身体の奥底から湧き上がるような使命感にあらがうことが出来ない。


「姫さま、紅は何処までもお供しますわ!」

紅の目が推しを見るような目になっている。


「俺は何でもいいぜ、うまい飯と女がいれば!!」

伯~~なぜそこで女が出てくるんだ?腰を振るな!腰を!


「うまい飯は分かるけど・・・覚兵衛は?」

「数日待っていただければ、怪しい動きの確信に迫りますのでその後ならお供いたしましょう」


「そうだった、私も捜査を頼まれてたんだっけ。忘れてたよ」

「万姫さまは、いるだけで癒しになります。危ない役目は私どもで請け負いますので今まで通り、江戸見物を続けてください」


「遊んでるだけなんて・・・」

「いいなぁ・・日の本を回るのか?私も行ってみたいなぁ・・・・この屋敷でお留守番は退屈で~~」

綱條がねてしまった。


「兄上は、犬公方さまを説得してください!このバカげた政策まつりごとをやめるように」

「ああ・・いま兄上と申したのか?私を兄と呼んでくれるのか?おほほほ照れるなぁ妹よ!」


またハグしようと迫ってくる綱條あにを、素早くかわして足払いした。

ビィタン

顔から畳に倒れた。お殿様は反射神経が無さすぎる。


 隅田の下屋敷に帰る私に土産品を持たせようと、グイグイ押し付けてくる綱條を無下むげにするわけにもいかず、南蛮品の小さな望遠鏡をひとつだけもらうことにした。


 屋敷への帰り道、浅草寺の参道近くで物売りの人だかりができている。

貰った望遠鏡で何に人が集まっているのか見てみると、ムシロに座り怪しげな衣装を着たお坊さんがジャラジャラと大きな数珠じゅずかかげて、何か叫んでいた。


拙僧せっそうにはのちの世がえる!皆の衆!備えるのだ。光を閉ざし闇の中を彷徨さまようことになるぞ!水を!食い物を!やまいおかされても生き延びるために!」


「宗教の勧誘かな?お寺の前だし、檀家だんかさんを集めてるのかなぁ・・」

望遠鏡をおろし、遠巻きに眺める。


「僧侶だけでなく、町人たちにも魚や鳥肉、卵を食べてはならぬと御触書おふれがきが出てますから、不満を持つ者がいてもおかしくありません」

覚兵衛の言うことも納得できる、肉は大事だ。(焼肉食べたいよおおおおおおお)


「そういえば!!江戸に来てからまだお肉食べてない!やっぱり犬公方を説得しないと・・江戸の人たちが餓死しちゃうよ」

「姫さま、肉はありませんが団子でも食べていきますか?」

紅になだめられ、仲見世通りの団子屋に行くことにした。

 

 浅草と言えば草団子である。

あんこをたっぷり乗せた緑色のお団子を想像してたのに・・・・

「お団子にきな粉だけ?あんこは?」


「砂糖は希少ですから、江戸の町ではほとんど見かけません」

覚兵衛が注文した、クルミだれをかけた白い団子はほんのりと甘みを感じるそうだ。


「姫さま、京の都ならみたらし団子とか言う甘いお団子が食べられるそうですよ」

「京都?みたらし団子って京都発祥なの?水戸ではあやめ団子っていうけど」


「大坂に近いため、砂糖などの仕入れがしやすいのですよ」

「大阪で砂糖の買い占めしたい!」

バン!ばふっ 


縁台をたたいたら、きな粉が舞い上がってお茶がこぼれた。

「なんだぁ?いきなり茶をぶっかけやがって!着物が汚れたじゃねえか。どうしてくれるんだぁ?」


偶然前を通りかかった上級武士の、袴のすそにお茶が跳ねたようだ。

「あ・・ごめんなさい。わざとじゃないの」

「ああああん?わざとじゃなければ茶ぁぶっかけねえよなあ?」

ムカっ 田舎のヤンキーか?


「謝ったじゃない!お茶だってちょこっと跳ねただけじゃん」

「んだとぉ?ごㇽらぁ ごじゃっぺいってっとぶぢまわすぞおらぁ」


「・・・・・・」覚兵衛

「・・・・・・」紅

「・・・・・・」伯


「この人・・水戸藩だね?」

「そのようですね、万姫さまにお任せします」

「しかたないなぁ」

巾着袋から印籠を出す。


「おめえら無視すんじゃねぇぞ!」

無視されてたのわかったんだ。とりあえず印籠が見えるように手前に出す。


「ガタガタ騒ぐんじゃねぇよ!この紋所が目に入らねえのか、クソぼけが!」

紅ちゃん?キャラ変わってるよ?


「おまえ、誰に向かっていちゃもんつけてんだぁ?」

伯はオラオラしながら武士に近づく。


「着物汚しちゃってごめんなさいね。私は、水戸藩主綱條の妹で黄門様の娘。新しい着物を下賜かしするから、それで許して?」

水戸藩の武士なら立場的にNОとは言えないだろうね。


 身分がハッキリすると、武士の顔色がどんどん青ざめていく。わなわなと震えだしたので、ちょっと可哀想になってきた。


「姫とはいえ、顔を知らなかっただけのこと。でも、見境みさかいなく横暴な態度は良くないね」

武士のプライドを傷つけないようにお灸をすえる。


「万姫さまの寛大なお心に感謝されよ」 

「もううううううしわけありませんでしたああああああ」

覚兵衛の言葉に救われたのか、土下座して地面にひたいをこすりつけて詫びを入れてきた。

 

今回は大事な藩の家臣でもあるので許しましょう

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