第13話 水戸八幡宮

 玉子焼きで味をめた光圀公は、母に城の料理人たちにレシピを伝授するよう懇願こんがんしてきた。

 母も令和の調理師である。「タダでは教えられないわ」と、棒禄ぼうろく(給料)を要求していた。


どこかで聞いたことがあるような展開だけど・・・・・


 母が職を手にしたことで、私たち親子は食い扶持ぶちをつなぐことが出来た。

上市下市じょうかまちでの買い物が楽しみだ♪)


 水戸市内には、いつごろから言われるようになったのか不明であるが、水戸駅の北口から国道沿いの商店街を『上市うわいち』と言い、南口から備前堀周辺を『下市しもいち』と言う。


 水戸藩の財政は厳しい状況だったはずだが、とある豪商から年貢ねんぐの代わりに納めてもらった献上品を私たちが貰ったらしい。


玄関前の山積みされた品物に驚愕きょうがくした。待機していた役人さんが、色々説明してくれたが改めて光圀公の身分を実感させられた。

 

ニワトリが庭で地面をついばんでいる。

高床式たかゆかしきのニワトリ小屋作らないと、いけないわね」

「・・・・卵かけごはん・・」(おっといけない、よだれが)


 翌日、ニワトリ小屋の材料を買い出しに上市へ出掛けることにした。

大工町だいくまちは名前の通り大工さんが多く住んでいたのだろうか。令和は繫華街になってるけど・・・


 町屋敷では木材より竹材の方が売られていた。ホームセンターなんてあるわけないか・・・仕方ないですね。

物置の一部屋ひとへやをニワトリ部屋に提供しよう、卵かけごはんのためだ。


 せっかくだから水戸八幡宮みとはちまんぐうに参拝しようと足を運ぶ途中、町屋敷の一角で人だかりが出来ていた。

好奇心から、母が人をかき分けて覗き込んでみた。が、青白い顔で直ぐに戻ってきた。


「どうしたの?何があったの?」

「辻斬り《つじぎり》ね、夜中に襲われたのかもしれないわ。私たちも襲われないように、八幡さまに安全祈願に行きましょう」


 八幡宮への道を歩きながら、辻斬りについて母が詳しく教えてくれた。

平和な時代のはずの江戸時代に、刀の切れ味を試す為だけに人を斬りつける人間がいるなんて・・・。いくら身分が高いからといっても、無抵抗の人を傷つけるのは納得できない、どんな理由があろうと。


 平和とは?などと考えながら、八幡宮へ歩いていたはず・・・・・

「八幡さま無いよ?」

「あら?確かこの辺りよね?」

母もキョロキョロしている。

「ちょっと誰かに聞いてみようか・・・・」


 小さな蕎麦屋そばやの店先で、掃き掃除をしている町娘にたずねてみた。

「すみません、ちょっと聞きたいことあるんですが」

「いらっしゃいませ」

「この辺りに八幡宮があったと思うんですが、ご存知ですか?」


キョトンとした顔で、首をかしげる。

「私は詳しいこと知らないですが、父なら知ってるかも!ちょっと待っててください」

そう言うと店の中に入っていった。


2~3分くらいで町娘が出てきた。父親らしき人もあとから出てきて

「八幡さまなら、大殿様が別の場所に移したよ」

「移した?何で?どこに?」

「さあね、場所までは知らないよ。それより、蕎麦は食べるのかい?」

母と顔を見合わせて、『どうゆうこと?』目で会話した。


ぐう~~お腹が催促さいそくする。

「お蕎麦もいただきます」






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