第17話 懐刀

 かごに乗せられ西山御殿にしやまごてんまで来た。光圀公は普段は隠居生活いんきょせいかつなので、西山御殿に居る。


「うおぇ・・・・カゴにった」

「大丈夫ですか?万姫さま」

「次からは私も馬に乗る!後で乗り方教えてください」


「じゃじゃうま」

 ぼそりと伯がつぶや

「じゃじゃ馬で結構!」

「では、大殿がお待ちです。参りましょう」


 覚兵衛と伯に両脇りょうわきを支えてもらいながら、屋敷に入った。

控えの間で道場着どうじょうぎ綺麗きれいな花柄の着物に着替えさせられ、髪を整えて(ショートカットだからかんざし刺さらないわ)光圀公の待つ部屋に連れていかれた。


「大殿、万姫様をお連れしました」

「ふむ、入りなさい」

覚兵衛がふすまを開けて、中に入るように目で伝える。

「・・しつれいします」

たたみのふちを踏まないように、しずしずと部屋に入った。


 部屋に入ると、兄のひかるが居る。

「あれ?兄貴も呼ばれたの?」

「まあな」

ひかるの隣に座った。


「ふむふむ。2人がすろうと、わたしは嬉しいぞ。いつまでも眺めていたい衝動しょうどうられる」

光圀公は顎髭あごひげを撫でながら満足そうに微笑ほほえむ。


「ごほん!・・大殿、話を」

覚兵衛が本題にすり替えようと、咳払せきばらいをした。

「まあ、そうあわてるな」

「?」


 何か大事な話がある事は理解できた。

「少し前に、大工町だいくまち付近で辻斬つじぎりの被害があったのは知っているな?」

「はい。母と2人で八幡様はちまんさまにおまいりしようとした日です」

やはり光圀公の耳にも情報は入っていたらしい。


「被害は深夜に起きたようだが、なにぶん目撃者もくげきしゃがいなくてな。このまま野放のばなしにすると被害が増えるだろう?」(犯人早く捕まえてくれないと眠れないじゃん)


「そうですね、男でも丸腰まるごしだと確実にヤられますね」

「兄貴~あっさり言わないでぇ」

「そこでだ!おとりを仕掛けようと思って、先にひかるに話していたんだ」

「おとり捜査そうさ?」


「そういうことだ。ひかるに変装させて犯人に襲わせようって計画だ」

コスプレが得意なひかるにピッタリの役割だが・・・

「兄貴は役に立ちますか?剣術は皆無かいむだし」


「そこは、ほれ、適任者てきにんしゃを配置するんで心配しなくても大丈夫だ」

光圀公が扇子せんすをパチンと鳴らす


「わたくしが見張ります」

すぐ頭の後ろで声がした。

「ひゅおえ?」

全く気配を感じなかった。


振り返ると、だけ出した黒装束くろしょうぞくのいわゆる忍者が真後まうしろにいた。

「にん・・忍者だァーーーー消えたーーーー?」

黒装束は一瞬で姿を消した。


「うるさい!」

ゴン

兄貴から拳骨げんこつを落とされた。頭をさすりながら、おとり捜査なら私は必要ないのではないか?と思い光圀公に聞いてみる。


「私は何故、呼ばれたのですか?」

「まりには他の仕事をしてもらうよ」

 光圀公の言葉を説明するかのように、覚兵衛が私の前に刀を置いた。

懐刀ふところがたなという物だ。

「かたな?」(なんか物騒ぶっそうな物が出てきたな)


「万姫さま、こちらをご覧ください」刀のさやの部分を見せられた。

「これは、徳川のもんでございます。この紋入りの刀を持つことが出来るのは、徳川の者だけでございます」

鞘の部分に金色のあおい御紋ごもん装飾そうしょくされてる。


「うん、わかるよ。大事なものだよね」

「まりにあげるよ」光圀公がこれを私にくれる?


「とんでもない!大殿様、私にはもらう権利がありません」

きっぱりと断った。だが


「まりは私の娘だよ、徳川の人間だ。身分証みたいなものだから難しく考えなくていいんだよ」

「でも・・・」

「それから、そろそろ私のことは父上と呼んでくれないかな?」

優しそうな笑顔の中におどししにも近い圧を感じる。

「父上・・・ですか?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る