第10話 かぶきもの光圀

 母から聞かされた内容は、にわかに信じられないほどの話だった。

18年前、光圀公が現代に時空間転送タイムスリップして来たなんて・・・


 

 光圀は10代のころ、自分の生い立ちや跡継ぎとしての苦悩・しがらみ・周囲の期待に自暴自棄になって非行に走っていた。

「俺のことなんか誰も理解してくれないんだ!」


 幼少期を水戸藩の家老かろう 三木仁兵衛之次みきにへえゆきつぐの家で育った光圀は、江戸の屋敷に引き取られてからも

度々、三木家に来ては愚痴ぐちをこぼして鬱憤うっぷんを晴らしていた。


 そんな18才のある日、さんざん水戸城下の遊郭で遊んだ後、家老の仁兵衛にへえに小言を言われ、反抗的な態度で家の蔵の中に引きこもった。


 長持ながもちの上にどっかりと座り、脇差わきさしでゴリゴリと足元の床板を削り気持ちを鎮めていたとき、不思議な物を見つけた。

 は暗闇でもキラキラと光を放ち、好奇心を刺激され、傾奇者かぶきものと名高い光圀には宝箱にしか見えなかった。


「何だこれは・・どうやって開けるんだ?」

鍵穴も無く上下左右の無い正四面体の、光るはひんやりとしていて軽い。


ガツン

蔵の外に持ち出して、庭石に叩き付けてみたがびくともしない。

それならばと、刀を突きさしてみたが、傷一つ付かなかった。


「おまえも俺を馬鹿にしているのか!!」

宝箱に向かって刀を振り上げた次の瞬間、稲光いなびかりが光圀を包んだ。



 気を失っていたのか、ぼんやり目を開けると目の前に見知らぬ女の顔があった。 雷に打たれたはずの光圀の身体は、火傷もしていないしかすりり傷ひとつなかった。

横たわる自分を覗き込む見知らぬ女の、服装すら疑問に思う余裕がないくらいぐったりと倒れこんでいた。


「大丈夫?こんな所で寝てると風邪ひくよ」

女の発した声で我を取り戻し

「・・!!誰だ お主は!いつの間に屋敷に入ったんだ!」

「屋敷?ここ神社だけど?」


「は?神社だと?何を馬鹿なこと・・を・・・」

目を見開き、飛び起きた光圀は周囲を見渡して愕然がくぜんとした。


三木家の庭にいたはずの光圀は、小さな神社の前に倒れていたのだ。

「神社・・?」

「そ。水戸黄門神社、小さいけどね」


 訳が分からず、頭を抱えてうずくまる。

時刻は黄昏時、迷子のような姿の光圀を心配して女が声をかける。

「ほんとに大丈夫?病院いこうか?」



 これが二人の最初の出会いだった。

この時の光圀の格好は、ざんばら髪(ふぞろいのロン毛)を頭の後ろで一つにして、紫色の組み紐で結んでいる。

 来ている着物は、江戸小紋の紫色(ピンク色に近い)。黒っぽい帯には金色の刺繡が施され、見るからに高そう。


 路肩に座り込むと光圀は

「おい女!ここは何処どこなんだ?仁兵衛はどうした」

ぐったりしてた割に偉そうに話しかけてくる。


「私は女と言う名前じゃないわ、妙子よ。あなたこそ名前は?」

「知らぬやつに、むやみに名など名乗らん」

綺麗な顔立ちをして若そうなのに、言葉使いが傲慢ごうまんだ。


「そーーですか!では、お元気そうなので、これでさよなら」

プイっと背を向けて、立ち去ろうとすると

「おい!待て!女!・・・・ぐっ・・・・・たえこ・・・・・どの」

ものすごく悔しそうな、でも困り果ててどうしようもないって顔をして妙子を呼び止めた。


「あーーーう」

歩道に停めていたベビーカーの中から赤子の声がした。

「ひかる、お待たせ」

ベビーカーからひかるを抱き上げると、キャッキャッと声をあげて喜ぶ。


「何だ?お主、赤子がいるのか?」

「愛息のひかるくんです」

光圀にひかるの顔をみせると、ひかるが手を伸ばして光圀のほうに行こうとする。


「だめよひかる、野良犬に近づくと嚙みつかれるからね」

「俺は犬ではない!」


「で?あなたの名前は?何でここに倒れてたの?」

ひかるをあやしながら、素性を聞き出すことにした。

「俺の名は、子龍しりゅう














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る