第11話 万姫誕生

 結局、三木さん家は警察署でも見つからなくて、妙子の家で面倒見ることになった。

この頃は、まだ妙子の母も健在で「男手おとこでができて助かるわぁ」と喜んだ。


 光圀の好奇心は、時代を超えてもひるむことなく発揮され、特に書物を読みあさり知識を習得していった。


 剣の腕前は、幼少期から新陰流しんかげりゅう柳生指南役やぎゅうしなんやくに叩き込まれ、後に水戸藩真陰流みとはんしんかげりゅうという流派を立ち上げることになる。



「ひかるは、子龍にとてもなついてね。ホントの親子みたいだったわ」

「だって、可愛いかったんだよぉ」

そう言うと光圀公はいとしそうに目を細めて、ひかるに手招きする。


 ひかるは、おずおずと近づき目の前で正座する。

光圀公はひかるの頭の上にポンと手を置くと、わしわしと撫でる。

 

 急に子供のように頭を撫でられ困惑顔になるが、イヤではなかった。

それに遠い記憶の中にかすかな覚えがある。

「・・この撫で方、覚えてる・・」

「大きくなったな、母さんを良く守ってきた。ありがとう ひかる」


 お礼を言われ、うれしい反面こそばゆいような、もぞもぞした気持ちになった。

物心ついたころから、自分たちには父親がいないことを不思議に思っていたが、それを母や祖母に聞くのは気が引けていた。


 中学生のとき、祖母が他界してからは尚更なおさら、自分が母と妹を支えていかなければと思うようになり、就職に有利な工業高校に進学。

在学中に、高校生でも取れる資格を片っ端から受けて、学科で専攻の無い試験勉強はバイト先のガソリンスタンドの先輩に教わった。


 いま目の前に自分をほめてくれる人がいる。

ほんの少し、自尊心をくすぐられた。


「兄貴だけズルい!私だって撫でてもらいたい」

ひかるの隣に並んで座り、期待を込めたきゅるんとした眼差しで光圀公を見つめる妹。

「まりも可愛いなぁ、そうだ!大人になったんだからミドルネームをつけないと・・・まり姫・・・ンーーー・・・皐月姫・・・・違うな・・・万姫まんひめ・・万姫が良いな、決まりだ」


そう言うと光圀公は、まりの頭を撫でた。

ひかるには、妹にあるはずのないケモ耳とフサフサの尻尾が見えたのだった。



 ところで、大広間の隅で親子の感動の対面を、ジッと聞いている覚兵衛かくべえさんを忘れてはいませんか?


 覚兵衛さんは、何年も前から光圀の神隠しの話しを聞かされていました。

だから未来の人間があらわれても驚きません。


光圀と一緒に旅にも行きました。(鎌倉辺りまで)西洋人も見たことあります。


『大日本史の編纂』という大義名分を掲げて、


拉麵らーめん食べたいから清の国から来た儒学者を連れて来い。とか


穂積甫庵ほずみほあんに家庭の医学「救民妙薬」を書かせろ。とか


水戸城下町に水道を作れ。とか


数あまたの無茶ぶりをされました。


女好きで放蕩者ほうとうものの光圀でしたが、なぜか領民には慕われております。


 覚兵衛は襖をへだてて、待機している人物に指示を出す。

弥七やしち

「はっ!」

「姫さまたちの屋敷に例のものを」

「すでに運び終えております」

「さすがだな、仕事が早い」













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