第7話 ちょんまげ頭

 お城に入りたがる母をあきらめさせようと、兄と説得するが全く諦める気がないようだ。

母は、門を汚せば城に入れると思ったようで、落書きするだの生卵を投げるだのと言っている。

犯罪行為だからね、よいこのみんなは絶対やらないでね。


三人でギャアギャア騒いでいたら、カタンと門の脇戸わきどが開いた。

顔を出したちょんまげさむらいがこちらを見て固まっている。


 母が素早く動いてさむらいに駆け寄り、にっこりと微笑ほほえんだ。

「あのー、門の中に入れてもらえないかしら?あやしいものではございません」

「み・・見るからに怪しいやつ!下がれ!さもなくばる」


カチャリ

腰の刀に手を添えて、さやから引き出そうとしている。

(ぜったい竹光たけみつじゃないよね、切れ味抜群の真剣しんけんだよね?)


ヤバいヤバいヤバい・・・・・

「もーし訳ありませんでしたぁぁぁすぐに立ち去りますううううううう」

兄と2人で母を掴んで一目散に走り出した。


 塀の角まで逃げてきたが、侍は追いかけてくる気はないようだ。

「もう!斬られたらどうするの?」

「どう見ても・・怪しい・・やつだよな・・」

運動不足のひかるは息が切れてしまったようだ、座り込んでいる。


「お侍さんだって、むやみに斬らないわよ」

「めっちゃ斬ろうとしてたけど?」

心臓のドキドキが止まらない!


「と・に・か・く これ以上は無理だ、今日はとりあえず帰ろう」

ひかるは羽織の土汚れを払いながら立ちあがる。


「そうねぇ、すぐにはお城に入れないみたいだし・・」

つまらないって顔をする母には申し訳ないが、こんな思いするぐらいならお城なんて入れなくていい。


 帰り道、カツン カキーン と、どこかのお屋敷から木刀ぼくとうで打ち合う音が聞こえてきた。

「ねえママ、江戸時代っていくさの無い時代だよね?」

「ウーン・・戦国時代に比べると無いかな。あら、神社とお寺は令和と同じ場所に有るのね。迷わないで済むわ」

(戦が無くても、剣の稽古はしないといけないのか。昔の人は大変だね)

 


 翌日の朝、竹刀しない木刀ぼくとうを持って外に出て一年ぶりに素振りをした。

「いち・・に・・いち・・に・・」 残心《ざんしん》

一振りごとに心を残す


 早朝そうちょうんだ空気に感覚がぎ澄まされたのか、離れたところに人の気配を感じた。

振り向いて目を凝らしてみるが、何も見えなかった。

(気のせいかな?お腹空いたし朝ごはんにしよーっと)


 朝食後、一晩たって気が付いたことを兄のひかるに聞いてみた。

「あのさ、兄貴に昨日聞いてなかったんだけどさ。すぐに令和に戻るんじゃないの?」

「ん?ああ、すぐには無理だろうな。条件がそろわないと。数か月になるか、数年になるか」

「はあ?そんなぁ・・・」


 ひかるはクッションを枕にして床に寝ころび、お気に入りのラノベ小説を読んでいる。

「未希と遊びに行く約束してたのに・・学校だって!単位落として留年なんていやだよ」(未希、連絡つかなくて心配してるだろな)

「かみのみぞしる」


のほほんとした態度にムカついた

「バカ兄貴」

ラノベ小説を叩き落し、腕ひしぎを仕掛けた。

「ギブギブギブぎーーーーぶ」

ダイニングテーブルでお茶を飲みながら母は、他人事ひとごとのように兄妹喧嘩きょうだいげんかながめていた。

 

 午後になり、井戸から水を汲み上げ浴槽に運ぶ作業をしていると

「たのもう」

中年男性の声が聞こえた。

何を頼まれるのかと思い見に行くと、ちょんまげ頭の侍が玄関前に立っていた。

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