第15話 万姫の家臣

 守役もりやくすなわち、武術や勉強の教育係のことだ。

本来なら大名の子供が生まれた時に任命されるようだが、万姫には急ごしらえで用意された。


我が家まで送ってくれるようだ。

「お兄さんは何する人なの?」

「お兄さんって・・・家臣に対して言う言葉じゃねえな。」

「家臣?お兄さん、私の家来なの?」

「けらいじゃねえ!かしん!間違えるな!」

「・・・違いなんてよくわかんないよ・・・」


 教育係兼務、護衛がおもの仕事のようだ。

いちおう一国いっこくのお姫様なのだから、命は簡単に狙われるだろう。


「ただいまー」

それにしても何処まで付いてくるつもりなのかな?玄関の中まで入ってきた。

「あのう、もう大丈夫ですよ?家の中だし・・」

「そうだな、家の中だな。それがどうした?」腕を組んで首をかしげてる。


「いえいえ、もう帰っても大丈夫ですよ。おつかれさまでした」

正面を向いて丁寧にお辞儀をした。

「何を言っている?俺は守役だ、寝食ねじきを共にするもんだ」


「は?冗談でしょ?知らない人といきなり生活なんてしないよ」

「師匠との約束だからな、目を離すなって」

「いやいや、約束だろうと何だろうと家族じゃない若い男の人と一緒になんて・・・・」


チャッ 刀に手を添えた。

タイミング悪く兄貴が自室から出てきた。

貴様きさま何ヤツ!そこになおれ」


「待って!その人、兄だから」

慌てて刀のつかおさえる

「なにっ?兄上か、すまぬ危うく斬り捨てるところだった」


状況が把握できないひかるは、左の眉毛を上げて

「?・・なんだ??俺、斬られるようなことした?」


 この家臣第一号さん名を『はく』と言い、孤児であったところを覚兵衛に拾われて、烏帽子名えぼしなを光圀公につけてもらったという。


 伯はどうしても帰らないと言い張り、帰れば覚兵衛に『役立たず』と折檻せっかんされるのだから、庭先でもいいから置いてくれと土下座してきた。


困ったね、放置プレイは専門外なので車庫に寝泊まりしてもらおう。


 

 伯が守役に付いてから数日がった。教育係と言っても何かをするわけでもなく、庭でニワトリとたわむれたり井戸水で行水したり、出掛ける私の後を付いてくるだけ(護衛)。


 さすがに、私も『役立たず』とののしりたくなる。

「あのねはくさん、私の教育係なら何か教えてくれないと。このままだとタダのストーカーだよ?」

「すと?俺は師匠に目を離すな!としか言われてないからな。逆に聞くが、何を教えればいいんだ?」

「それを考えるのが守役なんじゃないの?」

「ふむ・・・・しかり・・」


シュッ カツッ

私の右側、顔すれすれの位置を、何かが飛んできた。

「!!」

地面に突き刺さる

身体が固まり、冷や汗が出てきた・・・また狙われた?


伯がその矢を抜き取り、しげしげ観察している。

「ほう、そうきたか。よし!決まったぞ、けん稽古けいこをつけてやる」

「へ?なんでいきなり?」

「この矢、師匠のものだ。ここに刀の焼き印が付いてる」

そう言うと矢の焼き印を見せられた。


「師匠のしのびが使う伝達の一種だ」

「伝達?暗号みたいなもの?てか、忍者ってホントにいるの?」








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