第9話 光圀公

 かごに乗るか?と聞かれて母と私は喜んで乗ってみたが、あまりの乗り心地の悪さに途中で降りた。(用意してくれたのにごめんなさい!)


今はひかると並んで歩いている。

「ママは、よく平気で乗ってられるよ」

「乗り心地より好奇心が勝ってんだろ、まるで子供だな」


 籠に揺られながらも、はしゃいでいる母を見ていると先ほどの光景が気になって仕方がない。

母とご老人が仲良さそうに話す姿がどうしても気になる。


「それより、ママとあのおじいちゃん知り合いみたいだったけど、何で?ありえないんだけど」

「さあね、俺にも分からん」


 いくつもの門を通って、見覚えのある大手門に着いた。令和と場所が少し違うけど。

この先は行列も入れないらしく、数人の家臣と私たちだけになった。


 本丸御殿ほんまるごてんに着くと更に家臣の人数が減り、玄関?とにかく広い入り口の前でひざまずく、黒塗りの箱からおじいちゃんも降りてきた。

「どれ、中で待っておるぞ」

おじいちゃんはそのままデッカい玄関から入って行った。


 私たちは、そこからは入れないらしく少し歩いて、客用の玄関から入った。

大広間に案内されてふすまのそばで躊躇ちゅうちょしていると、ふすまの前に座っている家臣の一人が


「大殿様の御成おなりです、座敷の中ほどで着座して、頭を下げたままお待ちください」

と教えてくれた。

(ありがたいです、女子高生は作法なんて知らないから)


 言われた通りに正座して頭を下げたまま待っていると、何やら襖の向こうで言い争うような声が聞こえる。

「父上、ここはわたくし引見いんけんいたしますゆえ。」

「お主は忙しかろう?わしの客だ、わしが会うからお主は下がっておれ」

「しかし・・・・」

「うざい」


音もなく上座かみざ横の襖が開いた。

「ほっほっほ、これ覚兵衛かくべえ。そんなにかしこまらさせなくても良いだろう」

部屋の一段高くなっている所の座布団に、おじいちゃんが座る。

(このおじいちゃんが藩主の殿様なの?)


「ふむ、皆 頭を上げなさい」

私たちは、頭を上げて前を向いた。

「覚兵衛、人払いを」

大殿様がそう言うと、覚兵衛さん以外の家臣たちは部屋を出て行った。


「さて、人も居なくなったことだし足を崩してリラックスなさい」

「では遠慮なく・・・」

母が横座りになり、私に目でokの合図を出してくれる。


 三人がリラックスしたところで、大殿様がニコニコと話し始めた。

「何から話そうか?自己紹介が先かな?」


子龍しりゅう、まずは私から話しをさせて」

そう言うと母は、大殿様の隣に座った。

「まりには、ずっと噓をついてたけど・・貴女のお父さんは、ここに居る光圀公なの」

「・・・は?ママ、認知症ボケるには早すぎるわよ?」


「信じられないわよね。でも、ホントのことなの・・あれは、18年前になるわね・・・」

ウンウン♪と、うなづく大殿様

「わしには40年前だけどね」ウインクされた・・・


母は私が産まれる前の、母と大殿様の出会いを話し始めた。



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