第14話 野武士と浪人

 蕎麦屋そばやの娘と同い年だった。蕎麦を運んできた娘と会話が弾む。

「お客さんたち、このあたりじゃ見ない顔だけどたびかた?」

「ううん、最近近くに引っ越してきたの。顔見知りもいないし、よろしくね!私のことは、まりって呼んで」

だしの香りが食欲をそそる。


「こちらこそよろしくね。私は、さき。皆、おさきちゃんって呼んでくれるわ。としが同じ人なんて滅多に出会えないのに、これも何かのえんね」

そのあとは、好きな物・特技・恋バナで盛り上がった。


「話が弾んでるとこ悪いね、おさき。店が混んできたから、仕事してくれないか?」

「あ!ごめんね、いま行くわ。まりちゃん、ゆっくりしていってね」

お武家さんや商人風情しょうにんふぜいの客が増えてきた。


「うん、ありがと。でもそろそろ『おいとま』するね」

隣りの席の侍と、楽しげに会話をしていた母が振り向き

「もういいの?じゃあ、お勘定お願いね。さきちゃん」

「まいど!かけそば16もんなんで二つで32文です」


五円玉みたいな小銭が32枚?昔のお金って重いから小判と銀貨ぎんかしか持ってきてないし・・・母に任せよう

「小銭持ってないから、これでいい?」母も銀貨を出した。(細長い干しなまこのような形をしている)


「え?おつりが・・・・」

「ごめんね、おつりはいらないわ。まりと仲良くなってくれた御礼もあるの」

さきの手に銀貨を握らせると、私と母は店を出た。

「また来るね!」


 2人が店を出た後、さきは調理場の父親の元に駆け込んだ。

「父さん!かけそば二杯に銀おいてったの!あの人たち何者?」

「良かったじゃないか、良い御贔屓ごひいきさんが出来て。あとはお前に良い嫁ぎ先が見つかれば、この店も安泰だよ」


 蕎麦屋からの帰り道、大工町の雷神様らいじんさまへ行くことにした。(だって八幡宮がないんだもん)

参拝を済ませて鳥居をくぐり抜けたとき、数人の薄汚うすよごれた落武者みたいな侍に囲まれた。

「!!!なっ・・」


びた刀を引きずりながら、じりじりと近づいてくる。私と母は肩を抱き合いながら、後ずさりする。

うつろな目で無言のまま悪臭をただよわせ、一瞬でも隙を見せたら襲い掛かってくる。


「何が目的なの?金?命はあげないわよ!」精一杯の虚勢きょせいを張る。

落武者の1人が何か言おうと汚い口を開けた。

ビビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

耳をつんざく高音が鳴り響いた。

「「ギャーーーーーーーーー」」おもわず私も叫んだ。

母の手に防犯ブザーが握られている。


落武者たちは点でんバラバラに走り回り、ぶつかり合い足がもつれ転んだりしている。

ピウ

「ふう・・」ブザーを止めたらしい、緊張感がドッと萎えいだ。

「あははははははっは」

今度は笑い声だ。


 私たち親子の後ろにある燈籠とうろうの陰から、身ぎれいな浪人ろうにん?が出てきた。

野武士のぶしども、俺が相手だ。俺に勝ったら女たちは、お前らにヤルよ」

カチャ 

スラリと刀を抜く。


「うおおおおおおおおお」ガチャガチャガチャガチャ

落武者たちが一斉に浪人に襲い掛かっていく。浪人は私たちから離れるように真横に移動した。

 

 動きが速い!綺麗!

刃物をタダ振り回している野武士たちとは違い、流れるような、、例えるなら舞踊ぶよう?神社の神楽舞かぐらまいのような刀さばきで、次々と汚い野武士たちを、仕留めていく。


 見入ってしまった。

「お前ら!まだヤルのか?命が惜しけりゃ、サッサと消えろ!」

勝敗が決まったようだ。

刀傷かたなきずだらけの野武士たちは、はたき落とされた刀を拾いながら、バラバラに神社から去っていく。


「あの・・・どなたか存じませんが、助けてくださりありがとうございました」

「あああ、そうだった。ありがとうございます」

刀の汚れを懐紙かいしで拭き取っている浪人に、御礼を言った。


「助けた?馬鹿言うな、獲物えものを横取りしただけだが?」

そう言うと浪人は、値踏ねぶみするように近づいてきた。

「「横取り?」」


 母が防犯ブザーのピンに指をかける。

「ババア!そのうるせーの鳴らすなよ。あんた、大殿の娘だろ?師匠に頼まれて、あんたの守役もりやく引き受けたんだよ」

バシっ

貴方あなた護衛ごえいなの?ババアは依頼人に対して無礼よ!」

母が浪人の後頭部を扇子せんすで叩いた。

「ママが依頼人?」


「そうよ、覚兵衛さんに頼んでおいたの。護衛をつけてって。何時いつああいう物騒ぶっそうな奴らに会うかわからないからね。私も貴方に会うのは初めてだけど・・」


母が浪人を覗き込む

「あら、イケメン」

私も浪人の顔を見た。きれいな顔してるーーー

「初めまして、まり・・・万姫です。これからもよろしくお願いします。」





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